『同志少女よ、敵を撃て』 逢坂冬馬著 2021年
あらすじ:独ソ戦の激化する1942年、猟師の娘セラフィマが狩猟から帰ってくると村がドイツ軍に襲われていた。セラフィマも捕まってあわやというところで赤軍の女性兵士イリーナに救われる。復讐を誓うセラフィマをイリーナは狙撃手の訓練所へと連れていく。するとそこには同じく家族を失った少女たちが連れてこられていて・・・という物語。
2022年2月24日にウクライナ戦争が始まった頃、物語ではロシアがナチスに侵略される側ですけど民間人が軍隊に入って抵抗するという関連性も手伝ってか、随分と話題になりました。
独ソ戦に参加した女性兵士たちのインタビュー集『戦争は女の顔をしていない』やスターリングラード攻防戦を舞台に実在したスナイパー、ヴァシリ・ザイツェフを主人公にした映画『スターリングラード』(2001年)を先に観ていたので、「読まなくてもいいかな。いや一応図書館で借りるかな」と思って図書館の予約をしてみたところすでに予約待ちの人が500人以上もいるじゃありませんか。
それでももうすぐ借りられそう、というところまで順番が来たところで私が市をまたいだ引っ越しをしてしまったので、もう一度最初から500人待ちをする羽目に(笑)
そんなわけで読み始めるのにまさか2年もかかるとは思いませんでしたけど、2年経ってまだウクライナ戦争が終わっていないなどとは当時は予想もしていなかったです。
で、それだけ待ってやっと読み始めたわけですけど、キャラクターの設定や台詞回しがアニメっぽいこともあって、少女たちが訓練の日々を送る序盤は学園ものの萌えアニメのようで、途中で投げだそうかと思うほどゲンナリしてしまいました。
が、しかし。
少女たちが実戦に配備されると俄然面白くなりました。『戦争は女の顔を〜』のブログでは「戦局の推移を一切描かずに兵士の個人の体験のみを語っているのが良い」と書きましたけど、物語としてはやっぱり戦局の推移を追うほうが面白いですね(笑)
敵味方合わせて200万人が死亡したという、人類の歴史上最も多くの犠牲者を出したスターリングラード攻防戦やその前後のことがよく分かり、勉強にもなりました。
少女ばかりを集めてスナイパー部隊を作るなんて漫画の世界だろう、と『戦争は女の顔を〜』を読んでいなければ思っていたことでしょうけれど、独ソ戦でのソ連軍には若い女性がたくさん兵士として従軍していたこと、女性が狙撃手として優れていたことなどは事実でしたし、エピローグでは戦後、地獄のような戦場を経験した兵士たちが心に失調をきたして日常にうまく戻れなかったこと、帰郷した女性兵士は同じ女性から疎外されたことなども事実に即して描かれていてとても満足です。
最後にあの人が主人公を訪ねてくるというエピソードも「うまい!」と思ったのですけど、ネタバレっぽいので伏せておきます。気になる方はぜひ読んでみてくださいね。
いやはやこれがデビュー作だなんて、恐れ入りました。