1987年からTEEの後継としてはじまったユーロシティの歴史を振り返っていく企画を立ち上げました。ドイツから取り寄せた、Die EuroCity-Zuege - Teil 1 - 1987-1993: Europaeische Zuglegendenの翻訳を通じて、ユーロシティーの一端を知る、文字通り「備忘録」としたいと思います。

(いつかはユーロシティの辞書的なものを作りたい野望はありますが。。。)

 

まとめの対象ですが、前述の書籍内では1987〜1993年の間に運転開始されたユーロシティを扱っており、その中の列車名ごとに歴史や仕様がまとめられているページとします。書籍の紹介順に倣って、12回目は、レーティア号を取り上げます。

 

EC Rätia

(この写真が参考文献に掲載されているわけではありません)

 

(以下原文訳、一部短縮名称等をブログ筆者で補足)

"Raetia"(「ラエティア」または「レーティア」とも)、ローマ帝国の州。ラエティア人」にちなんで名づけられ、南東部の黒い森、ドナウ川、インに挟まれた北アルプスの山麓を構成していた。

南はティチーノアルプス(レポンティンアルプス)からグラウビュンデン、チロル北部の一部を通り、アイザック渓谷の上部にまで及んでいた。

 

1982年5月23日の夏ダイヤから、ドイツ連邦鉄道(以下、DB)のインターシティ3号線経由で、クール〜ハンブルク間を直結するIC170/171が誕生、「レーティア」の愛称が与えられた。北行IC 170はクール発10:24、チューリッヒ着11:47、バーゼルSBB駅着12:56、ここで機関車交換と方向転換、13:08に発車。マンハイムとフランクフルトで2回の方向転換を経て、ハンブルグ・アルトナ駅着21:25。走行距離1,083kmの旅が終わる。一方、対向列車IC 171はハノーファー中央駅発6:10、バーゼルSBB駅着12:46、クール着15:30。1986年6月1日からはレーティア号にIC70/71という列車番号に変更され、1年後(=1987年)にはEC70/71とユーロシティに格上げされ、その際ハンブルク・アルトナ駅が南行の始発駅となった。

 

北行EC70はクール発10:27で、ザルガンス、ジーゲルブリュッケに途中停車後、チューリッヒ中央駅着11:50。10分停車後、バーデン、ブルック、バーゼルSBB駅着13:02。特に注目すべきは、EC 70は、クール〜バーゼルSBB駅間で、EC94 イリス号のクール〜ブリュッセル間の車両を併結する。方向転換と機関車をDB-103型電気機関車に交換したEC70は、バーゼルSBB駅発13:17で、バーゼル・バディッシャー駅、フライブルク、バーデンバーデン、カールスルーエ、マンハイム、フランクフルト(16:15着/16:23発)、フルダ、ゲッティンゲン、ハノーファー、ハンブルク中央駅、ハンブルク・ダムトール駅を経由し、ハンブルク・アルトナ着21:10。チューリッヒ、バーゼル、フランクフルトと3度方向転換を強いられながらも、EC70は101km/hという驚異的な表定速度を発揮した。

 

対向の南行EC 71 レーティア号は、早朝5:51にハンブルク・アルトナ駅を発車し、クール着16:41で終了(フランクフルト中央駅着10:36/10:44発、バーゼルSBB着13:43/13:58発、チューリッヒ中央駅着15:00/15:10発、表定速度:100km/h)。1989年夏ダイヤから(1991年6月1日まで)、レーティア号は元の列車番号 170/171に戻された。 なお、EC171はハンブルク・アルトナ駅(5:05発)とフランクフルト(10:34発)で、南行きユーロシティ/インターシティの初電としてブレーメン中央駅を経由することで、所要時間が延びている。

 

1991年6月2日に開始されたDBのインターシティエクスプレス(ICE)/ユーロシティ/インターシティによるネットワーク再編は、レーティア号にも影響を与え、再び列車番号(EC102/103)と始発終着駅(ベルリン東駅、この時はベルリン中央駅と呼ばれた)が変更された。EC102は、以前より2時間早く、クール発8:15となり、DBネットワーク内では、バーゼル・バディッシャー駅、フライブルク、バーデンバーデン、カールスルーエ、マンハイム、マインツ、コブレンツ、ボン、ケルン、デュッセルドルフ、デュイスブルク、エッセン、ボーフム、ドルトムント、ハム、ビーレフェルト、ハノーファー、ブラウンシュヴァイク、マグデブルク、ポツダム、ベルリン・ツォー駅、ベルリン・フリードリヒ通り駅に停車、終着ベルリン中央駅に23:17着、走行距離1,351キロ、所要時間15時間02分、表定速度90km/h。EC103は、EC102とは逆に、ドルトムントの南側でハーゲン、ブッパータール、ゾーリンゲン・オーリヒス駅を経由となり、ハノーファー中央駅発7:01→クール着17:37。EC102/103がドイツ国内の始発、終着駅が異なるのは使用編成の共通運用の影響で、具体的にはEC 102/103 レーティア号とEC 106/107 モンブラン号のローテーションを行っていたからだ(1日目:EC 102 クール - ベルリン中央駅/2日目:EC 107 ベルリン中央駅 - ジュネーブ/3日目:EC106 ジュネーブ - ブラウンシュヴァイク中央駅/4日目:EC 103 ブラウンシュヴァイク中央駅 - クール)。

 

1993年5月23日から、北行きEC102は大幅にスピードアップされ、以前よりも8分遅く(8:23)クールを発車しても、15分早くベルリン中央駅に到着できた(23:02)。その結果、所要時間は14時間39分、表定速度は90.5km/hとなる。南行EC103はドルトムント中央駅発7:40、1時間繰り上げた時間で運転された(クール着16:32)。レーティア号は当時、DBのユーロシティ/インターシティと共通運用の一部に加わっていた。EC102/103に加え、EC100/101 マッターホルン号、IC 501 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ号、IC 600 バーデニア号がローテーションに含まれた。

(運用サイクル1日目)EC 102 クール - ベルリン中央駅

(運用サイクル2日目)IC 501 ベルリン中央駅 - バーゼルSBB駅 および IC 600 バーゼルSBB駅 - ヴィースバーデン中央駅

(運用サイクル3日目)EC 101 ヴィースバーデン中央駅 - ブリーク および EC 100 ブリーク - ドルトムント中央駅

(運用サイクル4日目)EC 103 ドルトムント中央駅 - クール) が統合されています。

 

翌年(=1994年)、ベルリン市内鉄道の改修工事が始り、EC102はベルリン・ツォー駅(22:40着)を終着駅と変更。その1年後の1995年5月28日からは再び変更されてベルリン・リヒテンベルク駅(22:11着)まで運行された。一方EC103はハノーファー中央駅始発(6:00発/クール着16:44)に再び変更となった。

 EC102/103が組み込まれている車両運用サイクルは、以前よりもさらに複雑になっている。IC 504/505 カイザーシュトゥール号、IC 506/507 ストルツェンフェルズ号、IC 540/541 ローラント号、IC 542 オットー・リリエンタール号も含まれる。

(運用サイクル1日目)EC 102 クール - ベルリン・リヒテンベルク駅

(運用サイクル2日目)IC 505 ベルリン・リヒテンベルク駅 - バーゼルSBB駅

(運用サイクル3日目) IC 504 バーゼルSBB駅 - ベルリン・ツォー駅 および IC 540 ベルリン・ツォー駅 - オルテンブルク

(運用サイクル4日目)IC 541 オルテンブルク - ベルリン・ツォー駅 および IC 507 ベルリン・リヒテンベルク駅 - カールスルーエ中央駅

(運用サイクル5日目)IC 506 カールスルーエ中央駅 - ベルリン・リヒテンベルク駅 および IC 542 ベルリン・リヒテンベルク駅 - ハノーファー中央駅

(運用サイクル6日目)EC 103 ハノーファー中央駅 - クール

 

1996年9月29日から、EC102の終着駅がベルリンからライプツィヒ中央駅に変更され、運行ルートもマグデブルク、ハレ経由(クール発8:15、ライプツィヒ着21:57)となった。一方、EC103は引き続きハノーファーが始発駅(5:55発)だった。

 

1998年5月24日に再びルートが変更された。レーティア号は、1980年代のようにフランクフルトおよび南北幹線経由ではなく、左ラインルート、ルール地方、高速新線を経由して、再びクール〜ハンブルク・アルトナ駅間を両方向直通するようになった。クール - ドルトムント間は、以前の運行時刻位置を維持した。EC 102がクール発8:16でその後、SBB内でランドクアルト、バート・ラガッツ、ザルガンス、ジーゲルブリュッケ、ファフィコン、ヴェーデンスヴィル、タルヴィル、チューリッヒ中央駅(9:50着/9:57発)、バーゼルSBB駅(10:57着)で途中停車。SBB Re 4/4 II型電気機関車から DB-101型電気機関車に交換、かつ方向転換した後、(バーゼルSBB駅)11:14発で列車は旅を続け、さらにバーゼル・バーディッシャー駅で停車。その後、フライブルク、バーデンバーデン、カールスルーエ、マンハイム、マインツ、コブレンツ、ボン、ケルン、デュッセルドルフ、デュイスブルク、エッセン、ボーフム、ドルトムント、ミュンスター、オスナブリュック、ブレーメン、ハンブルク中央駅、ハンブルク・ダムトール駅に停車し、12時間05分後に終着ハンブルク・アルトナ着20:21。クールからハンブルグまでの1,195kmの道のりを、29回の途中停車と2回の方向転換を含んで、99km/hの表定速度で走破した。対向列車EC 103は、ハンブルグ・アルトナ駅を早朝(あるいは夜間)4:38に発車でクール着16:44。1999年5月30日からは、日曜日のみ始発がハンブルグ・アルトナ駅からドルトムント中央駅(7:40)で運行された。この便に併結されているEC 108 レッチュベルク号は、このために土曜日の夕方のみドルトムント中央駅まで運行された。2002年12月15日より、レーティア号は新しい列車番号EC 6/7を受け、全車両の供給元が初めてSBBに移管された。(ダイヤは)EC 6のクール発11:16、ハンブルグ・アルトナ駅着23:28に設定された(反対方向はEC 7 4:30発、クール着16:44)。翌年(2004年12月12日)からは、EC 6/7にSBB1等展望車が連結されるが、それ以降は、むしろ不明瞭(あるいは想像力の欠如?)。 その後、2013年12月15日のダイヤ改正で、チューリッヒ中央駅が南側の新たな終点駅となるまで、長期安定した運行が続いた。2015年12月13日より、インターラーケン東駅(EC 6 12:00発/EC 7 15:57着)がSBBネットワークの新しい発着駅となった。特に注目すべきは、SBBネットワークにおいて、ベルンでの方向転換を容易にし、機関車交換を省くために、EC 6/7にSBBの制御客車も走らせたことだ。

 

2019年ダイヤでも、この形でEC6/7で維持されている。インターラーケン - ハンブルク間1,158kmを毎日運行し、所要時間は北行き11時間30分、南行き11時間34分(表定速度それぞれ101km/h、100km/h)だ。

 

 

  編成例(書籍内イラストから)

 

1987年夏ダイヤ 

食堂車連結、1等・2等コンパートメント車、1等・2等オープン座席車がそれぞれ連結、途中での増解結なし。ドイツの車両のみ。

 

 

2004年夏ダイヤ 

食堂車連結、1等コンパートメント車、1等・2等オープン座席車がそれぞれ連結、途中での増解結はないが、郵便車がバーゼル〜クール間に限り連結された。スイスの車両のみ。

 

今回は以上です。

 

 

参考資料:

・Die EuroCity-Zuege - Teil 1 - 1987-1993: Europaeische Zuglegenden /Jean-Pierre Malaspina, Manfred Meyer, Martin Brandt

・Thomascook European Timetable/Thomascook

参考ページ:

Datenbank Fernverkehr (Database long-distance trains)

ページ内写真:Flickr(引用元は写真とセットで明記)