まるおの雑記帳  - 加藤薫(日本語・日本文化論)のブログ - -5ページ目

「附属学校の運営に要する経費等の取扱いについて」 ― “会費からなされる寄付は受けてはいけない”

PTA会費の流用問題については、実は今から12年前にも、国立大学の附属学校で問題になっていたようだ。

「附属学校の運営に要する経費等の取扱いについて」(平成12年3月8日)という通知が文部省高等教育局長名で「附属学校を置く各国立大学長」に対して出されているのだ。
(ブログ「大学サラリーマン日記」によりその存在を知りました。)

その前書きには、次のように、通知を出すに至った背景が述べられている。

+++++
 附属学校の運営に要する経費について、一部の附属学校で、附属学校に在籍する幼児、児童、生徒の保護者(以下、「保護者」という。)に負担を求めることが適当でない経費についてまで保護者に依存している例が見受けられます。ついては貴管下の附属学校において、今後このようなことが生じないよう十分ご留意願います。
 
 なお、附属学校の教育の振興・充実等を目的とする寄附者の自発意志による寄附については、これを受け入れることは差し支えありませんが、その場合は、下記のとおり、適切な取扱いがなされるようにお願いします。
(以下、省略)
+++++

前書きに続き、以下の内容が記されている。

+++++
1 当該学校のPTA(名称の如何を問わず、保護者と教職員が構成員となっているものをいう。)は国の職員(附属学校の教官)が構成員となっているため、形式の如何を問わず、当該学校への金員や物品の提供等(以下「寄附」という。)を目的とする会費の徴収や募金活動をすることは適当でないこと。

2 当該学校の後援会等(名称の如何を問わず、当該学校の教育研究の振興等を会の目的として保護者が主たる構成員となっているものをいう。)から寄附を受ける場合には、次の事項に留意し、疑義がある場合は寄附を受けないこと。
①募金活動は、後援会等当該団体の活動に必要な会費の徴収とは別に行われること。
②寄付はあくまでも寄付者の自発的意志によるもので、寄附金額についても割当の方法によらない任意の額となっていること。
③募集要項等において、その目的、趣旨及び寄附自体の任意性、寄附金額の任意性が明確になっていること。
④ 募金の趣旨が、附属学校等の教育の振興・充実等を目的とするものであること。
⑤ 募金活動、その他経理全般について、法人の職員は一切関与しないこと。
⑥ 大学は奨学寄付金として受け入れ、委任経理事務の基準に従って適正に処理すること。また、物品を受け入れる場合にも、所定の寄附手続きによること。
+++++

PTAからの寄付を禁じている点も興味深いが、この点はPTAとは別に後援会をもつという附属学校の特異性と関係するので、今回は問題にしない。


<公立学校においても守られるべきポイント>

2-②で、寄付をするか否か、寄付をするとしてその金額は「あくまでも寄付者の自発的意志によるもの」でなくてはならないと、寄付の任意性が担保される必要があることが述べられている。

2-③では、募集要項等において、寄付自体の任意性、そして寄付金額の任意性が保護者に明確に伝えられなければないないとされている。

そして、2-①では、寄付自体の任意性、寄付金額の任意性を担保するためだと思われるのだが、学校への寄付に回されるお金は、会費とは別に集められなければならないとしている。

これは考えてみれば当然のことで、会費から寄付金に回された場合、寄付自体の任意性も、寄付金額の任意性も担保されなくなってしまう。その点を考慮した指針だと思われる。


さて、”寄附はあくまでも寄附者の自発意志によるもので、寄附自体の任意性、寄附金額の任意性が担保されなくてはならない。”とは、まことにもっともな指摘ではないだろうか。
こういう通知がすでに12年前に文部省から出ているのだ。

では、今の公立学校においてはどうか?
現在、多くの公立学校においては、PTA会費から学校への寄付がなされているので、保護者一人ひとりの任意性は担保されているとはとても言い難い。


今年に入り、沖縄や和歌山の公立高校におけるPTA会費の使い方が問題になり、5月に文科省初等中等教育局が通知を発出し、調査を行うことになった。
(「学校関係団体が実施する事業に係る兼職兼業等の取扱い及び学校における会計処理の適正化についての留意事項について(通知)」平成22年5月9日)

しかしながら、その通知とそれに伴う調査の文言を見る限り、残念なことに、保護者一人ひとりの任意性を担保しようとする姿勢は認められない。

私の「読み」が誤読ではなければ、今年文科省から出された学校への寄付をめぐる通知は、12年前の通知より大きく後退している。
12年前の通知では大切にされていた保護者個々人の自由意思が、今回の通知ではないがしろにされてしまっているように思われるのだ。
これは大きな問題ではないだろうか。


今年出された文科省からの通知の文言については、次のエントリで紹介したいと思います。

『学校納入金等取扱マニュアル』を読む(下) ― ないがしろにされる保護者一人ひとりの意思

<保護者の多様性に対する思慮の欠如>
宮崎市教委ももちろん、何でもかんでもPTA等の団体から財政支援を受けていいと言っているわけではない。
「18 宮崎市立学校納入金等取扱要綱」の第三条(学校納入金等会計の取り扱いの基本)「運用方針」では、次のように、慎重な取り扱いを学校に求めている。

+++++++
○学校施設設備の整備費や学校管理及び教科指導等の経費は、基本的には、公費で負担すべきものである。
○必要な実費を受益者負担の観点から「学校納入金」で負担したり、あるいは、学校施設設備や進路指導等において、より良い教育水準を望む保護者等からの要望に応えて、市の一般的な水準を超える部分について、PTA等の「団体会計」から支援を受けることは例外的に容認される。この場合は、当該経費が公費ではなく、学校納入金等会計で負担することが適切か、または容認されるものかを十分に検討して処理にあたらなければならない。(p.50)
(色付け、まるお)
+++++++

しかし、問題は二つあると思う。
一つは「学校施設設備や進路指導等」の費用を保護者が負担することは地方財政法(第27条の3,第27条の4)に触れないのかという点だ。
もう一つは、(こちらをこれから問題にしたいが)「より良い教育水準を望む保護者等からの要望に応えて」の部分だ。

宮崎市教委のロジックは、
「一般的な水準は公費で賄われなくてはならないが、それ以上の水準を保護者等が求める場合には保護者側からの財政支援は容認される」
というものだ。

しかしながら、少し考えれば明らかだと思われるが、「より良い教育水準」に対する考え方は保護者によってさまざまだ。

部活に意義を認める親もいればそうでない親もいる。花壇を立派な花で飾ることに意義を感じる親もいればそうでない親もいるだろう。体育館の緞帳を新しくした方がいいと考える親もいれば、そんなことにお金を使うならこっちの方に回すべき…という親もきっといる。
そして、そもそも、「一般的な水準」が満たされていればそれで十分だと考える保護者がいてもぜんぜんおかしくない。

『学校納入金等取扱マニュアル』のロジックには、このような保護者の多様性への思慮が欠如していると言わざるを得ない。


<役員の合意得れば保護者全体の合意得たことに>
なるほど、「15 団体会計」(p.40)では、次のようなことが述べられ、保護者に対する「強要」にならないよう、しつこいくらいの強調がなされてもいる。

+++++++
(3)財政的支援の取扱い
団体会計からの財政的な支援については、当該団体と毎年度協議を行い、合意したうえで支援を受けます。
その際、学校として、当該団体に支援の強要等を行うことは許されるものではないことを認識した上で、その財政的支援が、当該団体の構成員自らの発意に基づくものであること、また、学校教育活動遂行上の必要最小限のものであることとし、これら2つの要件が満たされて初めて支援を受けるものとします。
(強調は、原文)
+++++++

しかしながら、「当該団体の構成員自らの発意に基づくもの」との認定がどのようになされるのかといえば、「18 宮崎市立学校納入金等取扱要綱」の第19条(団体からの財政支援の取扱い)「運用方針」には次のように述べられているのだ。

+++++++
○団体会計からの財政的な支援については、学校が決して強要してはならず、「真に団体構成員からの発意に基づくものであること」、「学校教育を実施する上で必要最小限のものであること」の2要件が満たされていることが必要である。漫然と前例を踏襲することなく、PTA役員等と学校との間で十分に協議を行い、双方が合意したうえで支援を受けるものとする。(p.55)
(色付け、まるお)
+++++++

引用部分の最後の文に注目いただきたい。
つまりは、役員との間で合意が成立し(そして総会で形式的に承認され)さえすれば、「真に団体構成員からの発意に基づくもの」と扱われるとこうことだ。

ここでも、やはり、保護者一人ひとりの考え方や事情がかえりみられることはないわけである。


<教委担当者と議論 
-「多数決の原理」の拡大適用では?>

保護者個々人の意思がないがしろにされているのではないかと当方の疑問を宮崎市教委の担当者氏に率直にぶつけたところ、

「民主主義ですから。多数決で決められたことには従う必要があるのではないでしょうかね。」

と言うのである。

当方は、「これは全国的な問題なので、何も宮崎市教委だけの問題ではないですが」と断ったうえで、「議会の決定や法令には拘束されても仕方がないが、どうして一人ひとりの保護者が『PTAの決定』に拘束されなくてはいけないのでしょう? PTAは、法令上、任意に構成される団体であり、権利能力なき社団ですよね。教委職員としてはぜひそのあたりのPTAの法的な位置づけを意識していただきたい。」とお話しした。

以下は、現時点での当方のコメント。
聞くところによると、宮崎市の公立学校のPTAも、ご多分にもれず、全員自動参加方式のようである。

確かに、たとえ私的な団体であっても、本人の意思により加入している場合には、その団体の決めごとに拘束されることはあるだろう。
しかし、その団体に有無を言わせず加入させられ、抜けるという選択肢も事実上与えられていない状況下で、「多数決には従うべきだ。それが民主主義だ」と言うのは、民主主義のはき違えではないのか。

保護者一人ひとりの自己決定権が「総意」の名のもとに抑えつけられるという問題は、役職の強要にも通底する、PTA問題の核心部分にあるものだと思われる。


保護者から学校への財政的な支援が認められるとしたら、それはあくまでも保護者一人ひとりの自発的な意思に基づくものでなければならないはずだ。
公立学校への財政支援が「多数決の原理」により決まるのだとしたら、地方財政法第四条の五で禁止されている「寄付の割り当て」に相当する可能性があるのではないだろうか。



次のエントリでは、「児童、生徒の保護者に負担を求めることが適当でない経費」をめぐって国立大学法人の附属学校に対して文科省が示した指針(「附属学校の運営に要する経費等の取扱いについて」(平成12年6月13日 文部省高等教育局大学課教育大学室長通知))を取り上げたいと思います。

ちなみに、以前、
・「直接」払いたい親心もあるのでは(07.01のエントリ第1,2コメント)
・流用を見込んで会費を集めていいのか?(07.06エントリ第7コメント)
という、一見相対立するとも言えるコメントがTRKさんから寄せられましたが、この文科省の指針は、その問題意識の両方に対する解決策になっているのではと思っています。


『学校納入金等取扱マニュアル』を読む(上) ― PTA会費の支払いを「親の務め」とする発想

学校教育に要するお金のうち、どの部分は公費で賄われ、どの部分は私費で負担されることになるのか。その線引きの問題を考える材料として、宮崎市教育委員会発行の『学校納入金等取扱マニュアル』を取り上げる。

このマニュアルは、平成23年4月に、「保護者の期待と信頼に応えるべく適正な事務処理に努めることにより、会計処理における事故防止や事務処理の負担軽減、さらには保護者負担の軽減等につなげて」(p.1)行くことを目的に作成されたものである。
ここでは、その問題部分について批判的に検討していきたい。

なお、先日、『学校納入金等取扱マニュアル』の担当課である宮崎市教育委員会 企画総務課の担当者氏に当方の疑問の概略をお伝えした。
その時に得られた情報についてもかいつまんで紹介していきます。


<「学校納入金」とは>
「1 はじめに」の部分で、教育長のことばとして、「学校納入金」に関する総括的な説明がなされている。

+++++++++
学校納入金は、教育活動において必要となる経費の内で、保護者が、学校教育の充実・発展を願い、受益者負担の考え方に基づいて負担している経費です。(p.1)
+++++++++

ここに出てくる「保護者が受益者負担の考え方に基づいて負担している経費」とはどのようなものか。
「宮崎市立学校納入金等取扱要綱」(平成23年4月1日制定)においては、「学校納入金」について次のように定められている。

+++++++++
「第2条(1)学校納入金 受益者負担の原則に基づき、校長が教育活動に必要な実費を設定する会計」で、「児童生徒が個人用として使用する各種ドリルや指定ノート、宿題プリントなどの教材費、給食費の他、学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費に限られるものとする。」(p.49)
+++++++++

ここでは「学校納入金」に関して「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費に限られるものとする」との限定が行われていることに注目しておきたい。

「学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」とはどのようなものなのかについては、マニュアルのp.3で具体的な説明が行われており(←分かりやすいです)、p.6~7にかけては、「原則として、次のものを個人負担とし、これ以外のものについては公費負担とします」との但し書きのもと、個人負担になるものが2種5類に整理されリストアップされている。
ざっと見たところ、そこに挙げられているものは「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」という定義に合致し、納得のいくものである。

ここまでの整理を行うと、次のようになる。

原則、学校教育に関わるお金は公費により賄われる。
しかし、「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」に関しては、受益者負担の原則に基づき保護者個々が負担する。



<「学校納入金」としてのPTA会費>
ここまでに紹介してきた「学校納入金」のあり方については多くの人の納得いくものであろう。
しかし、ここで問題になってくるのが「PTA会費」の扱いである。
宮崎市のマニュアルでは、「PTA会費」を「学校納入金」の一種と位置づけているのだ。
このことは、(あらかじめ結論的なことを述べれば)PTA会費を「受益者負担の観点から保護者が負担すべき経費」として扱ってしまっていることを意味し、看過し難い。


具体的に見ていこう。
マニュアルには、「2 学校納入金等の考え方」というパートがあり、次のようなことが述べられている(p.2)。

++++++++
 学校における教育活動費の中で、学校施設設備に関する維持費や整備費、学校管理上で発生する義務的経費、また、教科指導等に伴い必要となる経費などは、基本的に公費で負担すべきものと定められています。
 
 一方、児童・生徒が学校生活を送るうえで、保護者が受益者負担の考え方に基づき、必要な実費を学校納入金として負担する私費があります。
 
 学校における教育活動費は、税金などの収入により賄われる「公費」、児童・生徒の保護者等が個人負担する「私費」に区分され、私費の中に、「学校納入金」及び教育活動を遂行するうえで密接な関係を有する団体による「団体会計」があります。
(色付け、まるお)
++++++++
(まるお注:「団体」には、PTA、学校後援会、○○周年事業等実行委員会が想定されている。)

第二段落において「私費」を「児童・生徒が学校生活を送るうえで、保護者が受益者負担の考え方に基づき、必要な実費を学校納入金として負担する」ものと位置付けたうえで、第三段落でその私費のひとつに「団体会計」があるとしている。
 つまり、宮崎市教委は「団体会計」を「保護者が受益者負担の考え方に基づき、負担する必要のある実費」と位置づけていることになる。
(そして、狭義の「学校納入金」と「団体会計」を合わせて「学校納入金等」としている。)

先に見たような、児童生徒に具体的・直接的に還元されるものを「私費」負担とすることには問題はないと言っていいが、ここでは、「団体会計」までが保護者が負担すべき「私費」に組み入れられている点に注目しておきたい。

別の個所でも、「学校納入金等は、受益者負担の原則から、児童・生徒個人に還元できるものでなければなりません。」(p.4)などとも述べられており、宮崎市教委が「団体会計」の支払いを「受益者負担の原則」が適用されるもの、つまりは「親の務め」という観点でとらえようとしていることが見て取れるのである。


「PTA会費の支払い」=「親の務め」

とする発想は、「PTAに入らない親(PTA会費を払わない親)は負担するべきものを負担しないフリーライダー(ただ乗り人)だ」とする一部の保護者の間に根強く見られる誤った見方と軌を一にするものである。
『学校納入金等取扱マニュアル』における「団体会計」の位置付けは早急に是正される必要があると考える。

拙コメント「学校が寄付を募ることもあっていい」をめぐって -抱き合わせ徴収はやはり問題だ!-


<コメントの意図>
朝日新聞に掲載されたコメント中の「学校が寄付を募ることもあっていい」の部分に対して、拙ブログ読者の方から疑問が寄せられました。
そのコメントがどのような文脈の中でなされたのかについては、前エントリ中の④の部分をご参照いただければ幸いです。

さて、寄せられた疑問は、一言で言えば、「学校がそんなことしていいの?」というものです。

私も、やるべきだと言っているわけでも、積極的に勧めているわけでもありません。
財政事情の厳しき折、予算はどう頑張ってもつかないが、学校として児童・生徒のために必要だと判断されると言うのなら、「学校の運営主体としてご自分たちで工面の努力をするしかないのではないですか?」と言いたかったのです。

もちろん、施設の建設事業費、建物の維持・修繕に要する経費、職員の給与に要する経費など、地方財政法等で禁じられているものはいけませんが、それ以外については、寄付を募ってはいけないとする法令も、文科省からの通達もないはずです。


<文科省担当課へ確認>
とは言え、見落としている条文や教育界における常識があるのかもしれないと思い、文科省担当部署に問い合わせてみました。
先ごろ出された「PTA会費に関する通知」(平成24年5月9日)を担当した初等中等教育局教育企画課教育公務員係です。
※通知の正式名称は、「学校関係団体が実施する事業に係る兼職兼業等の取扱い及び学校における会計処理の適正化についての留意事項について(通知)」

担当官によると、学校が寄付を募ってはならないとする法令や通知・通達はないという理解で間違いないようでした。
ただし、次の二点には注意する必要があるだろうということです。

① (大原則は公費負担)
公費負担の大原則があることを踏まえ、極力公費で賄うよう努めること。

② (強制との誤解を与えぬように)
学校が寄付を募ると、学校にそのような意図がなくても払わないといけないとの誤解を保護者に対して与えやすい。誤解のないような説明と手続きが必要だ。


私はこれを聞いて、自分のコメントがそれほどおかしなものではなかったとホッとしました。


<改めて見えてきた「抱き合わせ徴収」の不適切性>
しかし、それと同時に、我々がこれまで散々問題にしてきたPTA会費の給食費などとの抱き合わせ徴収の問題性が改めて浮上してきたのでした。

抱き合わせ徴収の典型的なあり方は、

PTA会費の支払いを、

・校長名で、
・その支払いが義務である給食費といっしょくたにして、
・全保護者に対して

要請する、というもの。


② の指摘を前提にすれば、給食費との抱き合わせ徴収がなぜこれまでまかり通ってきたのか不思議で仕方がありません。
なぜなら、それは、保護者に対してPTA会費の支払いは義務との誤解を非常に与えやすいシステムだからです。

PTA会費のほうはもちろん全額が学校に寄付されるわけではないのでそこは違いますが、重なる部分があることも確かです。
教育公務員係の担当者の説明を聞き、PTA会費を学校長が給食費と抱き合わせに徴収することの問題性を改めて確信したのでした。


<抱き合わせ徴収に対する文科省担当課のスタンス>
しかしながら、担当者氏にその認識を率直にぶつけたところ、「PTAというのは、まあ古くて新しい問題でして…。」と、PTA会費徴収のあり方の問題については明確な回答はありませんでした。

「校長がPTAの任意性に言及することなく、給食費と抱き合わせにPTA会費の支払いを保護者に求めるというのは、校長の問題行為であり、まさに『教育公務員係』のマターではないのですか?」と問うと、「まあ、全国にはいろいろな学校があるのかもしれませんが…」と。

それに対し私は、「いやいや。給食費との抱き合わせ徴収は全国的に認められる問題です。横浜市でも約500校ある小学校、中学校の多くで、行われてきました。」と申し上げました。

続けて、「もっとも、横浜市教委は、昨年度から大きく舵を切り、PTAが任意加入の団体であることを保護者に周知するようになったし、PTA会費の徴収方法については今年度より、教職員向けの手引きの中に『PTA会費はPTA会員から徴収するもの』との位置づけが示されるようになり、現に茅ヶ崎東小のように学納金に関する保護者宛ての文書の中で、PTA会費を支払うのは『会員のみ』であると明記する学校も現れています。この動きは横浜市の中でも始まったばかりですが、このような適正化の動きが全国に広がるとよいと思っているのです。」とお話ししました。

残念ながら、はっきりとしたリアクションはありませんでしたが、この点については、「PTA会費に関する通知」(平成24年5月9日)やそれに伴う調査の結果等を参照しつつ、引き続き考えていきたいと思っています。


それにしましても…、

いわば「直接保護者に負担を求めれば非難ごうごうになる(少なくとも議論の対象になる)ものを、黙ってPTA会費から流してるから文句も出ずスムーズに流用できている」というシステムの不正さを指摘することが目的の記事だと受け止めました。
(拙エントリ「和歌山のPTA会費流用問題をめぐり朝日新聞にコメント」中のコメント8)


という、ぶきゃこさんのコメントは我が意を得たりの鋭い指摘で、とても参考になりました。<(_ _)>

和歌山PTA会費流用問題をめぐり朝日新聞より取材を受けた時にお話ししたこと

まず、和歌山で問題になっているPTA会費の流用問題についてどう考えるか尋ねられました。そこで、以下の三点をお話ししました。

①(実態としての寄付の強要になっているのでは)
朝日新聞(3.22)「PTA会費が賃金に 和歌山県監査委員が改善求める」に、

楠本隆・代表監査委員は、「PTA会費は事実上、ほぼ強制的に徴収されている。県が支出すべき公費に使うことは、地方財政法にふれる可能性がある」と指摘した。

とある。
長年PTAのあり方に疑問を持ってきた者として、我が意を得たりの指摘だ。
この代表監査委員の指摘に対して、県教委は、

一方、県教委総務課は「PTAへの加入は任意であり、会費の使い方は学校に一任されている」との見解を示した。

とあるが、PTAへの加入の実態がどうなっているのかちゃんと把握した上で言っているのだろうか?
加入が強制だと思っていたと言う和歌山の保護者の証言もある。

会費は年に約2万円払ってきた。保護者への手引書には「会費等を納入していただくことになります」と明記されており、男性は「支払って当然。払わないと入学できないと思っていた」とこぼす。(読売新聞(4.6)「検証 PTA 会費流用 <上>年1500万円 なぜ」)

都立高校でも全く同じようなケースがあった。
県教委には実態の解明をお願いしたい。(そして、実態として加入の任意性がちゃんと担保されるよう持って行ってほしい。)


②(必要な予算は確保する努力をするべきでは)
読売新聞(4.9)「なぜ起きるPTA会費流用、甘い使途チェック」によると、県教委幹部は

「学校側から、予算が足りないという具体的な声はほとんどない」

と述べている。とても興味深い発言だ。
この発言が本当なら、学校は、親心につけ込んで、とりやすいところからお金を集めていると言われても仕方がないのではないか。安易なお金集めはおかしいと思う。
学校は、PTA会費を当てにして、必要な予算の要求を怠ってきた面があるのではないか。
これからはきちんと教委との間で予算折衝を行うべきではないか。
いったい学校以外にこんなことをやっている機関はあるだろうか?
病院でも、老人ホームでも、学校以外に「利用者の会」なるものを作ってそこに利用者(あるいはその家族)を有無を言わせず加入させ会費を集め、そこからお金をひっぱるようなことをしているところがあるだろうか。


③(会費の流用は「ただ乗り論」につながり、ひいては役職の強要を生む)
PTA会費が学校や先生のために使われると、「PTAに入らず会費を払わない人はずるい親だ」という、いわゆる「ただ乗り論」が生まれる。
「ただ乗り論」は、PTAの強制加入や役職の強要とも深くかかかわり、この観点からも(いやこの観点からこそ)、PTA会費の不適切な支出は問題だと自分は考えている。


以上のようなことをお話ししたところ、現場の声を反映したさらに突っ込んだ質問を受けました。


記者:現場の声として、財政事情の厳しい折、予算が足りなくなることもあると。例えば、部活の遠征費の補助など、基本的には個人負担に属するものかもしれないが家計の苦しい生徒もいる。そのような生徒にもチャンスを与えるためにPTA会費は必要だとする声もあるが、どう思うか。

④(「先生心」は分かるが、正規の手続きを取るべきだ)
そのような言わば「先生心」は理解できる面もあるが、だからと言って、PTA会費に頼るのは認めがたい。生徒のため、学校のためと言うのなら、やはり、第一には、先にも述べたように、予算の確保に努めるべきだ。そして、どうしても予算が工面できず、でも、学校としては何とかしたいと言うのなら、地域や保護者に対して寄付を募ってもいいのではないか。
このような学校の運営主体として当然踏むべきプロセスを飛ばして、「PTA会費」からお金を引っ張るのはおかしいと思う。

以上です。


なお、記事では、当初③の部分を中心に紹介される予定でしたが、最終的には主に②,④の部分が紹介されました。
掲載されたコメント中の「学校が寄付を募ることもあっていい」の部分に対して、拙ブログ読者の方から疑問が寄せられました。
それへの拙見解は、次のエントリで述べたいと思います。
(予定していた横浜市教委学事支援課との意見交換のご報告は、その次に行いたいと思います。)


和歌山のPTA会費流用問題をめぐり朝日新聞にコメント

6月28日の朝日新聞和歌山版で、PTA会費(県立高校)の流用問題が取り上げられました。
近く和歌山県教委から「公費と私費の負担区分に関する統一的基準」が示されるとのことです。
そのことを踏まえて、「学校はなぜ、PTA会費をあてにしてきたのか。流用のどこが問題なのか。新たなルール作りを前に学校現場を訪れ、関係者に聞いた。」という記事です。
私のコメントも掲載されました。

PTA会費の不適切支出は、今年に入り、沖縄などでも明るみに出ており、全国的な広がりを見せています。

朝日新聞和歌山版(2012年06月28日)
「PTA会費 公費負担基準」



なお、PTA会費の不適切支出に関しては、読売新聞も精力的に取り上げており、この1日にも「PTA会費 広がる不適切支出 読売新聞調査」という記事が出ました。



(備考)
朝日新聞和歌山総局のツイッターから
*****
朝日新聞和歌山総局 ‏@asahi_wakayama 6月29日
今年3月、県立高校で本来公費負担すべき非常勤職員の賃金を、PTA会費から支払っていたことが明らかになりました。学校はなぜPTA会費をあてにしてきたのでしょうか。現場や専門家の意見を聞きました。
*****


産経新聞の記事2012.3.23
*****
「和歌山県教委に調査要請 PTA会費補填問題で平野文科相」

平野博文文部科学相は23日の記者会見で、和歌山県立高校の一部が校舎の修繕費や教職員の出張費などをPTA会費から補填していたことについて、県教育委員会に実態を調査するよう要請したことを明らかにした。

 平野文科相は「法律上の問題があれば改善や処分を求める。まずは調査しなければならない」と述べた。

 県監査委員事務局によると、非常勤職員への手当や、寄宿舎の排水管の修繕費などをPTA会費などから補填しているケースがあった。
*****
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120323/crm12032311240008-n1.htm


紀伊民報の記事(2012.4.3)
*****
「PTA会費の流用 実態解明し悪弊打ち破れ」

(前略)
県教委によると、PTA会費など徴収金の取り扱いについては、以前から監査委員に指摘されていた。いずれも口頭だったが、一部の学校がPTA会費で購入した備品について「寄付か無償貸与の手続きをするように」(09年)、徴収金については「統一基準の検討を始めるように」(10年)と求める内容だったという。

 これを受けて県教委は、県立学校の事務長が参加する会合の議題にこの問題を取り上げてきたという。だが、文書で指摘を受けた昨年9月以降になっても、具体的な対応策は決めていなかった。怠慢といわれても仕方がないだろう。

県教委総務課は「学校の判断が基本という前提で検討していた。学校によって事情が異なることもあり、慎重に検討する必要があった」と説明。PTAが法律上、任意の社会教育関係団体と位置付けられており、地方自治体が不当に干渉しないよう定められていることも、対策にまで踏み込めずにいた背景にあると弁明している。

 しかし、施設の修繕費や人件費は本来、県費で支払うべき支出である。その原則から見れば、保護者からの徴収金を充てることは到底許されない。施設の修繕や人件費の補助を保護者に求めなければ教育環境が維持できないというのなら、そういう制度の設計自体が間違っているのだ。
(後略)
*****
http://www.agara.co.jp/modules/colum/article.php?storyid=229222

留学生に聞くPTA⑥ 日・台の保護者組織の対照的な姿 -日本のPTAは母親を苦しめる

同じく三年生のゼミ生のY.IさんにもPTAのことを聞いてみた。

正確にはYさんは留学生ではない。
小学校の4年生の途中まで台湾の地元の小学校に通い、小学校の4年の途中から中学3年までは台湾にある日本人学校で勉強し、高校進学の折、日本に一家で移り高校は都立高校に通った。
お父さんが日本人で、お母さんが台湾の人とのこと。

そのような背景があるため、日本語が完璧でありつつ、台湾や中国の文化・事情にもとても詳しい。


Yさんは、お母さんから話を聞いたり、ネットを使って台湾の保護者会のことをいろいろと調べてきてくれた。

やはり、台湾の保護者会は強制とは無縁のようだ。
彼女の記憶では「会費」は授業料といっしょに集められるが、活動を実際にするのは、社会的な地位もあり、金銭的にもかなり余裕のあるごくごく一部の保護者であると。
クラスで一人か二人ではないかと思うと。

会長になるのは、とても名誉なことと考えられているようだ。
会長や役員になると、会費以外にも何かと寄付をしたりで持ち出しがあるそうだ。

役員の主な役割は、お金を出すことと、会議に出席して学校の運営について意見や助言を述べることだと思うと。

会長や役員の子どもは、学校から特別扱いされる面があるが、えこひいきというよりも、実際に優秀でまじめな生徒が多いそうだ。
親が役員で子どもがクラス委員ということがよくあったと。


「ネットでいろいろ調べてみたが、自分が体験したことは一般的なことといってよさそうです。」とのこと。

「じゃあ、運動会のお手伝いなどの下働き的なことは保護者会ではしないの?」と聞くと、それは学校がボランティアを募るとけっこう手伝う人が出てくるというのだ。


さらに非常に興味深い話が聞けた。

台湾の小学校に通っていた4年生までは「PTA」の存在は彼女のお家ではまったくと言っていいほど意識に上らなかったと。ところが、日本人学校に転校したら、急にPTAがお母さんを苦しめはじめたことを彼女は印象深く覚えているのだ。
台湾の小学校では義務でも何でもなかった保護者活動が日本人学校に入ると義務になってしまったというわけだ。

日本人学校はうちからクルマで40分かかるところにあり、その送り迎えだけでも大変なのに、その上PTA活動への参加が求められてお母さんは大変そうだったと。
彼女のお家は日本料理店を経営されていてお母さんはそちらの仕事でとても忙しかったそうだ。その事情を話せば役員はしなくてもよかったそうだが、談話会には出ざるを得ない雰囲気で、その参加も負担になっていたと。

「やっぱり、違うんですね。」と私が言うと、「日本のPTAのようなものが自分の国にもあるのではないかと思い、自分の記憶をたどったりネット等も見てみたけれどないんですよ。」と。
留学生に聞くPTA⑤で紹介した韓国人のI.Sさんもその話に大きくうなづく。


う~ん、やっぱり、日本のPTAって、相当変わっているみたいですよ・・。


追伸
Yさんは、先生たちと保護者が協力して活動をしたりして保護者と教師の距離が近い点は、日本型のいいところだと思うと述べている。

留学生に聞くPTA⑤ 韓国にはふつうにある保護者の自由がなぜ日本にはない?

3年生のゼミ生のI.Sさんに韓国のPTA事情を聞いてみた。

あらためて、彼我の違いに驚いたしだい。

彼女は、自分が知っているのは京畿道の一部(たぶんソウルも同じだと思う)と断ったうえで、次のような話をしてくれた。

韓国にもPTAのようなものはあるが、あくまでも有志が行うもので、彼女の知っている範囲では、会員になるのはクラスで3人から10人くらいだそうだ(日本と同じ上限40人クラスとのこと)。
その有志の人たちが、交通安全活動などをしていると。
(ユニフォームを作って交通安全活動に励むお母さんたちの写真を見せてもらった(ネットのもの))

そして、会員になったとしてもあくまでも自分のペースで活動できるようで、「仕事を押し付けられる」というのは考えられないと。

彼女のお母さんは会員になり、はじめは集まりにも参加していたのだが、子どもの成績自慢や優秀な家庭教師の情報交換、高価な買い物の話などに違和感を感じ、活動に参加しなくなったそうだ。
でも、退会はしなかった。
そして、それで何か問題になることもなかったと。

入るのもよし、入らないのもよし。
入って活動するもよし、入って活動しないのもよし。



Iさんのお母さんの話を聞くにつけ、韓国の母親には与えられている当ったり前の選択の自由が、なぜ日本の母親には与えられていないのか?と、改めて思いました。

海老名市単P会長会で入退会自由をめぐり発言

少し前のエントリに書いたとおり、ゴールデンウィーク前に海老名市教委に情報提供と申し入れをした。

その後だいぶ時間がたってしまったが、先ほど、教育指導課児童育成係のS係長にお電話した。

入退会の自由化に向けて何らかの前進はあったか尋ねたところ、ゴールデンウィーク明けに、海老名市単P会長会があったそうだが、そこで、当該PTAの会長さんが今回の動きを受けて、

「PTAが任意加入の団体であることを改めて意識していかなくてはいけないと思っている」

という趣旨の発言をなさったとのこと。

この会長さんは、前年度の海老名市P連の会長でもあり、市議という公職についておられる方でもある。
その方が、入退会自由化に向けて前向きの発言をきちんとなさったことは、大きな前進と言っていい。
会長会のメンバーには今年度はじめて会長になった方々もおられるそうだが、いい勉強になったのではないかと思う。


S係長からは、「教委からP連にああしてください、こうしてくださいとは言いにくい。別の組織だから。」というお話があった。

しかし、それに対しては、

「確かに、教委がP連に対してどうこう言うことは難しいかもしれないが、横浜市や千葉市がすでにしているように、市民に直接情報提供したり、校長に保護者に対してPTAが入退会自由の団体であることをきちんと説明するよう要請することは可能なはずだ。」と申し上げた。

「それは確かにそうだ…。」というご反応だったので、ぜひご検討くださいとお願いしておいた。

その他、文部科学大臣表彰優良PTAをめぐって、自動加入のPTAが表彰されているとしたら問題なはずだということも、申し入れをさせていただいた(もう少し具体的に言うと、①「任意加入を前提とする」という文科省発の事務連絡は来ているか、②神奈川県教委からは任意加入を推進するようにという啓発的な動きはあるか、も尋ねた)。


海老名市の優良PTAは、機械的に順繰りに表彰されているとの情報もあるが本当か?とも尋ねたところ、「事務連絡」の件も合わせて調査の上回答したいとのことだった。

(参考)
*****
自分が中学校のPTA本部スタッフだったころの海老名市では、市P連内で順番に推薦される学校が決まっていた。順番の年度に当たれば推薦されるので、自分で自分の属するPTAの推薦文を書く。たまたま2008年度が「当たり」の年度だったので会長から頼まれて推薦文を書いた。自薦がだめ、という規定はないようだ。この推薦文で県Pの大会で海老名市代表のような形で表彰されたはず。
ブログ『アンダンド』[PTA] 文部科学省社会教育課から「任意加入」明記文書が発行された2010/06/04 より
*****


今回、質問・問題提起した点については、2週間くらいしたらまた問い合わせをさせていただくことになった。

PTAについて考える切れ味鋭い好ブログ発見

いつものことながらFJNさんのブログで教えてもらったものですが、またまた勉強になるブログ、発見です。

だらだらぶつぶつ

法律にもお詳しそうですし、これからじっくり勉強させてもらおうと思っています。
ロジカルに小気味よく、PTAと学校の問題点を指摘。


好ブログと言えば、以前からお世話になっている柳下さんのブログの最新のエントリは、「ただ乗り」論について考える上でも、貴重な示唆を与えてくれるように思います。

PTA主催の祭りと義務感


上から強制されなくても、保護者同士でいつの間にか縛りあってしまう側面に切り込んでおられます。

ボランティアを無批判に称揚し「必要性の特段にないボランティア」に拘ると、それがいつの間にか義務となり保護者を苦しめる、ということが語られていると理解しました。