『黒死館殺人事件』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

 

黒死館殺人事件 (河出文庫)

 

『黒死館殺人事件 小栗虫太郎著 1935年

 

 

『黒死館殺人事件』は夢野久作の『ドグラ・マグラ』、中井英夫の『虚無への供物』とともに「三大奇書」と呼ばれる一冊。推理小説でありながら推理小説であることを拒むアンチミステリーだそうです。

 

本作は連続殺人事件に探偵が挑む話なのですが、なにが奇書なのかといえば、犯人及び探偵の神秘思想・占星術・異端神学・宗教学・物理学・医学・薬学・紋章学・心理学・犯罪学・暗号学などの夥しい衒学趣味が溢れていて、推理小説の部分よりもよく分からないウンチクの比重の方がずっと大きいのです。

 

文章も専門用語やルビが非常に多く、読みにくいことこの上ありません。

 

著作権が切れているため青空文庫でも読めますので、まずは冒頭部分だけでもちらっと読んで来ていただきたいです。

 

→青空文庫

 

 

・・・ほらね? 「臼杵耶蘇会神学林うすきジェスイットセミナリオ」だの「ボスフォラス」だの、出だしからいきなり怪しい固有名詞の波状攻撃ですよ。驚くべきことに、この調子が最後まで途切れることなく続くのです。

 

『ドグラ・マグラ』が「読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と言われていましたけど、そのキャッチコピーは本作にこそ相応しいのでは。

 

目で字面だけ追って内容がほとんど頭に入ってこない箇所が多々ありましたけど、この独特の雰囲気は決して嫌いではなかったので一応最後まで読みました。

 

たぶん厨二病気質の人間にはこの理解しがたい雰囲気がむしろ格好よく感じるのだと思います。まともに理解しようとする人は序盤で挫折してしまうのではないでしょうか。

 

最後まで読んだところでどっと疲れるわりに得られるものは何一つなかったので、これ以上読む必要がない本はこの世界に存在しないのではないのかとすら思いましたけど、本作を面白がって読むような変態とは友達になりたいです(笑)。

 

ちなみに私が読んだ【新青年版】には1970年以降「黒死館語彙」の蒐集調査を続けているという山口雄也氏による夥しい注釈が付いていて、これまた変態的な執念を感じました(褒めてます)。

 

 

あとは『虚無への供物』を読めば三大奇書を制覇できるので、頑張って読んでみようかな。まあ制覇する意味も必要もまったくないんですけど。

 

 

 

 

古典を漫画化する「まんがで読破」シリーズのラインナップに、なんと本作もありました。

 

このシリーズは過去に何作か読んでみたことがありましたけど、話の筋が分かるだけで古典の持つ深みはまったく伝わらなかったので、手軽にこんなもんを読んだからといって読破した気分にならないで欲しいなぁ、と思っていました。

 

しかし話の筋すら把握するのが困難な本作は、漫画にする意義が他のどの作品よりもあるのではないでしょうか。あの内容をわずか190ページの漫画にすること自体がほとんど奇跡です。

 

本作に興味を持たれた方はまず漫画版から読むのがオススメ。三大奇書などと言われるくらいですから、これ以上奇妙な作品にはめったにお目にかかれないですよ。