2023年:夏休み特集・ホラー映画「デビルスピーク」 | 何でもアル牢屋

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いじめられっ子が、いじめっ子に立ち向かうにはどうしたら良いのだろうか

日本人の発想では、せいぜい知り合いの半グレ集団に頼むとか、ヤクザ者に金を払って依頼するのが定番だが、アメリカって国は一味違う。人間以外のモノに願いを託す。それが悪魔崇拝である。
夏になるとホラー映画を観たくなるのが私の習性で、連日、深夜になるとレトロなホラー映画を観まくっている。殺人鬼、吸血鬼、ゾンビ、たまには息抜きに少林寺映画を観て頭の中を中和すると言うアンバランス。で、最近観て余韻の残るホラー映画だったのが81年アメリカ制作の「デビルスピーク」と言う作品。この映画、知る人ぞ知るカルト・ホラー映画になっていて、メジャーではないのに固定ファンが多く、テレビゲーム業界にも多大な影響を及ぼした映画として伝説になっている。
昭和の時代によく、映画評論家の荻昌弘さんの映画番組「月曜ロードショー」で何回も放送されていた。昭和50年生まれの私の世代は、解説者付きのテレビ映画番組をよく観ていた世代なので、記憶に残っている人も居るだろう。

DVD化された際、私はすぐに買った。子供の頃にブラウン管テレビで観た映画がデジタル・リマスター版の奇麗な映像で観れると言うトキメキ感。そして、あの主人公・スタンリー・クーパースミスに又会えると言う喜び。
クーパースミスと言う響きが少年時代の私の記憶に、こびり付いた。このクーパースミス役のクリント・ハワードが素晴らしい虐められっ子を演じている。もう見た目がいかにもって感じで、背が低く、色白で、小太りで、目がいつも怯えて潤んでいる。設定も気の毒で、両親は事故死し、身寄りのない天涯孤独の境遇に置かれ、陸軍士官学校と言う場所で寮生活を送っている。
このクーパースミスを日々いじめ続ける敵役・ババと言う名の同僚のイケメン青年をドン・スタークと言う俳優が演じている。DVD特典にクリント・ハワードとドン・スタークの撮影秘話が収録されており、実際の二人の関係は良好な様だったのでホッとした。映画の中で二人は敵対する敵役と言う事もあって、ドン・スタークの方からクリントに「撮影中は仲良くするのを辞めよう」と持ち掛けてきた事を明かしている。その甲斐あってかドン・スタークの憎々しさは存分に発揮されており、観ている視聴者も、どうにかして殺してやりたい様な錯覚さえ覚える。クーパースミスを苛めている時の表情、言動、喋り方、どれをとっても素晴らしい憎たらしさで、ドン・スタークのプロ意識を存分に味わう事ができる。以下、映画の概要に少々触れておこう。

クーパースミスは、毎日の様にいじめっ子にいびられ毎日が辛い。訓練は厳しいし、好きでもないラグビーの試合に無理やり出場させられてはしくじり、そのしくじりを咎められ、それをネタに又、苛められる。校内の牧師や教官までもグルになってクーパースミスに辛く当たり散らす。

ある日、しくじりの罰として牧師から礼拝堂の地下の清掃を命じられる。その地下でクーパースミスは、人の立ち入らない謎の一室に入り込み、そこで偶然、16世紀にキリスト教に反逆した背教神父・エステバンと言う男の書き残したラテン語の古書を発見する。

クーパースミスは、その古書を持ち去るとコンピュータを使って解読を開始する。連日、取り付かれた様に解読し、遂にその本の秘密を知る。それはエステバンの呪いの言葉であり、サタンとの契約を実行する為の禁断の書だった。
 

ある日、懲罰で食事の遅れたクーパースミスが食堂へ向かうと、残飯しか残っていなかった。

クーパースミスを気に掛ける親切な強面の料理長は、こっちへ来いと招き、ステーキを一枚焼いてくれた。満面の笑みで美味そうに食べるクーパースミス。料理長は「イイもんを見せてやる」と言って厨房の奥へと招く。そこには一匹の母犬と子犬が数匹飼われていた。その中の一匹の子犬は病弱で弱っていて、それほど寿命が長くないと料理長はクーパースミスに告げる。その子犬を引き取って育てるとクーパースミスは料理長に告げ、料理長は承知する。
やがてクーパースミスと病弱な子犬との密やかな生活が始まった。礼拝堂の地下室が安らぎの場となっていった。しかし、それもつかの間、礼拝堂の地下を寝蔵にしている飲んだくれの軍曹に見つかり、犬の首をへし折ってやるとクーパースミスを恫喝する。その直後、地下のコンピュータが勝手に動き出し、軍曹の首が後方に捻じ曲がった。クーパースミスは既にサタンと契約の半分以上を済まし、残る要求は<人間の生き血>だけと言う段階に来ていた。

陸軍学校でミスコンテストが行われた晩。クーパースミスを苛める不良グループは、礼拝堂の地下へと忍び込む。彼等はクーパースミスが清掃を名目に地下室で何かをしている事を知った。そこで子犬が飼われている事すらも突き止めていた。
地下に置かれたコンピュータ画面には「血を捧げよ」と言う文字が怪しく点滅している。悪魔崇拝を面白がる不良グループのリーダー・ババは、酒の勢いも手伝ってか遂に凶行に走る。病弱な子犬にナイフを突き立てた。だがコンピュータは引き続き人間の血を要求するのだった。
クーパースミスが地下へ戻ると、彼等は既に去った後だった。血塗れの机を発見し、犬小屋を覗くと無残な子犬が横たわって絶命していた。子犬を抱き抱え絶望のどん底に突き落とされたクーパースミスは、教官を殺害し、その血で最後の契約を済ます。クーパースミスの体にエステバンの呪いが憑依し、サタンの弟子となり剛力を得る。その手には、かつてエステバンが使っていた魔剣が握られていた。

この映画が革新的なのは、コンピュータを使った悪魔召喚と言う点だろう。ゲーム好きのゲーマーなら、それだけでピンと来るだろう。RPGゲーム「女神転生」である。女神転生の制作者はハッキリと、このデビルスピークと言う映画が元ネタになったと公言している。ファイナルファンタジーで御馴染みの召喚魔法も、出所は、この映画なのかもしれない。
81年と言う制作時期は、テレビゲームも、それほど発展していなかった。日本でもコンピュータは専門家しか使わなかった道具で、一般家庭に浸透するのに、もう少し時間が掛かった。
デビルスピークっていう作品が日本で知られたのは、圧倒的に昭和の映画番組の御蔭であり、当時、上手に映画解説をしてくれた月曜ロードショーの荻昌弘であり、クーパースミスの吹き替えを担当した声優の塩屋翼であった。塩屋翼は当時20代で、派手さは無いが独特な声のトーンもあって適役だったと思う。60代になった今も現役だし、私の世代だとレジェンド級の声優である。
 

最後にクーパースミスを演じたクリント・ハワードについて書いておこう。

DVD特典の撮影秘話によると、正直、出演をするかどうか悩んだらしい。彼は役者一家の生まれで、芸能にどっぷりと浸かり、子役からスタートしたサラブレットだった。
悩んだ彼は俳優である父に相談を持ち掛けた。出演をするか?しないか?父はこう答えた。

「お前がやらなくても他の誰かがやるだけの事だ。つまり、そう言う事だ」

クリントは、この一言で決心したらしい。
それまで親の庇護下にあって活動していたクリントだったが、この作品こそが初めて俳優として自立できた作品だったと語っている。デビルスピークと言う作品で一躍どころか遠く離れた島国の日本でさえも、彼は有名な俳優として印象を残した。履歴を見れば、その後も誰もが知ってるメジャー級の映画にも出演し、あれ?こんな映画にも出てたんだ!と改めて驚かされる。
しかしながら、我々日本人にとっては、愛すべき永遠の悪魔召喚士・スタンリー・クーパー・スミスである事に間違いはないのだろう。