マリモ博士の研究日記

  マリモ博士の研究日記

      - Research Notes of Dr. MARIMO -
  釧路国際ウェットランドセンターを拠点に、特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」と周辺湖沼の調査研究に取り組んでいます

【釧路新聞文化欄・日本マリモ紀行#592,2022年11月21日】

 

去る8月18日、阿寒湖畔の一般財団法人前田一歩園財団(以下、一歩園)で1983年から2016年まで33年にわたって理事長を務められた前田三郎氏が亡くなった。100歳であった。

 

私が理事長に初めてお目にかかったのは1991年(ずっと敬愛の情を込めて「理事長」と呼んできたため、本稿でも「理事長」と称することをお許しいただきたい)。マリモの保護研究のため阿寒に着任した挨拶に訪れた折であった。大きな鼻、人を見透かすかのようなまっすぐな視線、背筋をピンと伸ばし、言葉を選びながらも淀みない会話が印象的であった。「立派な方だなぁ」と思ったのをよく覚えている。そして、このとき伺った「自然保護でメシを食う」話は、私のマリモ研究の支柱のひとつとなった。

 

一歩園は、雄阿寒岳を除いた阿寒湖の沿岸一円から阿寒川上流西岸にかけての山林約3600㌶を所有している。この豊かな自然は上質な観光資源ともなるため、開発を望む業者から発せられたのが、「自然保護でメシが食えるか」という言葉であった。だが、理事長は「阿寒の美しい景観を永遠に守ってゆく」一歩園の設立趣意を貫いた。

 

そのため、温泉経営などで財源を確保する一方、自然環境の保全と適正な利用を図るための諸事業を推進し、学術研究や普及啓発などにも取り組んできた。特筆すべきは、道内の自然保護に関わる団体・個人に対する活動助成で、1983年から2021年までに、のべ238件に対し総額1億1千万円余りの助成が行われている。資金力の乏しい小さな団体や個人にとっては慈雨そのものであったろう。

 

こうした取り組みを、理事長は「自然保護でメシを食う」と表したのであったが、私には「マリモ保護でメシを食って行けるよう、高い志を持って励みなさい」というエールに思われた。

 

 

阿寒湖畔の前田記念館で開催された「前田三郎を偲ぶ会」の会場で(2022年10月25日)

 

マリモが群生する阿寒湖北部のチュウルイとキネタンペもまた一歩園の森に囲まれている。このため何かと理事長をお訪ねしたが、「マリモはどうかね」と訊かれるのが常であった。集水域の環境に異変があれば影響はマリモに及ぶ。マリモに大事ないのを報告してから研究の近況に触れ、「で、理事長にお願いがあるのですが・・・」と話は進む。

 

大きなところでは、2009年に官民22団体からなる「マリモ保全対策協議会(現在のマリモ保全推進委員会)」を設立する際には、発起人に加わっていただいた。

 

また、忘れがたいのは、2012年の「マリモと阿寒湖の自然調査報告会」である。小学生から大学生、一般が一緒になってマリモの育成試験、外来種ウチダザリガニが食べる植物調査、過去にマリモ集団が消滅したシュリコマベツの環境調査などを行い、成果報告会を開催した。理事長には、発表を終えた子どもたちに「頑張ったね」「お疲れさま」と声をかけながら記念品を手渡していただいた。彼らの一連の体験は、やがて花を咲かせる土壌となるだろう。

 

後の世の春をたのみて植えおきし人の心の桜をぞみる」。一歩園の初代園主・前田正名の遺訓である。理事長が引き継いだ志をさらに発展させて行かねばならぬ・・・ご冥福をお祈りするとともに、改めてそう思う。

 

「マリモと阿寒湖の自然調査報告会」で前田三郎氏から記念品を受け取るマリモ育成試験のメンバーたち(2012年2月18日).

こんにちは。11月13日(日)に釧路市中央図書館で開催された「海ねこみなと会」のマリモトーク、スタッフから「おしゃべりのように聴衆とのやり取りをまじえて欲しい」との要望があり、いつもならパワーポイントの資料を作り込むところを、シナリオなしの「漫談」にチャレンジしてみました。

 

会場から頂いた「お題」に沿って、マリモの分子進化と生物地理、分子系統学、粘菌と藻類の生態の違い、マリモの成長と崩壊・再生、お土産マリモの歴史とウクライナなど東ヨーロッパから輸入されている現状など、話は多岐にわたり、これまでに蓄えてきたウンチクを十二分にご披露する展開となりました。終了後、何人かの方から「面白かった」と声をかけていただき、まずは務めを果たせたようです。

 

 

<海ねこみなと会のFacebookから>

第5回海ねこミーティング開催致しました。

本日は夕方にも関わらずたくさんの参加者に恵まれました。

私たちの急でわがままなお願いを聞いて全面的に協力して下さった若菜勇先生。

中央図書館の皆さま、そしてご来場頂いた皆さま改めてありがとうございました。

またYouTube配信が回線の不具合で不調となりましたこと、お詫び申し上げます。

先生がずっと向き合ってこられたマリモという生物ひとつとってみても、その期間で生育環境、人々の向き合い方がこんなにも変化するのかと驚きながら私たちも聴いておりました。

マリモの研究保護という定点から見続けてきた若菜先生だからこそのお話でした。

また、土産物の人工マリモののお話も興味深く、それらはシラルトコ湖のマリモを人工的に丸めて売られていたのですが取り過ぎたため20年ほど前に枯渇、その後、ウクライナを中心とした海外に人工マリモの原料マリモ輸入を頼っていたというお話でした。

マリモのどこか惹きつけられる優しく揺れる姿と丸い形、多くの人に好まれていたという裏側に無計画に取るということがこのような影響を与えていたという事実に驚きを覚えました。

専門的なお話の中にも先生のユーモラスで優しいお人柄が滲み出たご講演でした。

あらためまして、配信中止に関しましては、スクリーンの前で復旧を長い時間お待ちくださった方もいらっしゃること、結果的に私たちの不手際でお見せできませんでしたこと、心よりお詫び申し上げます。

#海ねこみなと会 #若菜勇さん #マリモ博士 #釧路国際ウェットランドセンター #釧路市中央図書館 #阿寒湖 #ドクターマリモ

 

 

国立科学博物館は、山梨県の民家の水槽から発生したマリモ類がAegagropilopsis(アエガグロピロプシス)属の日本新産種と明らかにし、「モトスマリモ」と命名しました。日本で見つかった球状になるマリモ類としては、「マリモ」「タテヤママリモ」についで3種目となります。

 

 

【後記】本論文では、水槽に出現したマリモ様球状藻類の分類について、分子系統学的および形態学的なデータに基づき先行研究で報告されていたAegagropilopsis clavuligera(新和名:モトスマリモ)と同定しています。しかし、本種は日本国内の天然湖沼等では未だ生育が確認されていません。また、同じ水槽中で飼育されていたタイリクバラタナゴRhodeus ocellatus ocellatusは中国原産の外来種であり、本研究標品の全18S rRNA 塩基配列データが中国産のものとほぼ一致している結果から、その由来については慎重な取り扱いが求められると考えます。

 

 

釧路の市民団体『海ねこみなと会』が主催する『第5回海ねこミーティング』でマリモの保護についてお話しします。会場の皆さんからの質問や意見などを交えながら、マリモ談義に花を咲かせたいと思います。ご来場をお待ちしております。

  • 日時:2022年11月13日(日)16時〜17時30分
  • 場所:釧路市中央図書館7階 多目的ホール
  • 定員50名(参加費無料)
  • 申し込み先:uminekominato@gmail.com
  • その他:YouTubeでのライブ配信も予定