今年はフランツ・カフカ没後100年なのだそう。
前回の『スウィングしなけりゃ意味がない』の中で、ユダヤ人家族がある日突然、国外脱出の禁止、財産の没収、指定区域への強制移住を言い渡される場面がありました。
それがある朝突然に理由も分からず逮捕されて最後には犬のように殺されるというカフカの『訴訟』(審判)とそっくりだと思ったのです。
カフカもユダヤ人でしたけど1924年に他界した彼が1933年に誕生するナチス政権を知るはずもありません。しかし、まるでホロコーストを予知していたかのようであったことが昔から言われていたのですが、今更ながら私も実感することができました。
この作品は好きで何度も読んでいましたけど、単に「社会の不条理と個人の無力」ということに共感していただけだったので。
そんなわけで改めてカフカを読んでみようかなと思ったときに出会ったのがこの一冊。
『カフカふかふか』 下薗りさ、木田綾子 2024年
1978年ごろから西日本で活動しているという「カフカ研究会」のメンバーが「ここは読んで欲しい」という箇所の引用と、その作品全体の解説をしてくれます。
見覚えのないタイトルも多く、私はカフカの長編いくつかと短篇集1冊しか読んだことがなかったので「そんな作品もあったの?」という驚きが大きかったです。
あと個人的に驚いたのは、「審判」が「訴訟」と改題していたように、「アメリカ」もいつの間にか「失踪者」に変わっていたこと。
カフカは舞台となる土地の名前をはっきりと表記することは珍しいので、アメリカの都市を転々とするこの作品の題名は「アメリカ」のままで良かった気もしますけど、ググったらカフカの日記に「失踪者」と名付けるつもりだったと書いてあるのが発見されての改題なのだそうです。
長年親しんでいた名前が変わるのって違和感が大きいですが、それは慣れの問題なのかな。
この本で一番最初に紹介されるのが『変身』の最初の一文で、「ザムザは目覚めると自分が巨大な○○に変身しているのに気づいた」となっていました。
私が読んだ本では普通に「虫」と書いてあった記憶がありますが、ドイツ語では「Ungeziefer」となっていて、シラミや南京虫やダニ、ねずみのような寄生的な害虫ないし害獣を意味し、実は日本語でぴったりくる訳語がないとのこと。
また別の項では、カフカがずっと父親の脛をかじっていたことに罪悪感を抱いていたためにザムザを父親から「Ungeziefer」と呼ばせたのだという心理にも言及。
このようなトリビア満載で、読んでもよく分からないカフカ作品を読んでもないのに分かったような気分にさせてくれるという、ありがたい一冊でした。
とはいえこれはカフカ・ワールドのガイドブックなので、やはりカフカの作品を実際に読んで「どういう意味?」と悩むのが正しいカフカの楽しみ方なのでしょう。
というわけで早速、光文社古典文庫でカフカの短編集を探して読んでみたら、「インディアンになりたい」なんて作品があってびっくり。
解説によるとカフカは自分の書いたもののうち、価値があるのは「判決」、「ボイラーマン(火夫)」、「変身」、「流刑地で」、「田舎医者」、「断食芸人」の6つだけと考えていたそうですが、この本にはそのうちの4つが収録されていました。