強がりのなかに見るわずかな弱さ
明るさのなかに宿す秘められた運命
一見戸惑う行動に託した思いやり
こういったものの積み重ねだったでしょうか。
筆者のような“モテない君”だと、いや、“モテない君”だからこそ、実生活の中でもこのような感覚を持ち合わせていたりするものです。「恋バナは他人のそれを茶化す方が面白いわぁ
」ではあっても、どこかにはきっと寂しさもあって、それを日々埋め合わせながら暮らしている…。この舞台の設定とはちょっと違うのだとは思いますが、ひとの行為に根差した感情の数々が、そこでは解放されていきました。
さて、日付がずいぶんと経ってしまってからの稿となり、申し訳ございませんm(_ _)m
9月のいわゆる“シルバーウィーク”の最終日にあたる、26日は日曜日。久々の下北沢への出動は、こちらの舞台「目にすることなき風景」。その千穐楽、“きゃべつさん”こと小野里茉莉さんご出演のpoolチームの5公演目であります。
引き続き、“ぶたい”のほうの「おめあてな方」は“当日記への前回ご登場がコロナ禍以前”でして、茉莉さんの前回はこちらの「ホテル・ミラクル7」と、およそ2年ぶり…
(2019年10月6日@新宿)
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このときは、妖艶な雰囲気の短編集の中で豚の着ぐるみを着用され、最もコメディに振った役柄でのご登場。フライヤー詐欺とかおっしゃってましたっけ(笑)。
そして、場所はというと、こちらのハーフムーンホール。
当日記でも何度か舞台になった場所ですが、えんげきの舞台としてはお初。その名の通り半円形のコンクリート打ちっぱなしというシンプルな空間。ぶたいには椅子が4脚並んでいるのみ。シチュエーションを示す画は、最初のフライヤーに描かれた船の航跡だけと、想像力に頼る世界です。
小さな島で、すでに両親が他界したお兄さん・妹さん・弟さんの3人きょうだい起こるできごとをメインに進んでいく物語。このうち、お兄さんは東京からふらりとふるさとのその島に戻ってきたという設定。妹さんはまぁ普通のひとながら、弟さんはちょっと引きこもり気味。その理由が、母親の他界について知らされず、お別れができなかったことに端を発しています。
しかし、それはお兄さんの気遣いでもあったわけで…。「綺麗なところしか見せたくない」という母親の希望に沿ったゆえのすれ違い。椅子が4脚だけというこの舞台では、このきょうだいに関わるひとびとそれぞれに、気遣いや弱さ、そして宿命があり、それらはあえて伏せていたり、また逆にカミングアウトしてみたり。物語が進んでいくにつれて、それらは深みを増してきます。
いや、物語が進む…という点でいえば、お兄さんは帰郷の時点ですでに不治の病に侵され、本当にある日突然亡くなるという、いわば死に場所としてふるさとの島を選んだところくらい。本当にいろんなひとの想いが交錯し、何気ない日常が突然想い出の中に封じ込められてしまう不条理にも遭遇しながら、その積み重ねでじんわりと感情を揺さぶられていくのが、この舞台の核心のようです。
懇意にしている商店主に、弟さんの就職を唐突に、そして猛プッシュするかのように依頼するお兄さん。少々荒っぽいけれど、見た目とは裏腹に「あとは頼む」というやさしさの現れ…
そして、その商店でバイトをしている男の子とその彼女への気配りも、このお兄さん、確かです。
東京の高校へ進学したはずの女子高生エリが、都会の生活になじめずに、お母さんと一緒に島に戻ってきます。
最初はやっぱり身構えているエリ。「なじめなかった…」と落ち込んでいる上に、一度は離れた土地ですから、そうなるのもやむを得ない。。。しかし、この3きょうだいや、そのまわりの人々のあたたかさの中で、徐々にほぐれてきます。本当に少しずつ、でも確かな歩みで。
そして、おめあての茉莉さんが演じるのは、“カメラ女子”のコン。いや、駆け出しの写真家かな。島が募集した企画で来島。このきょうだいに別々に遭遇し、夜にはお世話になる宿で全員と一緒になります。こちらのシーンは、見た目いかにも楽しげ。そして、お互いに秘めている“その先は長くない”という運命を明かしてからは、より深く島に溶け込んでいきます。ただ、それが「最高の家族写真を撮る」という形に昇華するのは、夢の中で…ですけれど。
(当日記前回のちょっとぶっ飛び加減のお姿とはまた違って、ピュアにさわやかでかわいらしいカメラ女子でした)
現実になっていくもの。現実にはなれなかったもの。
そのいずれにも、関わる人々にはきちんとした意味があり、それがわかり合えたとき、より深い関係が築ける…。
たとえ、それが目にすることができないものだったとしても。
少し時間が経って、いま言葉に落とすと、こんな感じだったのかなと。
ところで、この日は9月いっぱいまで続いた「緊急事態宣言」の最後の日曜日。
当日記でのコロナ禍後の“えんげき日記”再開4回目で、ようやく終演後の役者面会ありのステージにたどり着きました。2年のご無沙汰を直接に茉莉さんにお詫びし^^、素直に重たい部分と楽しげな部分と“2度おいしい”ステージだったとお話ししてきました\(^o^)/
“おと”の場合だと、「物販」としての性格を持ち合わせますので、「緊急事態宣言」下であっても、リアルなステージである限りは、ビニールシートで仕切ってでも終演後のやり取りが行われてきましたが、“ぶたい”では、必ずしも「物販」とはリンクしないせいか、まぁやっぱり慎重かなという感じ(茉莉さんも、コロナ禍後は今公演で“面会が復活した”とのこと)。ともあれ、そろりそろりではあるけれど、“ぶたい”でも、おまけという名の潤いが少しずつ戻ってき始めたようです
。
そんなわけで、ステージに風景の作りこみはないけれど、かわりにたくさんの感情を受け取り、そしておまけという名の潤いも感じつつ…という9月最後の日曜日でございました。みなさまありがとうございましたぁ。