京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。
こんにちは、このブログではイラストレーター・米光マサヒコが気紛れに落書きを発表しています。
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しなやかな静寂

ズバン!

乾いた破裂音がヤスダ ダイスケのミットに収まる。
今シーズン中でもそうそう聞くことの無かった鋭い破裂音に
ワイルドウルフの若き正捕手ヤスダはシビれていた。

やっぱり、クロカワさんは凄い・・。
しかも、今日はいつもより球に勢いがある。
うん、これならホーンと勝負できる!

既にカウントはツーナッシング、追い込まれたトミーホーンはそれでも余裕の構えを見せている。

これが元メジャーリーガーの貫禄か・・。

ヤスダは腹をくくった。
いや、ヤスダは腹で決めるタイプのキャッチャーではない。
この大胆な選択はあくまでヤスダの冷静で緻密な分析の結果だった。
今日のクロカワの鋭い球威ならトミーのスイングスピードを超えられる。
大学時代、ドイツで運動生理学を研究していたヤスダのエキセントリックな判断は何度もこのチームを救ってきた。

トミーの最も得意とする外角やや低めに静かにミットが添えられる。

マウンド上、クロカワが振りかぶる
ほんの一瞬、静寂がスタジアムに訪れたような錯覚を観客は感じた。
それほどまでに静かで、速く、美しいモーションだった。
ボールがしなやかな指先から離れるほんの一瞬、ヤスダの目はクロカワの変化を捉えていた。

つづく。


$京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。-ワイルドウルフ正捕手ヤスダダイスケ




・ストーリーをはじめから見る。

・ミドリカワFC編はここから。

・ナイトルージュ編はここから。

泥の箱船

「失礼します」

わざとよそよそしいノック音をたててから、クロカワミユキは監督室に入っていった。
監督に呼ばれる時は、決して良い話ではないし、ましてや野球の話ですら無いことを
この2ヶ月で彼女は悟っていた。

前監督、ヤナギダ ハルノブが健康上の理由で突然辞任し、
その後任としてオーナーが指名したのが、2軍コーチだったコンドウ ノブオである。

なぜ?

この抜擢にチームは少なからず動揺した。
しかし、シーズン終盤を迎えリーグ首位を独走しているチーム状況から
声を上げる者は居なかった。
そしてゆっくり、ジワジワと誰も気付かない奥底から何かドス黒い変化が始まっていった。

「クロカワなぁ、チョップス戦なぁ、ちょっと、アレしろやぁ、」

「は?」 

クロカワ ミユキは一応理解できない〝フリ〟をした。

「母親がなぁ、アレじゃ大変だわなぁ、
あんな特殊な治療薬はウチの親会社でないと、なぁ、アレやわなぁ、
来期の契約のコトもあるんでなぁ、・・まぁ、ホーンズの第二打席あたりでアレしろやぁ、」

監督が交代してからクロカワが監督室に呼ばれたのはこれで3回目だった。

「今回もまた八百長しろとおっしゃっているのですか?」

「そんなことはワシは言うとらん、ただ、アレしろぉ言うとるだけやなぁ、」

すっかりヤニ臭くなってしまった監督室の壁には
コンドウの永久欠番35のユニフォームが、ただ申し訳なさそうに吊されていた。


つづく。


京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。




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決心。


京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。

「さぁ、脳天チョップス、4回表の攻撃は主砲トミーホーンからです・・」

めずらしくテレビ中継されているはなむぐり脳天チョップスの試合は
ワイルドウルフのエース、クロカワミユキを攻略できないまま序盤を過ぎようとしていた。

「さぁ、この一戦、脳天チョップスは勝てばリーグ優勝が決まる大事な一戦、
なんとしてもホームグランドで決めたいところですねぇ、ワタヌキさん」

「ええ~、そうですね」

「さぁ、ところで、この試合はマサダ市長も観戦されているようですね」

「ええ~、そうですね」

地方都市の小さなテレビ局のアナウンサーと脳天チョップス全盛期の名キャッチャーの
冴えない実況の中、場内では今日二回目の歓声が上がる。

「ワーーーン、ツーーーー、トゥリーーーーッ!!!」

場内お待ちかねのどよめきと共にトミーホーンは、バットを三回まわしながらバッターボックスに入った。

マウンド上のクロカワミユキは静かにドームの天井を仰ぎ見た。

「ごめんね、母さん・・・」

つづく




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蜷局

「そろそろヤマキタが金を受けとる頃かぁ、ヒヒヒ」

楼門会会長、コウダカネキヨはまだ観客の入って居ないスタジアムを見下ろしながら不適な笑みをうかべた。
トレードマークのペイズリーのシャツの下は細身ながら筋肉質、細く締まった袖口がいかにも神経質そうな手首に固く巻き付いている。

「しかし、あのタヌキおやじもご苦労なことだな・・
地球がどうだ、環境だとかぬかしておきながら実際、一番大切なのは自分の懐具合とは、
そりゃ、この街もおわりだろ、ヒヒヒ」

ガチャ

「おう、戻ったか」

「はい」

「で、タヌキは出すもん出したか?」

「はい、ここに」

ハナムグリスタジアムのVIPルームに戻ったヤマキタは、
コウダにジュラルミンのアタッシュケースを手渡した。

「あとは、ワイルドウルフのエースピッチャーさんがうまくやってくれりゃぁハッピーエンド、って訳だな」

「ヒヒヒヒヒ」

スタジアムに観客が入り始めた雑踏の奥で、
不適かつ自信に満ちたひき笑いが渦巻いていた。

$京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。





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終焉の宴。

「ヤァ、これはこれは市長自ら申し訳ありませんネェ、」

ホテル・ド・ハナムグリのアトリウムに甲高い声が響く。

「しっ、声が大きいぞヤマキタ君!」

今期からハナムグリ市長を勤めるマサダ イゾウの右手は
誰がどうみても大金が入っているであろうジュラルミンケースを握りしめ
アメリカのB級映画に出てきそうなボディガードを従えたヤマキタ ツグトに近寄っていく。

朝の7時ということもあって、ホテル内に人影は少ないが
昼すぎには、アトリウム中央の大型スクリーン前はヒトでごったがえすはずだ。
今日の試合でハナムグリ・脳天チョップスが王者ワイルドウルフを押さえれば、リーグ初制覇が決まる。
地元プロ野球チームのリーグ制覇が与える経済効果は地方都市ハナムグリにとって計り知れないものだ。
それだけに日頃は野球に興味が無い地元市民も注目せざるを得ない。

「イヨイヨ、やってきましたねぇ、優勝決定戦」

「あ、ああ、まだ終わるまでは、・・・なぁ」

「ハイハイ、市長さまは慎重派でいらっしゃる、
慎重派のペテン師ですナァ、ハッハッハァ!」

響き渡る嘲笑をさえぎるように、マサダはヤマキタにジュラルミンケースを手渡した。
朝の光が差し込むアトリウムに、夜の香りが紛れ込んでいる事に
まだ誰も気がついてはいなかった。


つづく
京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。



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絡み合う疑念。

助手席に天才ハッカー、マルヨシ ツバサを載せたハイエースは
はなむぐり市の幹線道路ハナオカ街道を新市街へ向けて走っていた。

「ねぇ、コーちゃん なんかおかしいんだよね」

「あん?どしたんだYO、 またPCのバッテリーいっちゃった?」

「いや、ちがうんだけどさ、 
ワイルドウルフGMのヤマキタと、はなむぐり市長のマサダの線はビンゴだったでしょ?
でもさ、このコウダ カネキヨって、誰だろ・・」

「さぁなぁ、何でだYO!」

「警視庁のデータベースではさ、
どうもこの3人のプロファイルがまとめてプロテクトしてあるんだよね、
マサダとヤマキタはクロカワさんからの資料もあったしスグに解除できたんだけど
このコウダってのは情報が無いからちょっと時間かかるよ」


ギャワワワーン!

ハイエースがミドリカワ公園に差し掛かった時、
左車線から白いランボルギーニが抜き去っていく
よく見ると、後部座席のオトコがコチラに向かって身を乗り出している・・

パン!

乾いた銃声は一瞬で窓外の景色と共に流れ去った・・。




「おい、ツバサ!!!」


つづく

京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。



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崩れゆく街。

「あ~、もしもし、コーズィっすけどぉ、」

「ええ、マジやばいッスよ、クロカワさん」

「今、警視庁のクラウドなんとかってのにハッキングかけてんズけど
思ってたとおりッスわ、 ってかそれ以上かも」

オボンでの思いがけないクロカワミユキとの出会い、
そのミユキの口にした引退というフレーズが一週間ほど前の出来事に感じる。
クロカワミユキは、翌日の試合に備えて一旦宿舎に戻った。
その後、クロカワトシユキはコーズィにある「仮説」を投げかけた。

「ははぁん、まったく無しって話でもないッスね・・・」

「ともかく、お互い出来る限り情報を集めてみよう
オレにもその道に顔の利く友人がいるんで、そっちを当たってみる
日が昇る頃には連絡できると思うよ」
そうして、クロカワトシユキはレイコの元へ向かったのだった。

夜の香りのするタウン情報誌のフリーライターと
裏街のクラブ「エコー」に集うクセの強い連中の辿り始めた道は
徐々に一本にまとまろうとしていた。

「マジ、サイテーじゃん、あのマサダって狸・・・」


つづく

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・ナイトルージュ編はここから。

淡いブルーの口づけ。

寝室の窓の外がうっすらとブルーに染まり、
高級マンションの高層階にあるレイコの部屋には、都会の喧噪よりもほんの少し早く朝が訪れた。
ボンヤリとにじむ昨夜の記憶を思い返しながらレイコは目覚めた。
目覚めたというより、正確には少し眠っていただけで身体の感覚はほんの数時間前の熱を帯びたままだった。
ベッドのうえにはもうクロカワの姿が無い。
シャワー?
いや、彼の行動パターンはレイコが一番良く知っている。
男という生き物はどんな環境でも基本的な行動パターンをなぞってしまうものだ。
クロカワはこのタイミングでシャワーを使うことは無い。

「ありがとうね」

クロカワの体温を残したシーツの上には
几帳面な筆跡で書かれたメモとナイトルージュの甘い香りが残っていた。


つづく

京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。



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朝の笑顔。

この春から息子が小学校に行き始めた。

朝は集団登校なので、近所の子供達が班になって登校。
息子の班は集合場所からウチの前を通り、10分ほどで学校に着く。
せっかく前を通るので、家族総出で見送ってやる。
通りに面したガラス張りの仕事場から、

「いってらっしゃ~い」

--もちろん息子は笑顔で

「いってきま~す」

そして一行はゾロゾロと僕らの前を通り過ぎる・・。
ん?あれれ?
他の子供達の顔を見るとみんな下を向き、なんだか楽しくなさそう・・。
まぁ、朝はみんな忙しいからなぁ、
せかせかと準備をして、当たり前のように軽くお母さんに見送られるんだろう。
確かに、ボクの子供の頃もそんな感じだったし。

でもねぇ、朝のテンションは大切だよ。
一日の始まりだし、せめて笑顔で歩こうよ。

ということで、翌日から息子の班の子供たちみんなに「いってらっしゃ~い」を言うことにした。
最初は(なに?この大人?)みたいな目でみられていたけど
今朝は3人の表情がやや笑顔に。(戸惑いながら)

ボクは人見知りなので、スルーされるとココロが折れそうになるけれど、
「いってらっしゃ~い作戦」はとても大切な気がする。
子供達の明るい一日を作るため、
無関心な大人の多い世の中に対するささやかな抵抗として、
こんな大人が居てもいいんじゃないかな。

と思いながら、明日もボクの戦いは続く。


京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。


夜明けのディスタンス。

「・・・で、 何があったわけ?」

小説家クジョウ レイコは、不機嫌な様子を装いながらクロカワを部屋に入れた。
時計はすでに明け方の4時になろうとしている。

無言のまま、不意に照明を消したクロカワに、
レイコは懐かしい記憶がよみがえりそうになるのを必死に押さえていた。
クロカワとここで暮らしていたのはもう5年も前のコトだ。
破局してからも、二人は曖昧な関係を続けていたがこの1年はお互い環境の変化から
距離を置いていた。

クロカワはフリーライター、レイコは小説「あなたをすすらせて」で鮮烈な文壇デビュー。
物語の中で愛に溺れる主人公「REIKO」、そして彼女が愛したホスト「TOSHI」は
もうここには居ない、   はずだった・・・。


つづく。

京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。



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