【読書の冬 Special 2024】 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

日本の成人の平均読書量は雑誌や漫画を除くと年間12冊程度だそうです。

 

つまり月に1冊ですが、月に1冊も読まない人は全体の約45%もいるとのこと。昨今は本を読むよりも動画を見た方が早いので、活字離れは必然なのでしょう。

 

自分でもなんでこんなに本をたくさん読んでいるのか理由はもはやよく分かりませんが、しかし本とか音楽とか生きる上で必ずしも必要でないはずのものにこそ心が惹かれるものですね。

 

昔はよく「酒を飲まないなんて人生の半分を損しているよ」と言われたものですが、私は「本を読まないなんて」と思っているので、約半分の人が人生の半分を損していることに。

 

つまり人生とは半分は損してもいいだけの豊かさがあるということなのでしょう。得ばかりの人生を送っている人はそれに気がつけない分だけ損しています。半分。

 

 

 

『金閣を焼かなければならぬ』 内海健著 2020年

 

三島由紀夫の小説『金閣寺』は金閣寺を放火した林養賢をモデルに書かれましたが、主人公はかなり三島の分身であったように感じたので、実際の犯人はなぜ放火したのかが気になって読んでみました。

 

精神病理学者である著者の分析によれば、林は精神分裂症(統合失調症)で自分でも放火した理由をはっきり覚えていないことから「動機はなかった」と断じます。

 

理由のないことに不安を覚える我々が、後から動機を造るのだと。

 

ガチの精神分析だとそうなのかもしれませんが、いまいち納得のいかない一冊でした(笑)

 

 

 

 

 

『首無の如き祟るもの』 三津田信三著 2007年

 

奥多摩の奇怪な伝説のある旧家で奇怪な連続殺人事件が起こるという民俗学チックなミステリ/ホラー。

 

「ドンデン返しが凄い」という噂で読み始めましたけど、祟りとしか思えないような異常な事件の連続にこれがホラーなのか、考えれば犯人を推測できるミステリなのか判断に迷いながら読みました。

 

最後の最後で二転三転するアクロバチックな推理が展開され、合理的な説明のつく犯罪だったことが一応分かってスッキリ。

 

話の続きが気になって気になって一気に読みましたし、最後は見事なオチだとは思いましたけど、本作に限らずミステリって大体の場合、話に無理がありすぎるように思うのですよ。

 

怖いものを読みたい人にはおすすめ。・・・まあ、それ以外の人が手を伸ばすことを考えられないタイトルですけれども。

 

 

 

 

 

『逆転美人』 藤崎翔著 2022年

 

「美人は得だ」とよく思われるが、美人であるが故に不幸な人生を送ってきたという女性の手記、という体裁で書かれた小説。終盤に実はその手記にはあるトリックが隠されていた、というドンデン返しミステリでした。

 

手記は『嫌われ松子の一生』のように不幸な出来事が次々と主人公の身の上に降りかかるというもので、読んでいてしんどかったです。

 

終盤のネタバラシでは確かに仕掛けには驚きましたけど、ただのワンアイデアに過ぎないというか、「よく思いついたね」という以上の感慨はもてませんでした。

 

ただネット上ではわりと絶賛する声が多くて、そうやって話そのものよりもトリックを面白がれる人がミステリの読者として向いているのでしょうね。

 

 

 

 

 

『文にあたる』 牟田都子著 2022年

 

図書館員、出版社の校閲部勤務を経て、個人の校正者となった著者の「校正とは何か? どのような仕事か?」ということを綴った一冊。

 

裏方の仕事であるがゆえに知らないことだらけで、非常に興味深かったです。

 

単に文章の間違いを正すだけの仕事ではなくて、書かれている事実をひとつひとつ丹念にチェックしたり、辞書的には間違いであっても作者の意図をくんで直さなかったりなど、気苦労や葛藤の絶えない職業であることが偲ばれました。

 

そういえば私の出した『ネイティブアメリカンフルートのすすめ』『ネイティブアメリカンフルート楽曲集』も自分では何度も見直したのに初版は間違いが多くて、第三者の客観的な目で見てもらうことって大切だなと思ったことを思い出しました。

 

 

 

 

 

『ある男』 平野啓一郎著 2018年

 

あらすじ:里枝は離婚して宮崎の実家に戻っていた。そこである男と再婚したのだが、ほどなく男は事故で死んでしまった。疎遠だった夫の実家に連絡を入れると夫の兄がやって来たが、死んだ男の写真を見て弟とはまったくの別人だと言う。里枝の夫は果たして何者だったのか・・・というミステリ風なお話。

 

あらすじだけ読んでもなんとなく怖いですし、物語の冒頭も著者が実際にバーで会った人物からこの話を聞いたと語り、実在の事件のルポルタージュなのではないかという思ってしまうほど異常なリアリティーを感じました。

 

事件の解明につれ、主人公は自身のアイデンティティーを含めさまざまな問題と向き合うことになり、物語はどこに連れて行かれるかわからないようなスリリングさもありながら最後は泣けるという傑作。

 

平野啓一郎さんのデビュー作にして芥川賞受賞作『日蝕』(1998年)のあまりに衒学的な作風に、「また一人天才が現れた」という気持ちと同時に「一発屋なのでは?」という感想も覚え、その後の平野さんの作品を読まずにスルーしてきましたけど、本当に申し訳ありませんでしたと平身低頭するほかないですね。

 

年末に読んだのですけど、おそらく昨年読んだ本の中で一番面白かったです。