2023年に通年で、1987〜1993年の間に運転開始されたドイツ・オーストリアを走るユーロシティの歴史を振り返りました。その参考にしたのが、Die EuroCity-Zuege - Teil 1 - 1987-1993: Europaeische Zuglegendenというドイツ語本であり、この続編がDie EuroCity-Zuege: Teil 2: 1993 bis 2020 として出版されています。そのため、引き続き私の後学、備忘を兼ねて原文訳を補足しながらまとめていきます。位置づけは前回に続き第2編となります。

 

第2編の22回目は、アロイス・ネグレッリ号を取り上げます。

EC Alois Negrelli

 

(この写真が参考文献に掲載されているわけではありません)

(以下本文を参照に日本語訳、一部表現、短縮名称等をブログ筆者で補足)

アロイス・リッター・ネグレッリ・フォン・モルデルベ(1799年~1858年)オーストリアの運輸技師で、オーストリア、イタリア、スイスの道路、橋、鉄道の建設やいくつかの教会の建設で知られる

 

プラハ〜ハンブルグ(〜オーフス)間のユーロシティ時代

2000年5月28日の夏ダイヤから、ハンブルク〜プラハ間のユーロシティ列車がEC174/175 アロイス・ネグレッリ号と変更されたが、決して全く新しくなく、従来ブダペストまで運行されていたユーロシティ コメニウス号に代わるものである。そのうえで、ハンガリア号ヴィンドボナ号ポルタ・ボヘミカ号カール・マリア・フォン・ウェーバー号とともに、アロイス・ネグレッリ号はプラハとベルリン間で2時間等間隔のユーロシティ網を形成した。

 

この列車の編成はチェコ鉄道担当であり、北行EC174は、ČD-371型電気機関車牽引でプラハ本駅発13:18。プラハ・ホレショヴィツェ駅、ウースチー・ナド・ラベム 、ジェチーン、バート・シャンダウ(註:ここでDB機関車と交換しているはず)、ドレスデン中央駅(16:04着/16:16発)、ドレスデン・ノイシュタット駅、ベルリン・シェーネフェルト駅、ベルリン東駅、ベルリン・ツォー駅、ベルリン・シュパンダウ駅、ヴィッテンベルゲ、ルートヴィヒスルスト、ビュッヘン、ベルゲドルフ、ハンブルク中央駅、ハンブルク・ダムトール駅を経て、終着ハンブルク・アルトナ駅着21:17。

走行距離676km、所要時間7時間59分、表定速度85km/h。対向列車となる南行EC175はハンブルク・アルトナ発10:42で、ドレスデン中央駅(15:42着/15:55発)はじめ、同じ途中停車駅を経てプラハ本駅着18:43。

 

機関車交換駅のバート・シャンダウでの工事による移転の影響で、2001年6月10日より所要時間が大幅に延長した。EC174は8時間35分(プラハ発12:44→ハンブルク・アルトナ着21:19)、EC175は8時間25分(ハンブルク・アルトナ発10:44→プラハ着19:09)で、表定速度はそれぞれ79km/h、80km/hに低下。なおバート・シャンダウ以北、DB内はDB-101型電気機関車が担当。

 

2002年12月15日より、アロイス・ネグレッリ号がハンブルグを越えてデンマークのオーフスまで延長運転されることになった(プラハ~オーフス間1080km)。この列車は2つの編成で構成され(プラハ〜オーフス間の基本編成とプラハ〜パドボルグ間の付属編成)、すべての客車編成の担当は引き続きČDだった。時刻表位置も大幅変更された。北行EC174 プラハ本駅発8:55。ČD-371型電気機関車からDB-101型電気機関車への交換は、引き続きバート・シャンダウ(11:10着/11:23発)で行われた。その後、ハンブルク・ダムトール駅まで従来通りの途中停車駅だが、ハンブルク・アルトナ駅は経由せずに北上を続ける。ノイミュンスター、レンスブルク、シュレスヴィヒ、フレンスブルクに途中停車し、デンマーク国境のパドボルグ(19:27着/19:36発)。ここでDSB-ME型ディーゼル機関車と交換、同時に付属編成の3両が切り離される。その後列車はティングレフ、ロデクロ、ヴォジェンス、ヴァムドルップ、コリング、フレデリシア、ヴェイレ、ホーセンス、スカナボーを経由してオーフス着22:00。南行EC175はオーフス発5:57で、プラハ本駅着19:00。所要時間はそれぞれ13時間05分と13時間03分、表定速度は両方向とも83km/hである。

 

2003年12月14日に、他のユーロシティ列車と同様、アロイス・ネグレッリ号の愛称は消滅したが、列車番号EC175/174とその時刻表位置は維持されつつ、EC174はプラハ中央駅発時刻が従来より13分繰り下げ(9:08発)、EC175はプラハ中央駅到着時刻が18:33と27分早着と、いづれの列車も所要時間が短縮された。2024年12月12日からは、列車番号がEC370/371に変更されている。

 

 

プラハ〜ウィーン間のユーロシティ時代 

2005年12月11日より、プラハ本駅〜ウィーン南駅間のユーロシティ列車にアロイス・ネグレッリ号の愛称がついた。ÖBB座席車とČD食堂車で構成される編成を使用するが、共通運用を組むEC71 スメタナ号がウィーン南駅着10:28となり、その後EC74 アロイス・ネグレッリ号としてウィーン南駅発18:33で、プラハ本駅着22:52。翌日EC75 アロイス・ネグレッリ号としてプラハ本駅発10:01で、ウィーン南駅着14:28。その後共通運用相手のEC70 スメタナ号としてウィーン南駅発15:33でプラハに戻る。EC70/71、74/75両列車の途中停車駅はホーエナウ、ブルノ、チェスカー・トゥジェボヴァー駅、パルドゥビツェ駅、プラハ・ホレショヴィツェ駅。牽引機はウィーン~ブジェツラフ間はÖBB-1116型電気機関車、ブジェツラフ~プラハ間はZSSK-350型電気機関車(EC74)またはČD-362型電気機関車(EC75)がそれぞれ牽引する。走行距離407kmを、表定速度94km/hまたは92km/hで走る。

 

しかし、アロイス・ネグレッリ号の第二の人生も短命だった。EC74/75は、2006年12月10日からの2007年ダイヤでは、アロイス・ネグレッリ号の愛称は消滅、スメタナ号と改称された。

 

 

ベルリン〜ハンブルク〜シュチェチン〜ロストック、またはベルリン〜ブルノ間のユーロシティ時代

アロイス・ネグレッリ号という列車名の「第三の人生」が2008年12月14日からEC176/179というユーロシティ列車で始まる。北行EC176はチェコ共和国第二の都市ブルノとハンブルク・アルトナ駅間を結び、南行EC179は始発駅をベルリン・ゲスントブルンネン駅として設定された。両列車とも車両編成はDBが提供、牽引機はそれぞれZSSK-359型電気機関車(ブルノ~プラハ)、ČD-371型電気機関車(プラハ~ドレスデン中央駅)、DB-101型電気機関車が担当。ブルノとプラハの途中停車駅には、チェスカー・トゥジェボヴァー、パルドゥビツェ、コリーンが含まれる。EC176の所要時間は全ルートで9時間59分(ブルノ発5:41→ハンブルク・アルトナ着15:40)、走行距離939km、表定速度は94km/hに達するが、対向となるEC179(ベルリン・ゲスントブルンネン駅発16:28→ブルノ着0:15)は走行距離648km、表定速度83km/hにとどまる。

 

2009年12月13日、EC179の南側の終着駅がプラハとなり、走行距離は短縮される。また、アロイス・ネグレッリ号はČD客車(食堂車を含む)7両編成に変更され、4組のユーロシティ列車による5日ローテーションの共通運用に組み込まれた(DB国内インターシティ列車1組含む)。詳細は以下の通り。

1日目:EC176 アロイス・ネグレッリ号 ブルノ発5:35→ハンブルク・アルトナ駅着15:40/IC2071 ハンブルク・アルトナ駅発16:15→ドレスデン中央駅着20:50

 

2日目:IC2070 ドレスデン中央駅発6:54→ベルリン・ゲスントブルンネン駅着9:27/EC 179 アロイス・ネグレッリ号 ベルリン・ゲスントブルンネン駅発16:29→プラハ本駅着21:27

 

3日目 EC178 ヨハネス・ブラームス号 プラハ本駅発6:32→ベルリン・ゲスントブルンネン駅着11:24/EC177 ヨハネス・ブラームス号 ベルリン・ゲスントブルンネン駅発12:28→ウィーン・プラーターシュテルン駅着22:04

 

4日目 EC378 ウィーン・プラーターシュテルン駅発5:50→オストゼーバート・ビンツ着19:17

 

5日目:EC379 オストゼーバート・ビンツ発10:42→ブルノ本駅着22:22

 

2010年12月12日より、北行アロイス・ネグレッリ号の列車番号がEC176からEC178に変更され、運転区間もプラハ本駅とポーランドのシュチェチン中央駅となる。従来のベルリン・ゲスントブルンネン駅からさらに北上するコースでの途中停車駅は、ベルナウ、エーベルスヴァルデ、アンガーミュンデ(ここでDB-101型電気機関車からDB-234型ディーゼル機関車に交換)、シュチェチン・グミエンツェ駅となる。ČDが提供する客車編成には、新しい青/灰色の「Najbrt(註:Aleš Najbrt チェコのデザイナーの名前と思われる)」デザインの車両が増えている。北行EC178はプラハ本駅発6:31で、シュチェチン着13:46。そこから1時間程度後、EC179としてシュチェチン発14:21でプラハに戻る(プラハ着21:28)。走行距離530km、所要時間7時間15分(北行)と7時間07分(南行)。翌年(2012年ダイヤ)ではEC179の所要時間は13分短縮される(シュチェチン発14:32→プラハ着21:26)。

 

2012年6月5日の夏ダイヤではシュチェチンへの運行は取りやめられ、北側の終着駅は再びベルリン・ゲスントブルンネン駅となる(EC178 プラハ発6:29→ベルリン・ゲスントブルンネン駅着11:41/EC179 ベルリン・ゲスントブルンネン発16:39→プラハ着21:26)。2013年7月26日からはベルリンの始終着駅がベルリン中央駅に変更された(EC178 11:19着/EC 179 16:39発)。

 

しかし、それにとどまらず、2013年12月15日から、アロイス・ネグレッリ号は再びベルリン以北に延長運転されることになり、21万人の人口を抱えるハンザ同盟都市ロストック(218キロ)が終着駅となり、ノイシュトレーリッツとヴァーレン (ミューリッツ) もユーロシティ列車の停車駅となる「栄誉」に輝くことになる。運転区間延長以外のスペック(機関車、車両編成、時刻表位置)には従来通り。EC178としてプラハ本駅を6:29に出発したČD客車編成はロストック着13:29、短い折り返し時間を経て、EC 179 ロストック発14:22でプラハ着21:27。プラハ〜ロストック間の走行距離は611km、所要時間7時間00分、または7時間05分、表定速度87km/hまたは86km/hで走行する。2014年12月14日からは、EC178/179の終着駅がヴァーネミュンデまで延長される(EC178は13:47着/EC179は14:07発)。これにより、折り返し時間が短縮されため、往路列車で遅延が発生した場合、復路の始発駅はロストックに変更された。

 

その後、アロイス・ネグレッリ号のバルト海沿岸への延伸運転は長くは続かず、2015年12月13日以降、EC178はプラハ本駅発6:27、ベルリン中央駅着10:58に、EC179はハンブルク・アルトナ駅発14:37、プラハ本駅着21:28にそれぞれ短縮された。運行区間が往復で非対称になったため、使用編成の運用も当然変更された。ベルリンに到着したEC178の共通運用相手は、EC175 ロベルト・シューマン号(ベルリン中央駅発13:00→プラハ本駅着17:28)に変更され、対向のEC174 ロベルト・シューマン号(ハンブルク・アルトナ駅 17:24発)の共通運用相手は翌日のEC179(ハンブルク・アルトナ駅発14:37)となる。今後(ここでは2015年起点か)10年以内に南行アロイス・ネグレッリ号が、ハンブルク〜ベルリン間の高速新線開業により、少なくとも1時間程度の所要時間短縮の可能性があることは注目に値する。(2016年ダイヤで)所要時間6時間51分、表定速度98km/hで100km/hの壁をわずかに超えられなかった。その後の2年間のダイヤ(2016年、2017年)では、EC178/179の運行区間は変わらず、共通運用のローテーション内容だけが変更された。

 

2017年12月10日より、これまでドレスデン〜プラハ間で使用されていたČD-371型機関車に代わり、ČDからレンタルされた「Najbrt」デザインのČD-193型「ベクトロン」電気機関車が牽引担当となる。このベクトロン機関車は2018年7月10日からは全区間でEC178/179を牽引することになり、従来のドレスデンでの機関車交換が不要になった。EC178のプラハ本駅(6:33発)とベルリン中央駅(10:41着)の所要時間はわずか4時間8分となり、EC179はさらに3分時間短縮した(プラハ着21:24)。これは、表定速度がついに100km/hの壁を破ったことを意味する。

 

2018年12月9日から、EC178/179からアロイス・ネグレッリ号という愛称は消滅。代わりにČDは、プラハ〜ドイツ間の長距離ユーロシティに ベルリナー号という愛称を付けた。とはいえ、アロイス・ネグレッリ号の名を持つユーロシティ列車は、これまでヨーロッパの5カ国を9つのルートで結んできたのだ。

 

 

  編成例(書籍内イラストから)

2012〜13年冬ダイヤ

コンパートメント客車(2等のみ)、オープン座席車(1等のみ)、食堂車

チェコの客車列車、途中増解結なし

 

今回は以上です。

 

 

参考資料:

・Die EuroCity-Züge: Teil 2 1994-2020 /Jean-Pierre Malaspina, Martin Brandt

・Thomascook European Timetable/Thomascook

参考ページ:

Datenbank Fernverkehr (Database long-distance trains)

Harrys Bahnen

ページ内写真:Flickr(引用元は写真とセットで明記)