「WINDWALKER」楽曲解説 | Wind Walker

Wind Walker

ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

5thアルバム「WINDWALKER」のCDブックレットに書いた楽曲解説を掲載いたします。オンラインで視聴・購入される方の目に触れる機会がないのは残念なので。

 

 

 

 

1.ストームブリンガー 

 

今回のアルバムの特徴はなによりもコロナ禍に作られたことです。ストームブリンガー(嵐をもたらすもの)とは世界中に死と恐怖を撒き散らした新型コロナウイルスのこと。絶対悪と見なされるウイルスですが、人類の歴史を振り返ってみれば破壊と再建を繰り返すことで進化してきたわけで、映画に悪役が必要なように新型コロナウイルスも世界に新しい変化をもたらす使命を帯びて登場したのではないかとも思えるのです。またアメリカインディアンもかつては西部劇で悪役として登場しましたが、最近では植民地主義の犠牲者という本来の姿で描かれるようになりました。しかし今にして思えば、悪役として自由に暴れ回っていた頃のほうが格好良かったなという思いも込めて、西部劇の匂いも少しだけ曲の中に入れています。 

 

 

2.バタフライメイデン 

 

本作を制作するにあたって数えきれないほど多くのメロディーの断片を作りましたが、この曲の冒頭で流れるフレーズを思いついた時にまた新たな名曲の誕生を確信したのです。最初はフルートのソロ曲でしたが、甲府のライブで演奏したところ思ったほどの手応えを感じられなかったので、その時のライブで共演していたチャンティーさんにピアノアレンジをお願いしました。素晴らしいアレンジのおかげでさらにドラマチックな曲になったと満足しております。 

 

 

3.木漏れ日 

 

ライブではお客様からキーワードを言ってもらってそれを元に即興演奏するという遊びを時々披露しています。過去に「木漏れ日」というお題を頂いた時の演奏への客席の反応があまりにも良かったので、当時の即興演奏を再現するような曲を作りました。曲のタイトルは変えようかとも思いましたが「木漏れ日」に相当する概念が外国語に無く、翻訳できない日本人独特の情緒的な感性を示している言葉であることを知ってこのままにしました。

 

 

4.サザンクロス 

 

新型コロナウイルスの犠牲者への追悼曲。日本ではウイルス感染による死亡者はそれほど多くなかったようですが、世界では500万人以上という驚くべき報告があります。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』で十字架の信仰を持つ人々の天国の入り口としてサザンクロス駅が登場したことから曲のタイトルとして頂きました。 

 

 

5.スリーピングビューティー 

 

アメリカのアリゾナ州にスリーピングビューティーという名のターコイズ鉱山がありました(2012年に閉山)。鉱山の形状が横たわっている女性の姿に似ているという理由でその名が付けられたとのことですが、まだ地中に埋まっている原石を「美しいものが眠っている」と表現しているようにも思えたのです。私が音楽を演奏している理由も、あなたの中に眠っている美しいものを目覚めさせるためなのかもしれません。 

 

 

6.火を熾せ 

 

次の「夜の火の月」につながる序曲。タイトルはジャック・ロンドンの短編小説「To Build A Fire」から。 

 

 

7.夜の火の月 

 

前掲した「歌い、踊り、火を熾せ」というインディアン長老のメッセージに触発されて生まれた作品。アメリカ先住民の各部族には独自の月名があり、「夜の火の月」はニューメキシコのプエブロ族と過ごした詩人ナンシー・ウッドの著書の中で12月の異名として登場しました。 

 

 

8.こころの原風景 

 

信州原村をイメージした曲。原村は私の第二の故郷とも思える大切な土地で、いつか曲を作りたいと思いつつなぜか長い間作れないでいました。その理由は、原村には現代の爽やかな避暑地というイメージと縄文時代に繁栄を誇った土着的なイメージというまったく異なる二つの顔があるからではないかと思い当たったのです。その二つのイメージを併存させる形でようやく一つの曲を完成させることができました。

 

 

9.ダンス・ウィズ・アニマ 

 

2021年の20周年記念ソロライブにて「アニマ」と「アニムス」と名付けた二つの実験的な即興演奏を行いましたが、その前者を発展させて作った曲。アルバム制作中にトルコで大地震があったので犠牲者に捧げるような曲を作りたく思い、普通インディアンフルートでは演奏されることのないオリエント系の音階を使用しました。タイトルはヘルマン・ヘッセの小説『荒野のおおかみ』にて、主人公の男性が著者のアニマである女性キャラクターからダンスを習うことで生への 情熱を取り戻すくだりから。 

 

 

10.虹の戦士 

 

地球が病んで、動物たちが姿を消し始めるとき、みんなを救うために虹の戦士たちが現れるーーという伝承が古くからアメリカ先住民に伝わってきたと言われています。ライブでは「Seven Generations Ahead」(7世代先)というタイトルで披露したことがありましたが、アルバム収録にあたって改題しました。アメリカ先住民の世界では東西南北を示す4が聖なる数とされることが多いですが、前後左右に上下、そして中心を加えた7という数字もまたこの世界を示す聖数です。7を象徴する「虹」の戦士は7世代先の子孫のために戦う存在なのです。soldier(兵士)が上からの命令に従って戦うのとは異なり、warrior(戦士)は自らの意思で戦います。 

 

 

11.スワンソング 

 

白鳥が死の間際に最も美しく歌うという伝説から、芸術家の生前最後の作品をスワンソングと呼びます。コロナ禍によって今後のアーティスト活動の継続が困難と思われた際にこの曲を作りましたが、本作が私にとって本当のスワンソングにならないように祈ります。

 

 

 

 

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