オリオン座の馬頸星雲
視直径30’ほどの淡い散光星雲IC.434と馬の首の形をしたこの暗黒星雲は,空の非常に暗いところならかすかな姿を見ることができる。ただし,望遠鏡の口径は、15cmはほしい。(IC.434はα5h41m.1 δ一20°25′にある)
星と星との間の空間は,地球上でつくりだせるどんな真空より真空であるといっていいほど何もない空間だが,完全に一様な真空というわけではない。あちこちに冷たいチリとガスからできた,いわゆる暗畢星雲とよばれる黒雲がただよっているからである。
星間ガスが1立方センチメートルあたり,水素原子がせいぜい1個程度というたいへんな稀薄さであるのにくらべ,この黒雲の部分には1立方センチメートルあたり水素原子は1億個もあり,アンモニア分子などもたっぷりふくんでいる。温度が-260℃以下という非常な冷たさなので,それ自体光を放つことはないが,背後に明るい散光星雲などがあると,黒いシルエットとなって浮かびあがり,その存在を知ることができるようになる。オリオン座の中ほど,ζ星のそばに淡く輝くIC.434星雲の前面にせりだしてきたこの暗黒星雲は馬の首そっくりな影絵となって浮かびあがっている。われわれからの距離は1100光年。馬の首のひろがりはざっと10光年ほど。なんとも巨大な宇宙の影絵ではある。