退職金積立制度の一つとして、中小企業退職金共済制度(中退共)があります。これは、中小企業(例えば、小売業であれば常用従業員数50人以下か資本金5000万円以下、サービス業であれば同様に100人以下か5、000万円以下等)や個人事業主が従業員を被共済者として、勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部と退職金共済契約を締結するものです。


 掛け金は毎月一定の額として、5、000円~10,000円までの1,000円刻み、12,000円~30,000円までの2,000円刻みで自由に設定できます。そして、掛け金が全額損金算入できるだけでなく、一定限度で国から掛け金の助成があります。


 中退共では、「適年」と違い企業から支払われた掛金月額・納付月数と予定運用利回りにより、従業員ごとに退職金積立額が決められています。予定運用利回りの引き上げ引き下げにより、基本退職金額が増減することになります。


 最も重要なことは、中退共を採用していても、退職金規程の定め方如何によっては、「適年」と同様の積立不足の状況が生じ得るということです。確定拠出型の定めであれば問題はないのですが、確定給付型、例えば、給与比例方式で退職金の計算方法を規定していれば、それにより算出された退職金額に対して、中退共で積立てられている金額が足りないときは、その差額を会社が別途負担しなければならないのです。


 これで、退職金規程がいかに重要であるか、お分かり頂けたものと思います。

 退職金積立制度には、平成24年3月をもって実質的に廃止される税制適格退職年金制度(いわゆる適年)、中小企業退職金共済制度(いわゆる中退共)、特定退職共済制度、日本版401Kプラン(企業型・個人型)、確定給付企業年金(基金型・規約型・混合型)、それに企業内退職金制度(保険商品や預貯金)などがあります。


 「適年」は、確定給付企業年金法(平成14年4月施行)により、それ以後の新規の契約は認められず、既存の契約も実質的に廃止される平成24年の3月までに他の制度に移行するか、解約しなければなりません。


 適年は、当初計算利率が5,5%に設定され、毎年5,5%以上で運用できることが前提になっていたため、バブル崩壊後運用利率が徐々に引き下げられ、それとともに積立不足が常態化し、深刻な事態に陥っているのです。現在「適年」を採用している中小企業においては、年に一度の金融機関による財政決算報告書によって、自社の積立不足がどの程度あるのかを把握し、今後退職金制度をどうすべきなのかを検討することが緊要になっています。

 以上述べてきたように、退職金制度をどのようにしたらいいか、「適年」の移行先をどのようにしたらいいかを検討する上で、一番重要なことは、退職金制度の目的、確定給付型か確定拠出型か、退職金の支払い形態、退職金ないし拠出金・掛金等の計算方法について、十分検討をして退職金規程を作成ないし改訂することです。


 その後で、「適年」の移行先をどのようにするかを検討することになります。間違っても、退職金規程をそのままにして「適年」の移行先だけを決めてはいけません。「適年」の移行先は、退職金の積立制度の問題であって、単に手段にしか過ぎないのです。

 確定拠出型の退職金の計算方法は、基本給連動方式や勤続年数方式、全員同額方式、あるいは資格等級別金額確定方式、役職別金額確定方式などがあります。


 基本給連動方式は、基本給額の一定割合を、拠出金・掛金等として給与に上乗せして支払ったりする場合です。


 勤続年数方式は、勤続年数を何年かごとに区切って、その区切った段階ごとに毎月の拠出金・掛金等を決めていくものです。


 資格等級別・役職別金額確定方式は、資格等級・役職ごとに毎月の拠出金・掛金等を決めていくものです。

 退職時ないし退職時以降に支払われる確定給付型の退職金の計算方法は、給与比例方式や定額方式、ポイント方式などがあります。


 給与比例方式は、通常退職時の基本給に勤続年数に応じて定められた支給率を乗じ、さらに自己都合・会社都合あるいは定年退職か否かによって異なる退職事由係数を乗じて定めるものです。


 定額方式は、基本給や退職時の役職等に関係なく、勤続年数だけをもとに定めるものです。一見公平のように見えますが、会社への貢献度を一切加味しないため実質的には不公平だと考えます。したがって、この方式を採用する場合には、上乗せの意味で退職慰労金を別途支給して、不公平感をなくすべきでしょう。


 ポイント方式には、資格等級ポイント制や役職ポイント制などがあります。前者は、資格等級制度の各等級につけたポイントに滞在年数を乗じたものを累積し、それに1ポイント当たりの単価を乗じて計算します。後者は、課長、部長などの役職にポイントを付け、その在職年数を乗じて累積し、それに1ポイント当たりの単価を乗じて計算したものです。いずれも会社への貢献度が考慮されることになります。

 退職金の支払い形態としては、退職一時金、退職年金、退職金前払いがあります。

 当初は、退職金は会社の内部積立金から一時金として支払われるのが一般的でした。その後、経済の高度成長期の下で「適年」などの優遇税制が図られ、退職金の年金化が進みました。

 そして、最近では、退職金を退職時以降に支払うのではなく、在職中に支払ういわば退職金の前払いという形態を導入するところが出現してきました。これは確定拠出型の退職金制度であり、将来の退職時に支払うべきものを在職中に月々支払うものです。したがって、月々の支払いさえ履行していれば、会社はその後何らの責任も負わないのです。

 確定給付型は、将来支払われる退職金の額や計算方法が何らかの基準によって確定しているが、会社の退職金給付債務は退職時ないしそれ以後でないと清算されないものをいいます。だから、毎月退職金積立制度として掛金等を支払っていても、それで会社の退職金給付債務が完全に履行されているわけではないため、積立金の運用が悪くなれば、積立不足が生じ、会社に大きな負担が生じるのです。いわゆる「適年」はこの型に当てはまり、積立不足の解消が急務になっているのです。

 確定拠出型は、毎月社員に対しての拠出金・掛金等の額や計算方法が何らかの基準により確定しており、会社はその拠出金・掛金等を社員や某機関に対して支払えば、それ以外には何も負担するものが生じないものをいいます。だから、拠出金・掛金等の運用状況がどうであるとか、社員が退職時やそれ以降にいくらの金額を受け取ることができるかとかは、会社には何ら関係のないことになるのです。

 退職金制度は、当初は有能な従業員を確保し、長年勤務した従業員に対して報いるための恩恵的な功労金としての意味合いを持っていました。

 その後定年退職後の生活保障としての意味合いをも有するようになり、戦後には賃金の後払いである旨が主張されました。

 賃金の後払いとしての目的であれば、退職金は賃金体系の一部ということになり、その権利性が強まり、退職金規程の変更は慎重を期することになります。

 通常は、基本的には長年の勤務に対する慰労金であり、また退職後の生活保障としての面も実質的には有すると考えておけば十分でしょう。

 退職金規程を作る場合には、(1)どうして退職金制度を設けるのかという退職金制度の目的、(2)後で詳しく述べますが、確定給付型にするのかそれとも確定拠出型にするのか、(3)退職金の支払い形態をどうするのか、(4)退職金ないし支払金の計算方法をどうするのか、という点が重要になってきます。

 これらの点が決まれば、自ずと、手段である退職金積立制度としてどれがいいかは判ってきます。

 多くの企業で採用されてきた税制適格退職年金制度、いわゆる「適年」の実質的廃止(平成24年3月)が迫っております。「適年」の積立不足が生じている中で、退職金制度をどういう方向にもって行ったらいいのか、決めかねている会社が多数存在します。

 現状では、適年の解約が一番多く、次いで中退共への移行となっておりますが、これらは退職金制度の手段に過ぎず、最も重要なことは現在の退職金規程をどのような退職金規程にするかということです。この退職金規程に手を付けずに、手段たる退職金積立制度のみをいじることは本末転倒といえます。

 今日から、どのように退職金規程をつくったらいいのか、そしてそれに適した退職金積立制度は何かを一緒に考えて行きましょう。