第266話 落雷
「まりもちゃん、今晩みんなで飲みに行くよ」
トリを勤める瀬奈姐さんが
ホットカーラーをはずしながら言った。
「あっ、私は遠慮しておきますー」
即答した。
近頃の私は
本を読むことが何より楽しくて
飲みに行ったり女同士で世間話をすることに
なんら興味を持てなくなっていた。
瀬奈姐さんは
明らかに棘のある口調で
「……マイペースなんだねぇー」
と言いながら横目でジロリと睨みをきかせた。
「すいませーん」
肩をすくめ
申し訳なさそうに謝りはしたものの
全く気にはしていなかった。
人からどう思われようが関係ない。
そう思うようになってから
私はだんだんと孤立していった。
「嫌われたくない」
「みんなから好かれたい」
「あの子と比べて私は」
そんなことばかりを考えていた
少し前までの私。
だけど
他者からの評価なんて
相対的ですごくあいまいなものだ。
いつもいつも自分と何かを比較して
たえず自分の位置を確認していないと不安で。
上をみても下をみてもキリがないのに
背伸びすることばかりを覚えて
いつしか本当の自分を見失ってしまった。
たくさんの仮面を使い分けながら
どれが本来の自分の姿なのかもわからないくらいに。
でも今は違う。
私は少しずつ
自分自身を取り戻している。
「自分らしさ」なんてものは
本当はまだよくわかっていないけれど
誰にみせるわけでもなく
ひたむきに頑張ってさえいれば
胸を張って生きていられる。
自分の存在を肯定できてこそ
ありのままの自分でいようと思えるのだから。
相対評価の土俵の上からぽんと飛び出したことで
私は自由になり強くなった気がする。
ジャッジするのは自分自身でいい。
しかし
それには問題もついてまわった。
今回のメンバーの中では
瀬奈姐さんの権力がとても強いことは分かっていた。
瀬奈姐さんは
自分を中心にみんなが輪になることを望むし
楽屋内のことは
完全にコントロールしたがる性格だった。
頑として他人の影響を受けない私の態度に
瀬奈姐さんの私に対する心象は
日に日に悪くなっていくようだった。
そのうち
意味ありげな含み笑いなど
小さな嫌がらせを受けるようになった。
舞台を終えて楽屋に戻ってくると
なんとも言えない嫌な空気を流された。
ある程度なついた素振りでもみせれば
もう少し楽屋での生活がうまくいったのかもしれない。
だけど私にはそれが出来なかった。
昔のように狡猾に振舞えずに
うんと不器用になってしまった。
現実的な身の回りのことには
ほとんど感心を持てずに無頓着だった。
本を読んで
新しい情報に出会い、真実を発見しながら
目に見えない何かを必死で模索していた。
仙台にきてからはとくに
私の内面には次々と変化がおこっていて
新しいパラダイムが形成されていった。
遥か遠くを眺めているからか
あるいは視野が広がったせいなのか
一番近い場所には焦点があわずに
ある種の社会不適合を起こし始めていた。
その日も
私は本屋に出かけた。
7月も半ばだというのに
外は曇っていて涼しいくらいだった。
500メートルほどの国文町通りを抜けて
晩翠通りの交差点を渡ると
「丸善」という大きな本屋さんがある。
ゆっくりと立ち読みをしてから
数冊の本を買って外に出ると
ちょうど夕立が降ってきたところだった。
充電されたエネルギーを放電するかのように
落雷が連続して大きな音を轟かせた。
出の時間が迫っていたから
雨宿りをしている暇はなかった。
激しく打ちつける雨の中を
早足で歩き始めた。
空を鋭く裂く稲妻が
何かの前兆みたいで胸騒ぎがした。
なんか思い入れが強すぎて、何度ブラッシュアップしても納得がいく文章にならなぃー。
更新遅くなってごめんなさぃ。 もう春だねー。 お花見行きたいなぁ。
携帯らぶどろっぱーはこちら![]()
