チベット医学の聖典 ~四部医典~ | まーりんのまりんエッセンス

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日本人でただ一人のチベット医(アムチ)小川康さんによる、
チベット医学の紹介/導入講座に参加しました。


小川さんは薬学部卒業後にチベットで医学を修めるのですが、そこまでの話は、
著書『僕は日本でたったひとりのチベット医になった』に詳しいです。
講座では、近代西洋医学、薬学と、チベット伝統医学との相違点を、彼の経験から
話してくださり
、これがとても面白かったです。

チベット医学のテキストは、「四部医典」一冊しかなく、
チベット医は、その文章から学ぶ一方
自ら薬草をとりにいって薬を自分で作るという実践を通して 医師としての技量を
研鑽するということです。

中医学では五行、チベット医学では5色
5つの色が、地・水・火・風・空の5要素、臓器や症状と対応関係にあり、
この対応関係がチベット医学体系を貫いています。



【四部医典とは】
タイトル通り、チベット医学のすべてが込められている。
708年、ユトクという方が著したが、「世に出すのはまだ早い」とされ、300年間柱の中に
隠されていたという。11世紀になって、キャパ・モンシェンという方が、その伝説の聖典を
柱の中から見つけだし、復活。13世紀、やはりユトクという名の方によって現在の形に
編纂された。
チベット医学の学校(メンツィカン)では、この一冊を学ぶのに6年を費やす。
まず、聖典まるごと一冊を暗唱できなければならない。
師匠と弟子は、ともに自分の中にある聖典のフレーズを基にして問答するのが
学習スタイル
なので、暗唱できることが必須条件である。


【医典の記載形式】
聖典は、薬師如来が、説法の請願に応じて語るという形式をとる。
弟子の求めに応じて語る、問答形式であるところは古代ギリシャにおける対話とも
共通性があって興味深い。

なお、瞑想中の如来は、弟子たちの請願に「御心の行者」(ハートチャクラ)にて応じ、
「知恵の行者」という自身の分身に身体構成と病理について語らせる。

 


左:薬師如来 ハートから光が放出
右:左上に、薬師如来の分身がいらっしゃいます 上部の蓮の花には、解脱者の
「虹の体」


これは般若心経との類似性を思い起こさせる。
ダライ・ラマ法王の「般若心経入門」には、その本文はこのように始まる、とある。
「世尊は王舎城の霊鷲山で大勢の修行僧ならびに求道者の一団と座を共にしておられた。
そのとき世尊は、深遠な悟りと呼ばれる、現象の諸相についての深い瞑想に入られた。」
すなわち、
「ブッダは教えを口に出して説いたのではなく、深い瞑想状態にあった。それにもかかわらず
観自在菩薩とシャーリプトラの対話をもたらしたのは、仏陀の瞑想の力によるものであり、
般若心経の教えはこの二人の対話で構成されている。その主要部分は、シャーリプトラが
観自在菩薩に質問するところから始まる。」

また、
四部医典は、暗唱できるようにという意図もあってか、内容はすべて韻を踏んだ
ひとつの詩の形式に則っており、物語性が多分にある。

従って、文字面だけではない多面的な意味が包含されている。


学校での学習は、もっぱら、その多様な意味の一つ一つの理解に当てられる。
一語一語の解釈をすれば、3行ほどで3~4時間はかかる。

日本の大学で薬学を学ぶ6年に使用するテキストの分量ではまったく勝負にならないが
情報量で劣ることはない。小川さん本人は、メンツィカン時代、薬学部時代の10倍は
勉強したとのこと。

また、小川さんは、現在邦訳も手がけられているそうですが、単に情報を伝えるだけでなく
そのニュアンスやフィーリングまで伝えることがなかなか難しく、それが訳文のなかで
できたときに訳本を出したい、とおっしゃってました。


【四部医典の暗唱】
講座では、まず小川さんが聖典のあたまを暗唱してくださったのですが、お経のようです。
そして、小川さんの声がほんとうに朗々と伸びるてゆくので、聞きほれてしまいました。

チベット医は、みなさんこんなにいい声なのでしょうか、毎日唱えるうちに、いい声になって
いくのでしょうか・・・。読経もそうですが、腹式呼吸をするので、健康に大変よさそうです。

あ、本題に戻ると
一冊を通して暗唱するのには、4~5時間かかる。
メンツィカンの卒業試験にも暗唱があり、80~100人の前で、目と閉じて語り続ける。
(もちろん、試験官は医典に通暁しており、どこで間違えたか確実に指摘できる。)

一字一句違えずに暗唱する。
そこには、ヴェーダ聖典や、古事記以前の日本、古代ギリシャの叙事詩のような
口承で伝える理由があるらしい。

人間離れした、圧倒的な情報量の記憶。

しかし、一旦暗記して、内容を習得できれば、聖典のテキストがなくてもOKな自分になる。

小川さん曰く

そうなれば

「何もなくても生きていける」という根拠のない自信を、揺らぐことなくもてる(!)


そして、聖典は講義するものというより、語るもの、としてあるよう。
小川さんが「深い」とおっしゃるのも、チベットの伝統、文化、気候・・・そこでの生活
すべてと切り離すことができないものだからなんですね、きっと。

また、チベット医は毎朝、四部医典に連なる、チベット医学に貢献した方々42人のお名前を
唱えるそうです。それは、医学の歴史の縦軸を通し、自分がその末席に連なることを自覚
すると共に、その知恵を患者の方と共有する意味がある
とのこと。


【四部医典タンカ】
18世紀初頭、聖典の内容がマンダラになる。
いわば「紙芝居」として、マンダラを見ながら意味を説明する。当初は30枚だったが、
最終的に80枚になった。

マンダラ1枚を描くのに2~3ヶ月かかるために、80枚フルセットは、世界中で10セット
ほどしか出ていない。現在、小川さんが知っている限りでフルセットの在処は:

・ラサ
・ダラムサラ
・大英博物館
・ブリヤード共和国
・アメリカの金持
・富山県
・日本の製薬会社社長
・青海省

など

現在、タンカを描くのに必要な2000~3000種類の天然顔料は、チベットでも入手しずらく
なっているらしいです。
天然でない鮮やかな染料でパパッと描いて売りさばく・・・というチベット人もいるそうです
(値段も割安なら、それはそれでいいと思うけど)
天然顔料は2~300年経っても色落ちしないが、化学染料は2、3年でパアだということです(笑)