青山雨子(あおやま・うこ)さんの詩集「階段のさき」から、以下の作品を紹介する。
花
青山雨子
家の畑に黄色い草花
花は盛りで
咲いた花の裾から つぼみがたくさん
裃を着けた老人が通る
手には新酒が一升
行き先は社
村をお守りくださいと
鳴らしている鈴
ミツバチたちが蜜を吸う
ハサミを持った私は
花に手をやる
もう一方の手には
切られた花がたくさん
若いあなたは仕事をしていないんだから
母さんに花を
それくらいできるでしょう
と村人は言う
閂をはずして開けた仏壇に一週間前の花
乾いた花びらが落ちる
花の亡骸が座敷を通る
代わりに台所に水桶 新しい花
小皿に残る白い大根の漬物
は 私の食べかけ
花は咲いているだけ
何もせずに 空を見て咲いているだけ
尽きるまで ただ咲いているだけ