『スウィングしなけりゃ意味がない』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

スウィングしなけりゃ意味がない (角川文庫)

 

『スウィングしなけりゃ意味がない』 佐藤亜紀著 2017年

 

 

前回の『歌われなかった海賊へ』は反ヒトラーユーゲント活動をしていたエーデルヴァイス海賊団という少年少女のグループの話でしたが、本作は「スウィングボーイズ」というまた別の実在したグループのお話。

 

ジャズは「ユダヤ人と黒人の音楽」であり禁止された退廃芸術でしたが、スウィングボーイズは隠れてBBCのラジオを受信したりスウィングジャズで踊るパーティーを開いたりしていました。

 

エーデルヴァイス海賊団が労働階級の子息で構成されていたのに対し、スウィングボーイズは富裕層で教育レベルも高い子息たち。しかしどちらも政治的な信念によって団結したグループではなかったのが面白いところです。

 

『歌われなかった海賊へ』では少年少女たちがドイツ軍相手にドンパチするシーンもありましたけど、それがアニメ的というか、『ぼくらの7日間戦争』を彷彿とするようなジュブナイル感が強かったです。一方本作では、表向きにはハイル・ヒトラーと唱えながら裏で違法なジャズの海賊版を売り捌くという、より現実的で大人のしたたかさを感じました。

 

 

この2作を読むまではナチス政権下のドイツ国内で青少年による反ナチスグループが存在したことすら知らなかったです。

 

ナチスを悪く描いても誰からも非難されないからなのか、近年はナチスを悪役にした映画を頻繁に目にするようになった気がするのですが、当時のドイツ国民が決して一枚岩ではなかったことがわかります。

 

前線送りになるのを避けるために手を尽す若者たち。好きな音楽を楽しんでいるだけなのにゲシュタポに追い回され、収容所では半死半生の目に遭い、終戦間近には爆撃で町は廃墟になり家族を失います。

 

そんな最悪な状況下でも自由と音楽を求め、ナチをコケにする若者たちの姿にしびれました。

 

 

「おれは確信したよ。正しいのはこっちだ。ホールいっぱいの客が望む音楽を、国は邪魔できない。だからおれは決めた。正しさの方が、国より上だ。」(P.211)

 

 

タイトルはデューク・エリントンの名曲「It Don't Mean A Thing (If It Ain't Got That Swing)」から。

 

 

また各章のタイトルもジャズの曲名から取られていたり、作中にその曲の歌詞が書かれていたりするので、その都度YouTubeで探しながら読みました。

 

正直ジャズにはまったく明るくないですし、音だけ聞いてもそれほど夢中にはなれないのですが、物語の世界観に浸りながらジャズを聴くのは極上の音楽体験でした。ジャズを流しながらの読むのがオススメです。

 

 

スウィングしなけりゃ意味がない・・・音楽がなければ生きている意味なんてないなって、本当にそう思います。