空き地前 | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。



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飲んで酔った帰り道。
いつの間にできていたのか?
いや、できたというよりは取り去られたといったほうがいいのだろうか?
ビルとビルとの間に、空き地ができていた。
俺が気に留めなかっただけで、すっと前からそうなっていたのか?
兎に角、そこにはこのあたりじゃあまり見ない、むき出しのこげ茶色の土が、その空き地一面を占めていた。
空き地の向こうには、普段なら遠回りをしなければ辿りつけないもう一本の公道が見える。
俺は、その誰かの私有地には違いないであろう空き地を、その掘り起こされてむき出しになった柔らかい土を踏みにじりながら、駆け出し、向こう側の公道に渡りたい欲求にかられた。
どうせ、いずれはここにも新たなビルが建ってしまうのだ。
そうしたら、とてもそんなことは出来なくなる。
更地になっている今が絶好の機会に違いなかった。
幸い、見渡したところそれを咎めるような人影もない。
「よし!」
意を決し、俺はその大地に飛び込もうと身構えた。
そして一歩を踏み出そうとした、その時、
「あら、センセ!今、お帰り?」
聞き覚えのあるハスキーボイスが聞こえ、振り返ると、近所のスナックのママが笑ってた。ママにかかれば客の男は誰でも「センセ」だ。
「ええ、まあ。」
俺はそう答えると、何事もなかったかのように、涼しい顔で、
「ママは、今からお店っすか?」
と訊ね返した。
「そうよ。」
そう答えた後、ニヤリと表情を変えると、ママは続けた。
「そういえば最近、センセ、全然来て来てくださらないじゃないのよ。そろそろ元老院、蒸発しちゃいますよ。」
元老院ってのは、俺がママの店にキープしている焼酎の名前だ。
「いやいや、ごめんなさい・・・」
頭を掻き居ながら、結局の所、俺は次の文句を続けていた。
「それじゃ、今から行きますか!」
こういうところ、俺はノリが悪くない。
妻風に言えば、「オマイさんは、ほんとお馬鹿さん。」だ。
だけど、ママは喜んでくれた。
「あら、嬉しい。」
そういうとママは、今度はにっこりと表情を変えた。
こうして俺はママと並んで今来た道を戻りだす。
「ところで、あの空き地。昔何があったんでしたっけ?」
ママの店に向かいながら俺は隣を歩くママにそう訊ねる。
「あれ?そういえば、なんだったんでしたっけ?あらヤダ、思い出せないわ。」
ママはそういうと照れを隠すように俺の腕を軽くひっぱたき「アハハハハ」と笑った。


追記。
言っときますけどね、ママは70過ぎのおばあちゃんですから。