【読書の秋 Special 2020】 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

秋深し。

 

・・・といえば、「隣は何をする人ぞ」と続けたくなりますが、正確には松尾芭蕉は「秋深き」と詠んだのですね。間違えて覚えてました。

 

読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋など、「◯◯の秋」といろいろ言われますけど、そのことと「何をする人ぞ」という句になにか関連があるのではないかと思っているのは私だけでしょうか。

 

この秋、あなたは何をする人ぞ?

 

 

 

『恋しくて』 村上春樹編訳 2013年

 

村上春樹が選んで翻訳した海外のラブストーリーのアンソロジー。

 

しかしながら村上氏が翻訳したものではなく書きおろした「恋するザムザ」という作品を目当てに読んでみました。

 

カフカの『変身』の後日談で、『変身』はザムザが虫に変身する話でしたけど、本作は何かがザムザに変身した話。

 

恋愛小説なのかと言われると微妙ですが、村上春樹らしい男女の会話が楽しめる小品。

 

翻訳された作品のほうにも恋愛小説らしからぬちょっとひねったラブストーリーがあって、その多様性が面白かったです。

 

表紙は竹久夢二。

 

 

 

 

 

『ドストエフスキー『悪霊』の衝撃』 亀山郁夫 リュドミラ・サラスキナ 2012年

 

『悪霊』を翻訳した亀山郁夫氏とロシアを代表するドストエフスキー研究家、リュドミラ・サラスキナ女史の対話。

 

サラスキナさんは「スタヴローギンを愛しています。」と言います。

 

そう、この小説の主人公と呼べるのかは分かりませんが、作品世界に君臨しているのは間違いなくニコライ・スタヴローギンであり、『悪霊』を象徴する人物。物語の筋は忘れてもスタヴローギンの印象を忘れることはありません。

 

スタヴローギンは家柄の良い美男子で、人が羨むすべてを持っているのに(持っているからこそ?)、残忍な好奇心から悪事に手を染めるジョーカー的存在。

 

彼のような存在は誰の心の中にもいるものなので、昔のロシアの話だから自分に関係ないと思って『悪霊』を読まずにいるとしたら本当にもったいないです。

 

それにしてもサラスキナさんの作品理解の鋭さ、そしてこのような奥深い作品を書き上げたドストエフスキーという作家の偉大さにはただただ脱帽するばかり。

 

もちろん『悪霊』を読んでいないと楽しめない一冊ですが、最近読んだ本の中ではダントツに面白かったです。『悪霊』を読んだことがある方にはオススメ。いや、この本を読むために『悪霊』を読みましょう!

 

 

 

 

 

『仮面の解釈学』 坂部恵著 1976年

 

「仮面」をキーワードにした哲学書。民俗学の本と間違えて読みました。

 

かなりアカデミックな内容なので文章は難解ですが、仮面に魅かれる方は読むべき一冊だと思います。

 

仮面は素顔を隠して別の人格を装うものではなく、素顔の持つ自己同一性を揺るがすもの。日本語が述語だけで成立できるように、仮面は<主語とならない述語>であり、<意味されるもののない意味するもの>。かぶる者の主体に従属するものではないということ。

 

普通の哲学書では当たり前のように横文字が乱用されますが、日本語で哲学することにこだわる姿勢には好感が持てました。それでも理解しきれませんでしたが(笑)。

 

 

 

 

 

『華氏451度』 レイ・ブラッドベリ著 1953年

 

本が禁じられた世界を描くディストピア小説。人々は壁テレビと耳にはめる「巻貝」からの一方的な情報と絶え間のない娯楽によって自分で考える力を喪失している。主人公は本を燃やす仕事に従事するファイアマン(昇火士)だが、ある少女との出会いをきっかけに自分の仕事に疑問を抱き始め・・・という話。

 

テレビの普及によって人々が自分で考える力を失うであろう将来を懸念して書かれたそうですけど、「壁」や「巻貝」はバーチャル世界に逃避している現在の我々の環境を予見しているようにも感じました。

 

読書の大切さとは能動的に考えることだけでなく、過去から受け継がれてきた知恵を次の世代に繋いでいくこと。

 

ディストピア小説ですが、この手の話としては珍しく未来への希望が見える結末なのが良かったです。

 

ちなみに華氏451度とは摂氏でいう約233度で、紙が自然発火する温度なのだそうです。何よりもこのタイトルを思いついたことが素晴らしいなぁ。

 

 

 

 

 

『デューン 砂の惑星』 フランク・ハーバード著 1965年(新訳版は2016年)

 

奇才ホドロフスキー監督が超豪華キャストの映画を作ろうとして頓挫したことや、『風の谷のナウシカ』の王蟲の元ネタとしても有名な作品。

 

傑作SF映画『メッセージ』を撮ったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が本作を映画化するというので、公開前に読もうと思いましたが挫折しました。

 

この作品の何が難しいかというと、独自の専門用語が説明もなく多用されること。個人的には超難解とされる『黒死館殺人事件』よりも更に厳しかったです。

 

実は以前にもチャレンジして1巻の途中で挫折したことがあって、今回は新訳版で読むので大丈夫だろうと思ったのですが、結局ほぼ同じところまでしか読めませんでした。

 

もう大人しく12月の映画公開を待つことにしました・・・。

※追記:公開は2021年10月に延期されたようです。