青山雨子「爪」 | 新サスケと短歌と詩

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短歌と詩を公開します。

青山雨子さんの第1詩集「階段のさき」(2008年、紫陽社・刊)より、以下の作品を紹介する。作者の諒解は得てある。


  爪

    青山雨子


東の空に朝焼けを浮かべながら

昇る月


体から落ちた髪の毛が

うまく拾えないのは

空の長さが

まだ足りないからだ


豆腐の葱を切って

流しの排水溝の中に落ちていく

葱の白い根を拾おうとしても

摑めないのは

空が少し足りないからだ

死んだ母は空にいる


母の体は火葬場で軽石のようになった

頭も骨も何もかもなくなって

母にはもう爪がない

爪がないのだから月はもうのぼらない


月のない空に映る背中の影


白々と夜の空が伸びる