最高傑作とは言われていないが隠れた傑作を探る⑦井上陽水「二色の独楽」 | EVERYBODY'S TALKIN'/噂の音楽四方山話

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60年代~70年代の洋邦楽、ジャズ、クラシックの個人的に好きな曲のみをご紹介いたします。また自分のライブハウスでの弾き語りなどの情報、その他の趣味なども。

 

二色の独楽/井上陽水
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 最高傑作と言われていないが~今回は『二色の独楽』/井上陽水をご紹介。

 このアルバムは井上陽水氏の4作目のオリジナル・アルバムであり、私が受験生だった、
1974年10月1日にリリースされた。オリコンでは前作の『氷の世界』に続いて2作連続の1位獲得となり、セールス的には大成功なのだが、何故かその後の評判は『氷の世界』ほど高くは無い。実際、現在も誰かが、カバーするような有名な曲も皆無ではないが、あまり入っていない。(「傘がない」が収録されているが、これは原曲とは殆ど異にする、ギター・インスト・ナンバーである。要するに「つかみ」にタイトルだけ利用した?)

 

※尚このアルバムからのシングルは「夕立 c/w ゼンマイじかけのカブト虫(1974年9月1日)」「御免 c/w 旅から旅(1975年6月21日)」の2枚。
 余談だが「御免」は陽水氏がポリドールから出した最後のシングル盤。次作の「青空ひとりきり」からは、井上陽水、吉田拓郎、泉谷しげる、小室等(木枯らし紋次郎のテーマ作者)と設立した「フォーライフ・レコード」からの発売となる。

 それにしても『氷の世界』との評価の差は激しすぎる。中には「陽水は最初の3枚だけで良い」という酷い評価もある程だ。だからこそ、今回この4枚目のアルバムを取り上げたい。

 全曲がロスで録音された。参加ミュージシャンが物凄いのでここに羅列しておく。

Guitar:Jusse Ed Davis, Dennis Budimir, Ray Parker Jr., David T・Walker, Louie Shelton, 安田裕美, 井上陽水
Steel Guitar: Orvill Red Rhodes
Drums: Edward Green, Harvey Mason
Bass: Wilton Felder, Max Bennett ,Scott Edwards, Reine Press
Keyboards: Joe Sample, Larry Muhoberac, Clarence Mcdonald, Peter Robinson, Jack Nitzche
Percussion: Joe Clayton, Milt Holland, Alan Estes, Gary Coleman

と70年代の洋楽ファンが聞くとびっくりのキラ星の如くのメンバーがバックに参加している。ざっとご紹介すると、故ジェシ・エド・ディヴィスジョン・レノン、ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ジャクソン・ブラウン、レオン・ラッセルなど数えれば、きりがないビッグ・アーチスト達のバックを勤めている。

 デイヴィット・T・ウォーカーはつい最近も日本国内をツアーした大ベテラン。
 ルーイー・シェルトンモンキーズのバックを担当したこともあるし、又同じく元モンキーズのマイク・ネスミス「ファースト・ナショナル・バンド」を組んでいた、レッド・ローズが参加していたのにも驚く。(彼もモンキーズ以外には、キャロル・キング、ニルソン、カーペンターズ、バーズなど数々の大物アーチストと競演。)
 更にアレンジャーにもその名が見えるジャック・ニッチェ、「ゴースト・バスターズ」でその名も高い、レイ・パーカーJR、その他デニス・バディミール、ハービー・メイソン、マックス・ベネット(彼もマイク・ネスミスと「ファースト・ナショナル・バンド」で競演している)、ウィルトン・フェルダー、ジョーサンプルなどフュージョン・ジャズ界の大物も多数参加している。


 最後にアレンジャーとしては、先のジャック・ニッチェといつものモップス・星勝氏以外にモータウン等に多くの仕事を残し特に「愛のテーマ」で有名な、バリー・ホワイト&ラヴ・アンリミテッドの要となるアレンジャー&作曲家ジーン・ペイジを起用。当時バリー・ホワイトも大メジャーだったので、これも信じられない起用である。おそらくこのメンバーを見ただけで、中身は知らずともこのCDを聴きたいと思われた方もいるのではないだろうか。
ではさっそく収録曲を聴いていこう。



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SIDE A
①傘がない-イントロダクション-
作曲:井上陽水/編曲:星勝
 先ほど述べたようにこれは、ギターのインスト。果たして誰が弾いているのか?

②夕立
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:星勝
 3分にも満たない短い曲だが、中々のハードロック・ナンバー。上記のメンバーを見ればこのノリの良さは頷ける。歌詞も夕立を「かえるはうれしなきをしてる」「空の水が全部落ちてる」といった独特の表現で既に陽水氏ならではの世界を確立している。この曲はジャンル的に見て明らかにフォークではないが、当時の陽水氏のセールス・ニック・ネームは「フォークの帝王」。おそらくこのニック・ネームを付けた人達からの反発がこの曲中心に有り、それが総合的なこのアルバムの評価の低さに繋がったものと思える。曲の形式はAABAAB形式。これにCを加えて、4分位のナンバーにすればもっと楽しめたと思うが、意外にあっさりと終るのが惜しい気もするが、個人的には好きな曲。

③太陽の町
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:星勝
 個人的に初期陽水の作品では特に気に入っているが、ここでのバージョンは1番だけ唄われ直ぐF.Oしてしまう。完全バージョンは本アルバムの一番最後で聴ける。

④Happy Birthday
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:星勝
 これもパーカッションが活躍するノリの良い曲で、シングルで発売されればさぞかしヒットしたと思う曲。イントロのギターは現在でも色々な番組のBGMで聴かれる。


⑤ゼンマイじかけのカブト虫
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:星勝
 これは歌詞に妙がある。ここでの「カブト虫」は「ビートルズ」、「こわれた」とは「解散した」、「一緒に楽しく遊んでいた」とは「良く聴いていた」という意味ではないだろうか。寂しげなギター弾き語り風の曲だ。 しかもゼンマイじかけ~というタイトルは、明らかに若者に当時人気の話題の映画、「時計じかけのオレンジ」を意識しているようだ。この映画の製作・監督・脚本であるスタンリー・キューブリックもビートルズ同様多大の影響を陽水氏に与えたと見た。

⑥御免
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:Gene Page
 これもパーカッションが活躍。クレジットには無いブラスも活躍。ひょっとすると上記以外にもとんでもない参加ミュージシャンがいたのではないかと思ってしまう。

⑦月が笑う
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:Gene Page
 再びちょっと地味な弾き語り風のナンバー。しかしスティール・ギターは明らかにレッド・ローズ。彼の演奏を聴くとどうしても、良く聴いていた「マイク・ネスミス&ファースト・ナショナル・バンド」を思い出す。

⑧二色の独楽
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:Jack Nitzche
 編曲のジャック・ニッチェモンキーズキャロル・キングの作品の編曲を手がけたことがある鬼才。ちょっと前衛的な持ち味があったアレンジャーだ。それをここでも引き継いだようにプログレッシヴ・ロックのような怪しげな雰囲気がある。(そういえば、「夜のバス」も結構プログレ的だった)

 尚余談だが、当時受験生だった私が、春に某大学を受験した時国語の入試問題で「独楽」は何と読むか?という問題が出て驚いたことがあった。勿論「こま」とはっきり書かせてもらった!受験勉強ばかりして陽水氏を聴いていなかったら、おそらくこの問題は解けなかったであろう。もっともこの大学には落ちたが(今となっては笑)

SIDE B
⑨君と僕のブルース
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:星勝
 意味深な歌詞を持つ曲。 ブルースというより、ソウルフルな雰囲気が味わえる曲。

⑩野イチゴ
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:星勝
 一転初期の陽水氏を思わすフォーク弾き語り風ナンバー。この曲のバックのオブガード(独唱に加えて奏される、伴奏以外の楽器パート) で聴けるギターがまたイイ!。雰囲気的にジーン・ペイジがらみで、デイヴィッド・T・ウォーカーが弾いているものと思うが(⑬の「眠りに誘われ」も)真相は知らない。

⑪ロンドン急行
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:Gene Page
 ロスで録音したのに何故ロンドン?と思うが歌詞の内容は完全に「ビートルズ賛歌」但しサウンドはそんなにビートルズ的ではない。この曲は某アイドルも歌うなどカバーがこのアルバムの曲の中では、ダントツに多い。「あこがれの ロンロンロンロン ロンドン急行」というのは当時の学生皆の愛唱歌だった。 この曲もブラスが活躍。

⑫旅から旅
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:星勝
 歌唱法的にはロスとは反対の東部・フィラデルフィア・サウンドというか、スタイリステックスのような雰囲気があり「あて名はなんて書くの?」の、陽水のファルセットも素晴らしいナンバー。ここでは魅力的なソプラノ・サックスも聴けるが、前述のように木・金管楽器系の演奏者のクレジットが無いため誰が吹いているのか不明だが、もしや録音地ロス出身のトム・スコットではないか?と思ったりしている。

⑬眠りにさそわれ
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:星勝
 個人的にこの曲と、次の「太陽の町」の2曲を聴けただけで、もうこのアルバムの価値は十二分に高い、と思えるほどの名曲。素晴らしいバラードである。この曲のオブリガードで聴けるギターも素晴らしい。この曲と次の曲は、メドレーとまで言えないが、うまく繋がった感じで編集され、この2曲を続けて聴くと尚大きな感動が得られる。

⑭太陽の町
作詞:井上陽水/作曲:井上陽水/編曲:Gene Page
 と言うわけで「眠りにさそわれ」の感動が終ると同時に次の素晴らしいハーモニーを伴うこの曲が始まる。この曲は既にご紹介した、SIDE1の③と同じ曲だが、それとは違った編曲で、また途中F.Oはせず当然全曲唄われる。とにかく後のユーミンなどが、確立したといわれる、ニュー・ミュージックを既にこの曲で完成させてしまっている。個人的に特にお気に入りの名曲でこのアルバムを閉じる。


 というのが全曲のご紹介。誰がどの曲を演奏しているのか、詳しくご存知の方、お教え下さい!しかし勿論このアルバムの良さは井上陽水氏のソング・ライティングの力によるのは言うまでもない。