2023年に通年で、1987〜1993年の間に運転開始されたドイツ・オーストリアを走るユーロシティの歴史を振り返りました。その参考にしたのが、Die EuroCity-Zuege - Teil 1 - 1987-1993: Europaeische Zuglegendenというドイツ語本であり、この続編がDie EuroCity-Zuege: Teil 2: 1993 bis 2020 として出版されています。そのため、引き続き私の後学、備忘を兼ねて原文訳を補足しながらまとめていきます。位置づけは前回に続き第2編となります。

 

第2編の25回目は、ポルタ・ボヘミカ号を取り上げます。

 

(以下本文を参照に日本語訳、一部表現、短縮名称等をブログ筆者で補足)

ポルタ・ボヘミカ(ボヘミアン・ゲート)は、ボヘミア中央山脈を通るエルベ渓谷の突破口に付けられた名前。谷の標高は約140メートル、峠を囲む山々の標高は、左岸のロヴォシュで570メートル、右岸のラドビルで390メートルである。

 

 ハンブルク〜プラハ間では、1992年5月31日から、プラハ・ホレショヴィツェ駅〜ベルリン・リヒテンベルク駅間を運行していた急行列車 D478/479 プリマトール(Primator)号に代わり、IC174/175 ポルタ・ボヘミカ号が設定された。1年後の1993年5月23日から、ユーロシティに格上げ、列車番号がEC176/177となった。

 

 北行EC176は、ドイツ連邦鉄道(以下、DB)とドイツ帝国鉄道(以下、DR)の客車とチェコ国鉄(以下、ČD)の食堂車で構成され、プラハ・ホレショヴィツェ駅発12:35で、697キロ離れたハンブルク・アルトナ駅まで所要時間8時間54分という行程。途中停車駅は、ウースチー・ナド・ラベム、ジェチーン、バート・シャンダウ、ドレスデン中央駅(15:12発/15:21着、ČD-372型電気機関車からDR-112型電気機関車に変更)、ドレスデン・ノイシュタット駅、ベルリン・シェーネフェルト(空港)、ベルリン東駅(17:15着/17:29発)で電化区間は一旦終了し、DR-229型ディーゼル機関車に交換し、引き続きベルリンSバーン線内の駅(フリードリッヒ通り駅、ツォー駅、シュパンダウ駅)、ハンブルク中央駅、ハンブルク・ダムトール駅を経由し、ハンブルク・アルトナ駅着21:29。南行EC177はハンブルク・アルトナ駅発8:08、プラハ・ホレショヴィツェ駅間16:53着で所要時間は北行より9分短い8時間45分。使用客車は、EC170/171 コメニウス号とEC174/175 ハンガリア号との共通運用していた。

 

 1994年5月29日から、ポルタ・ボヘミカ号はČDのIC500/501 ヤン・ペルナー号(プラハ〜ボフミーン間)との共通運用を開始する。DB-218形ディーゼル機関車重連やMaK製プロタイプのDB-240型ディーゼル機関車による牽引などで、所要時間が大幅に短縮された。具体的には、北行EC176の所要時間は8時間30分(プラハ・ホレショヴィツェ駅発12:47→ハンブルク・アルトナ駅着21:17)、南行EC177は8時間21分(ハンブルク・アルトナ駅発8:38→プラハ・ホレショヴィツェ駅着16:59)だった。同時に表定速度もそれぞれ81km/hと82km/hと一時的に向上した。ポルタ・ボヘミカ号は、1994年9月25日から全面運休となるベルリン・ライトレール・システムの改修工事により、ベルリン・シェーネフェルト空港からベルリン・リヒテンベルク駅を経由し、ナウエンが始発・終着駅となり、この駅でハンブルク発着列車との乗り換えが可能とした。EC176/177は、ナウエン~ドレスデン中央駅間をDB-112型電気機関車、ドレスデン~プラハ間をDB-180型電気機関車が牽引した。EC176/177はDBの座席車とČDの食堂車で構成されており、その共通運用ローテーションは以下の通り。

1日目:IC876 ヘレーネ・ランゲ号(ドレスデン中央駅発7:36→ナウエン着10:23)、EC177 ポルタ・ボヘミカ号(ナウエン発11:24→プラハ・ホレショヴィツェ着16:59)、IC501 ヤン・ペルネル号(プラハ・ホレショヴィツェ発17:45→ボフミーン着22:09)

 

2日目:IC500 ヤン・ペルネル号(ボフミーン発3:43→プラハ・ホレショヴィツェ着8:24)、EC176 ポルタ・ボヘミカ号(プラハ・ホレショヴィツェ発12:32→ナウエン着18:23)、IC877 ヘレーネ・ランゲ号(ナウエン発19:24→ドレスデン中央駅着22:12)

 

 1995年5月18日からの新ダイヤでは、ポルタ・ボヘミカ号のナウエン発着の暫定ルートと前述の共通運用ローテーション内容はそのままで、運行時刻表は微調整に留まった(時刻表位置は北行では約15分繰り上げられ、南行も同じシフトされた)。1995年9月23日からは、ハンブルク・アルトナ駅発着で、途中停車駅にヴィッテンベルゲとルートヴィヒスルストが加わったが、ベルリン北部の外環線経由ルートは変わらず。加えて、プラハでの発着駅がプラハ本駅に変更となった。プラハ〜ドレスデン間の牽引機はDB-180型電気機関車から、再びČD-372型電気機関車が担当となった。DBネットワーク内では、ベルリン・リヒテンベルク駅でDB-112型電気機関車からDB-218型ディーゼル機関車への機関車交換が行われた。そしてベルリンの外環ルート経由により、所要時間も当然長くなった。具体的には、EC176は9時間23分(プラハ発12:18→ハンブルク・アルトナ着21:41)、EC177は9時間8分(ハンブルク・アルトナ発8:08→プラハ着17:16)となった。この当時EC176/177の共通運用のローテーションを組んでいた列車は、IC871/872 ケーテ・コルヴィッツ号およびEC178/179 カール・マリア・フォン・ウェーバー号だった。

 

 ベルリン〜ハンブルク間の電化工事完了(註:ハンブルク〜ナウエン間の電化開業)後、1996年9月29日より、ベルリン東駅配置のDB-112型電気機関車がドレスデン中央駅〜ハンブルク・アルトナ間でポルタ・ボヘミカ号の牽引担当となり、所要時間が大幅に短縮された。具体的には、EC176は7時間58分(プラハ本駅発12:18→ハンブルク・アルトナ駅着20:16)、EC177は8時間7分(ハンブルク・アルトナ発9:33→プラハ本駅着17:40)。1997年6月1日以降、EC176はさらに3分、EC177は14分加速された。ベルリン市内線の再開で、1998年5月24日からポルタ・ボヘミカ号はベルリン中心部に乗り入れるかつてのルートに戻る。ベルリン市内の途中停車駅は、再び東駅、ツォー駅、シュパンダウ駅に加え、ハンブルク・ベルゲドルフ駅にも停車。しかし、経由が外環線から市内線に変更され、運行距離が若干短縮されつつも、上記駅に途中停車するため、所要時間はそれぞれ10分と4分と若干延びている(EC176 プラハ本駅発12:07→ハンブルク・アルトナ駅着20:12、EC177 ハンブルク・アルトナ駅発9:44→プラハ本駅着17:41)。

 

 2000年5月28日より、それぞれの列車の時刻表位置が変更、EC176は2時間繰り上げ、EC177は3時間繰り下げられた。具体的な時刻は下記の通り。

 

1日目:EC176 ポルタ・ボヘミカ号(プラハ本駅発9:18、ハンブルク・アルトナ駅着17:12)、IC631 オットー・リリエンタール号(ハンブルク・アルトナ駅着19:43→ベルリン東駅着22:42)。

 

2日目:IC632 パウル・デッサウ号(ベルリン東駅発6:15→ハンブルク・アルトナ着9:12)、EC177 ポルタ・ボヘミカ号(ハンブルク・アルトナ駅発12:42→プラハ本駅着20:43着)。

 

3日目:EC178 カール・マリア・フォン・ウェーバー号(プラハ本駅発7:18→キール着16:11)、IC875 キーラー・ブフト(キール湾)号(キール発17:48→ドレスデン中央駅着23:50)。

 

4日目:IC874 キーラー・ブフト(キール湾)号(ドレスデン中央駅発6:10→キール着12:10)、EC179 カール・マリア・フォン・ウェーバー号(キール中央駅発13:48→プラハ本駅着22:43)。

 

 2001年6月10日からは、牽引機がDB-112型電気機関車からDB-101型電気機関車に変更された。EC177の発駅がズィルト島のヴェスターラントに変更された。これ以降、5日間の共通運用ローテーション内容が、ドイツ国内のIC列車IC631 ウンター・デン・リンデン号→IC632 パウル・デッサウ号、IC875 グスタフ・シュトレーゼマン号、IC874 エミール・ノルデ号に加え、ユーロシティ列車 EC178/179 カール・マリア・フォン・ウェーバー号が含まれる。4日目にIC874 エミール・ノルデ号でズィルト島に到着する列車(ドレスデン中央駅発6:10→ヴェスターラント着14:09)は、翌日EC177 ポルタ・ボヘミカ号への送り込みを兼ねていた。このルートでは、ハンブルク市内ではアルトナ駅は経由せずに、レインウェグ分岐点の接続線を経由してハンブルク・ダムトール駅にはいり、ここで機関車交換が行われる。南行の場合はDB-218型ディーゼル機関車からDB-101型電気機関車に交換される。なおハンブルク以北、ヴェスターラントまではニービュル、フーズム、ハイデ、イツェホーに停車する。

 

 その後、2002年12月15日からEC177のヴェスターラント発が取りやめになり、ハンブルク・アルトナ駅発に運転区間短縮され、ズィルト島へのユーロシティ乗り入れがなくなる。一方、ハンブルク〜ベルリン間でブーヒェンとプリツィアーと2つの途中停車駅が追加された。同時に、EC176の時刻表も変更され、プラハ発12:55(改正前と比較して出発時刻が4時間強繰り下げられた)、ハンブルク・アルトナ駅着21:21となる。EC177にはヴェスターラント〜ハンブルク間の廃止を除き、運転時刻に変更なし(ハンブルク・アルトナ駅発12:44→プラハ着21:00)。機関車交換もドレスデン中央駅からバート・シャンダウでの実施となる。客車編成は、食堂車もふくめてDBが初めて全面提供することになり、EC172/173 ヴィンドボナ号との共通運用ローテーションに組み込まれた。

 

 2000年代初頭のDBのマーケティング方針により、ネットワーク内の大半の列車名が消滅したが、ポルタ・ボヘミカ号も多分に漏れず、2003年12月14日からは、列車名なしユーロシティ列車 EC176/177として運行された。

 

 その後、2014年12月14日ポルタ・ボヘミカ号の名称が復活する。これで、従来のユーロシティ ヴィンドボナ号の列車番号と時刻表経路を引き継ぎ、EC172/173として、運行ルートをブダペスト〜ハンブルク間と変更し運行された。客車編成は基本ČD車で、増結として1~2両のDB客車が使用された。北行EC172は、ČD-380型複電圧電気機関車の牽引でブダペスト・ケレティ駅発7:25、途中停車駅は、ヴァーツ(Vac)、ナジュマロス・ヴィシェグラード(Nagymaros-Visegrad)、ソブ(Szob)、シュトゥーロヴォ(Štúrovo)、ノベー・ザームキ、ブラティスラバ(10:07着/10:10発)、クティ、ブジェツラフ、ブルノ中央駅、パルドゥビツェ、コリーン、プラハ本駅(14:18着/14:30発、ここでČD-380型電気機関車からČD-371型電気機関車に交換)、プラハ・ホレショヴィツェ駅、ウースティ・ナド・ラベム、ジェチーン、バート・シャンダウ、ドレスデン中央駅(16:45着/17:07発、ここでDB-101型電気機関車に交換)、ドレスデン・ノイシュタット駅、エーナ(Oehna)、ベルリン・ズュートクロイツ駅、ベルリン中央駅(19:15着/19:24発)、ベルリン・シュパンダウ駅、ヴィッテンベルゲ、ルートヴィヒスルスト、ブーヒェン、ハンブルク・ベルゲドルフ駅、ハンブルク中央駅、ハンブルク・ダムトール駅を経て、終着、ハンブルク・アルトナ駅着21:48。対向の南行EC173はハンブルク・アルトナ駅発6:14で、ブダペスト東駅着20:35。つまり、走行距離1,284km、所要時間14時間23分、表定速度89km/h。

 

 2015年12月13日から列車番号、時刻表、ルートが再び変更、EC378/379 プラハ〜キール間にポルタ・ボヘミカ号という名称が使用される。ČD客車9両編成で、北行EC378はプラハ本駅発12:27で前述の途中停車駅に加え(なお、ハンブルク・ダムトール駅とアルトナ駅は通過)、ハンブルクの北にあるニューミュンスターに停車し、終着駅キール中央駅着20:18、対向南行EC379はキール中央駅発7:42でプラハ着15:28。走行距離780km、表定速度はそれぞれ99km/hと100km/h。牽引機について、キール〜ドレスデン中央駅間はDB-101型電気機関車、ドレスデン以南ではČD-371型電気機関車だったが、2017年12月10日からは、ČDからレンタルされた193型電気機関車(ベクトロン)が担当している。

 

 2018年12月9日より再度変更が発生、ポルタ・ボヘミカ号はEC258/259 ライプツィヒ〜プラハ間のユーロシティ列車となる。ČD客車による5両編成はČD-193型電気機関車に牽引され、EC259 ライプツィヒ中央駅発5:54、リーザに途中停車し、ドレスデン・ノイシュタット以降は従来のプラハ行ルートを踏襲し、プラハ本駅着9:26。対向の北行EC258はプラハ本駅発18:32で、ライプツィヒ中央駅着22:02。この列車に使用される編成は、EC170/171およびEC378/379(両列車ともベルリナー号)と共同運用されている。ポルタ・ボヘミカ号の名称を持つ列車のユーロシティ時代は、2019年12月15日のダイヤ改正をもって終了。以降、チェコ国内列車Ex578/579(プラハ〜ジェチーン間)の列車名として、存続している。

 

 

  編成例(書籍内イラストから)

2016〜17年冬ダイヤ

コンパートメント客車(2等のみ)、オープン座席車(1等、2等)、食堂車

チェコの客車列車、途中増解結なし

 

今回は以上です。

 

 

参考資料:

・Die EuroCity-Züge: Teil 2 1994-2020 /Jean-Pierre Malaspina, Martin Brandt

・Thomascook European Timetable/Thomascook

参考ページ:

Datenbank Fernverkehr (Database long-distance trains)

Harrys Bahnen

ページ内写真:Flickr(引用元は写真とセットで明記)