『戦争は女の顔をしていない』 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著 2016年(原著は1984年)
第二次世界大戦のとき、ソ連では100万人を超える女性が従軍したそうです。看護婦や通信兵としてだけでなく、普通の兵士として。
しかも彼女たちは徴兵されて戦わされたのではなく、多くは志願兵でした。「戦争はすぐに終わる、我々の勝利で」という当時のプロパガンダに踊らされた結果です。
戦争が終わると男たちは故国を守った英雄として賞賛を受けましたが、彼女たちは「戦地に行って男の中で何をしてきたのやら」という蔑視を受けることになり、口を閉ざし、戦地に赴いた過去を隠すようになりました。
著者のスヴェトラーナさんはまだ彼女たちが生きている間にと500名以上の元女性兵士とインタビューしてこの本が生まれました。2015年にジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞。
普通、男性の書く戦争の話は「戦争は悲惨なもの」と言いながらも、どのような作戦が勝利を導いたのかという戦いの推移をどこかゲームのように楽しむ描写がメインになってしまうものですけど、本作はインタビューを受けた女性兵士の個々の体験談がひたすら羅列されることによって戦争の悲惨さ、そして一兵士が負うことになる心の傷がクローズアップされる構成でした。
本当に数多くのエピソードが満載ですが個人的に心に残った箇所をいくつか挙げると、まだ若い前戦の女性兵士たちが家を恋しがり、武勲を立てて数日間家に帰ることを許された女の子が戻ってきた時、「おうちの匂いがする」と行列を作って順番に匂いを嗅がせてもらったところ。
そして常に死と隣り合わせだった日々は数十年経っても彼女たちの心にトラウマを残し、「せめて一日でもいいから戦争のない日を過ごしたい。戦争のことを思い出さない日を。せめて一日でいいから・・・」(p.166)という言葉も強烈でした。
ある女性が友達にスターリン賛美の言葉を口にしたときに返ってきた言葉が、「違うわ、あんたは馬鹿ね。うちのお父さんは歴史の先生だけど、あたしにこう言ったわ、いつか同志スターリンはこの犯罪の責任をとることになるって」(p.17)
戦争の悲惨さは実際に体験しないと本当のところは分からないのでしょうけれども、本作を読んでウクライナでの戦争が一日も早く終わって、兵士や民衆の犠牲や苦しみがこれ以上続くことがないようにと願いを新たにしました。
是非プーチンさんにも読んでいただきたいです。