母から電話がかかってきた。
「お父さんにね、この間のことを話したのよ。そうしたらね、謝っておきたいと言うから、ちょっとお父さんに代わるわね」
この間のこととは、この件である。
これについては、もうすでにわたしはスッキリしていたのだけれど、どうやら母が腹に据えかねて、父に意見したようだ。
母は、ツラかったんだろうな。
久々に娘と会って話せると思ったのに、その娘を父が門前払いしたものだから。
母はどうしても父に言いたくて、、、。
なので、よく寝て、食べて、薬も飲んで、そこそこ父の精神状態が安定しているときを見計らったものと推測される。
父が言う。
「さっき奥さんから初めて聞いたんだけどな、、、なんだか失礼なことを言ってしまったようで、申し訳ない。最近は、顔と名前が一致しないことも多くて、、、」
父からの珍しく素直なことばに、キュッと胸が詰まる。
父は認知症ということを自覚していないようだが、できないこと、わからないこと、忘れてしまったことなどが増えてきているのは理解し、受け入れてはいるようだ。
寂しいものだろうなあ。
孤独感がつねに付きまとうんだろうな。
ツライねぇ。
と、ホロッとしかけたら、
「誰かわかっていなかったとはいえ、おたくの旦那さんに申し訳ないことをしてしまって、、、。もしご立腹のようなら、悪いことをしたとちゃんと伝えておいて欲しい、、、」
ん?
なんだか話がすり替わっている。
父が威嚇し吠えたのは、わたしにだ。
でも、謝罪はわたしにではなく、うちの夫に???
あーーー。
こんなときでも父には、わたしに対するブロックがかかっているんだなあ
多少なりとも情が湧いて、滲みかけていた涙だったけれど、一瞬にして乾いたわ。
娘であるわたしに、父が謝罪するなんて、ありえないこと。
父のなかでは、決してあってはいけないこと。
自分の非を認めたら、いままでのすべてが崩れ去ってしまうから。
そこは死守しなければ。
という、防御反応。
認知症であっても、防衛機能はしっかり働く。
父は、くどくど繰り返す。
「旦那さんが気を悪くされているのではないかと、、、」
「そんなつもりではなかったのだが、、、」
「またぜひ旦那さんにも顔を出してもらいたい、、、」
あはは!父の話に、わたしは登場せず
っていうか、その言い訳、誰の旦那に対してのことなのか、わかっていないかも。
でも、そう。
父はむかしから、他人には「いい顔」をするひとだった。
他人に、自分が失礼な態度をとったと思われ、なにか問題が起こると非常に困る。
なぜならば、自分はそんな非常識な人間ではないし、責任なんて取れないからだ。
自分は無実だ。
とにかく早急に誤解を解かなければ、、、。
見事である。
実に父らしい。
ただ、父の世界に「わたし」はいない。
本当は、いるのかもしれないが、見ないふり。存在の無視。
わたしとは関わりたくない。
というのが、父の本音なんだろうなあ、と思う。
でも、ま、これはお互いさま。
もちろん、電話の最後に、
「かしこまりました。ちゃんと伝えておきますので、ご安心ください」
そう、父に言ったよ。