『マチネの終わりに』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

マチネの終わりに(文庫版) (コルク)

 

『マチネの終わりに』平野啓一郎著 2016年

 

 

『ある男』での平野啓一郎さんの文章に心酔してしまったのですが、ググったところ多くの人が『マチネの終わりに』を平野さんの代表作と呼んでいることがわかりました。

 

内容は恋愛小説とのことで、私が好んで読みたいジャンルではないのですけど、しかし『ノルウェイの森』が村上春樹さんの代表作であったのを思い出して本作も読んでみようという気になりました。『ノルウェイの森』も意外と面白く読めたので。

 

 

あらすじ:主人公・蒔野聡史は国際的に活躍する天才的なクラシック・ギタリスト。あるコンサートの後に国際ジャーナリストの小峰洋子と出会い運命を感じるのだが、彼女には婚約者がいて結婚を目前にしていた・・・というお話。

 

 

このあらすじだけ見るとコテコテのメロドラマだったことに改めてびっくりしてしまいますけれども、読んでみるとイラク戦争や東日本大震災など当時のさまざまな問題が重層的に描かれる作品で素晴らしかったです。特に主人公がアラフォーのミュージシャンという設定だったので共感して読めました。

 

ちなみにタイトルの「マチネ」とは演劇やコンサートの「昼公演」のことで作品内の主人公のセリフから取られてはいるのですけれども、「前半の終わり」という40代のことを指しているようにも思えました。

 

二人が結ばれてハッピーエンドという単純な話ではない、複雑な大人の恋愛が物語の主軸ではありますが、蒔野のギタリストとしての天才性を表す演奏描写であったり、自分を超えるような若い才能の出現を目の当たりするエピソードや長いブランクを経て一からまた復活を遂げる姿だったりに、一人のもう若くないミュージシャンの物語として大いに引き込まれたのです。

 

私が以前聞いた話によれば男性は過去に終わった恋愛を美化する傾向にあるので、ひょっとしたら男性の方が共感しやすい話かもしれません。ネタバレは避けますが、ある登場人物がしでかすとある行為を許せない女性読者も多いのでは・・・。

 

 

誰かにオススメしたいというよりはずっと自分の胸のうちに大切にしまっておきたくなるような作品でした。

 

『ある男』の時にも思いましたが、平野啓一郎という作家はエンタメ性と文学性を高い次元で両立させることのできる、まさに天才と呼ぶに相応しい才能の持ち主ですね。

 

 

 

 

 

本作も映画化されているとのことで予告だけ見てみましたけど、主演は福山雅治さんと石田ゆり子さんだったのですか。

 

「蒔野ってそんなにイケメン設定だったっけ?」と原作の序盤を読み返してみましたが、蒔野の容姿については何も触れられておらず完全に読み手のイマジネーションに委ねられていました。

 

一方で洋子はクロアチア人の父を持つやや彫りの深いハーフ。

 

どちらも私の想像していたイメージとは違いましたけど、映画の評価はまあまあらしいです。

 

あまりにも原作が良すぎたので、自分の抱いたイメージを書き換えられたくなくて映画を観ようという気持ちにはなれないでいますが、そういえば『ノルウェイの森』の映画版も観なかったな・・・。