これはある工場で実際にあったはなしです。
その工場では、荷物を入れる箱を黒に変更しました。すると、それまでと荷物の重さも量も同じなのに、疲れを訴える作業員が続出し、以前よりも作業効率が悪くなったそうです。
調べを進めたところ、どうやら箱の色に原因があるのではないかと気づきます。黒の箱と白の箱では、実際の重さに比べて、人が感じる「心理的な重さ」が大きく異なっていました。そこで、箱の色を明るい灰色に変えたところ、作業効率が以前と同じレベルに戻ることになったのです。
たかが箱の色で、作業効率が変わるなんて、ちょっと信じられないかもしれません。アメリカの大学で行った研究結果を紹介しましょう。
研究チームは、実際の重さを100として、色によって感じる心理的な重さを測る研究を行いました。その結果、「白=100」に対し、「黒=187」と、1.8倍も重く感じることが明らかになったのです。先の工場の例でも、1個の荷物を運ぶのに、実際より1.8倍も重く感じるのであれば、作業員が疲れるのも無理はありません。
重さだけではありません。商品の価値も、白色と黒色では大きく異なって感じます。
昔、携帯電話が登場したばかりの頃は、電話機本体の色はすべて黒でした。あの頃の携帯電話は、大変高価な品物でした。一部のセレブやビジネスマンが所持する、高級アイテムだったのです。そのため、電話機本体の色を、あえて黒くしたというはなしもあります。
黒は高級感をイメージさせます。黒塗りのハイヤーと、カラフルな色のタクシーが一緒に走っている様を想像しても、それは理解できるはずです。黒塗りのハイヤーの方が、明らかに高級でフォーマルな感じを与えます。
一方「白」は、軽さ・カジュアル感を感じさせます。もし、携帯電話が発売当時、本体の色が白色であったら、ひょっとしたらこれほど一般に広まらなかったかもしれません。黒だからこそ、高価なアイテムという価値が生まれ、それによってブランド化され、一気に普及することになったのですから。
色には重さがあり、価値がある。この原理は、マーケティングや、商品開発でも応用できそうですね。