暖炉を前に聴くクラシック(ドビュッシー、フォーレなど) | EVERYBODY'S TALKIN'/噂の音楽四方山話

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60年代~70年代の洋邦楽、ジャズ、クラシックの個人的に好きな曲のみをご紹介いたします。また自分のライブハウスでの弾き語りなどの情報、その他の趣味なども。

冬 暖炉を前に聴くクラシック


 とブルジョア的なタイトルを付けたが、勿論小生の家には暖炉はない。が、ここはひとつ気分だけでも「暖炉の前にいるつもりで聴ける」夢心地なピアノ音楽を選んでみた。
 ※尚作曲家の経歴等は出来るだけ省き曲だけの解説と致します。ご了承下さい。



月の光 ~ドビュッシー / ピアノ名曲集/アース(モニク)
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●クロード・ドビュッシー(1862-1918)「夢」
 「夢想」というタイトルになっている、楽譜やCDもあるが、まさにタイトル通り夢の世界に入り込んだような、ドビュッシーの初期の作品。非常に単純だが、シンコペーションを含んだアルペジオに乗り、甘美なメロディーで始まり、まだ序盤といえる19小節目からいきなり、筆舌に尽くしがたい美しいメロディーを持つ展開部となる。
 これがクレシェンド&デクレシェンドを繰り返し(ようするに音が大きくなったり小さくなったりして)落ち着くと、和音による「寝言」のような部分を経て、今度はレンジを上げまた覚醒したかのような右手の3連の動きを経て、また低音の深い眠りに落ち、徐々にテンポを落とし冒頭のメロディに(多少装飾して変えているが)戻り終わる。
 ドビュッシーが多大な影響を受けたと思える、シューマンにも有名な「トロイメライ(夢)」があるが、ドビュッシーのこの作品は規模の点からみてもこの名曲に全くひけを取らぬばかりか、凌駕している作品と感じる。しかしどういう分けか、ドビュッシーはこの作品を失敗作と思っていたそうだが、私には全くそのような思いはかけらも無い大傑作である。
 尚この曲には、数々のオーケストラ・ヴァージョン、ジャズ・ヴァージョン、歌詞を新たに付けたジャズ・ヴォーカル・ヴァージョン、そしてこれが一番好きだが、冨田勲氏によるシンセサイザー・ヴァージョンがある。(ここでの「夢」も19小節目からが筆舌に尽くしがたい美しさ。テルミンソプラノを合成したような音で奏でられる)


(冨田氏に関しては2008年3月15日、2007年12月29日などのブログ後参照下さい)



月の光/冨田勲
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アイノラのシベリウス/舘野泉
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●ジャン・シベリウス(1865- 1957)「樅の木」
 1914年の「5つの小品(樹の組曲)」作品75の5曲目。全体は「ピヒラヤの花咲く時」「孤独なモミの木」「ポプラ」「白樺」「樅の木」の5曲から成る。この組曲に愛情たっぷりの「樹の組曲」という日本語の名前を付けたのは、ピアニストの舘野泉氏である。
 舘野氏は、2002年1月9日、フィンランド・タンペレでのグリークの作品を演奏中に脳溢血で倒れ、その後遺症として右半身に麻痺が残ってしまったが、2003年8月のオウルンサロ音楽祭で残った左手での演奏で、左手のためのピアノ作品を演奏し、復帰を果たす。それをきっかけに、本格的にこの分野を開拓して行き、翌年には左手のピアノ作品によるリサイタルを開き、これが既に各マスコミやテレビ番組のレポート等で大きくとりあげられている。


 このシベリウス「樅の木」は、やはりシベリウスの音楽を誰よりも愛した舘野氏の演奏が勿論お勧め。タイトルの「アイノラ」はシベリウスが後半生を送ったフィンランドの山荘がある場所だ。ここにシベリウスが所蔵し、数々の名曲を実際に作曲する際に演奏したピアノがあり、本作はそのピアノで演奏されている。(これは上記の病気に倒れる前の演奏なので、勿論両手で弾いている。)
 曲はアルペジオで始まりテヌートで弾かれる印象的なメロディーが胸を打つ。やがてdolceで奏される15小節目からのメロディーはすこぶる美しく更に感動的。(やや冬より秋のイメージではあるが)そして中間部からは急にピアニスティックになるが、長くは続かせず、Lentoになり冒頭のメロディーに戻し次第にゆっくりと演奏し夢見るようにこの曲を閉じる。
 尚この曲は
皇后陛下美智子さまが最もお好きなピアノ曲としても知られている。

3つのジムノペディ~サティ・ピアノ作品集/ロジェ(パスカル)
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●エリック・サティ(1866-1925)「ジムノペディ第1番」
 「3つのジムノペディ」の第1曲目。おそらく、というか絶対、単に演奏的には、今回ご紹介する曲の中では最も平易に書かれているが、つい最近書かれたモダンな曲と誰もが思ってしまう、革新的なmaj7系のコード進行を持つ曲。従ってその革新性を際立てるには演奏そのものは逆に最も難しいものとも言えるかもしれない。
 この曲をピアニストの高橋アキさんの演奏で間近で聴いたことがあるが、得がたい感動があった。この曲も各ジャンルで色々な楽器で演奏される数々の編曲があるが、最も好きなものはBS&T(ブラッド・スウェット&ティアーズ)の「血と汗と涙」というアルバムの冒頭に入っているギターとフルートのバージョンである。

(既に過去ブログ2007年11月26日でご紹介済み)

グリーグ:ピアノ作品集~抒情小曲集/カツァリス(シプリアン)
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●エドヴァルト・グリーク(1843 - 1907)「夜想曲」
 有名な抒情小曲集第5集作品54の4曲目。左手で伴奏しながら右手で左手より低音部を弾く奏法で始まる。この左手のシンコペーションを伴う伴奏にのって右手が「夜鳴き鳥」の鳴き声を奏する、15小節目からがとりわけ美しい。
 そして21小節目からのPiu mossoは更に音響的に豊かになる最も素晴らしい部分である。そして徐々に緩やかに、ゆっくりとなり再び、冒頭と同じメロディーが現れ次第にジャズでも使えそうなコードが並び奏される。この終わり間際のこういった新たな工夫が、非常に魅力的だ。そしてまた夜鳴き鳥の声が聴こえ夜の暗闇の中にノクターンが消えてゆく。尚この曲にもオーケストラ・ヴァージョンが存在する。

ラヴェル:ピアノ曲全集/ロジェ(パスカル)
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ラベル:10弦ギター&アルト・ギターによる作品集
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●モーリス・ラヴェル(1875 - 1937)「メヌエット」
 クープランの墓(Le Tombeau de Couperin, 1914年~1917年)の5曲目。全体は 前奏曲(Prélude) フーガ(Fugue) フォルラーヌ(Forlane) リゴドン(Rigaudon) メヌエット(menuet) トッカータ(toccata)からなる。
 ラヴェルがこの曲集を作曲を開始した頃、彼はフランス陸軍に招集され1917年に除隊になったのだが、この間に多くの友人が犠牲になった。その亡き霊を弔う為にこの曲集は作られたのである。従ってこの「メヌエット」も「ジャン・ドレフュスを悼んで」の言葉が添えられている。
 それが本来優雅なだけで終る「メヌエット」だが、この曲のように、途中寂しげな葬送行進曲のような部分があるのはその為である。この曲の特に素晴らしい部分はそのエンディング。maj7系のコードがふんだんに使われ流麗さが際立っている。この曲集はラヴェルの作品でも人気が高く、様々な楽器で演奏されているが、個人的にはアンデシュ・ミオリンの10弦ギターによるアレンジが特にお気に入り。

ドリー~フランス近代ピアノ・デュオ作品集1/ジョワ&ロバン=ボノー
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●ガブリエル・フォーレ(1845-1924)/子守唄
 この曲は1894年作。6曲からなる、こどものための連弾曲集「ドリー」作品56の第1曲目。全体は2ミャウ(ミ=ア=ウ)、3ドリーの庭、4キティ・ヴァルス、5優しさ、6スペインの踊りのステップ、からなる。
 タイトルとなったドリーとはフォーレの曲、特に歌曲の良き紹介者であった歌手・音楽家であったエンマ・バルダックの小さな娘の愛称。
 エンマはのちにドビュッシーの2度目の夫人となる。そんなことから、ひょっとしてドビュッシーの「夢」とこの「子守唄」は、メロディ・ラインこそ異なるが、作曲のイマジネーションの出どころは同じかもしれない。この曲の愛らしさは他に比類なきもの。特にメロディが輪唱のように繰り返される部分は夢見るような美しさだ。


(フォーレに関しては2008年3月15日のブログをご参照下さい。)