第291話 破壊
俊ちゃんは
見るからに切羽詰った様子だった。
目の下の筋肉が
はっきりと見て取れる程ブルブルと震え
呼吸をするごとに肩が上下に大きく動いていた。
何か重大な告白を受けるのだと感じて
身構える私の不安と緊張も頂点に達した。
俊ちゃんが次の言葉を発するまでに
最悪の事態を想定しておかなければと思った。
そうすることで不安や恐怖を織り込み
現実のショックを和らげるという自己防衛本能が働いたのだ。
私の頭はフル稼働で
いくつかの最悪の事態を想像する。
盗撮されていた場合。
私生活やセックスが垂れ流されていたとしたら……
私はそもそもAV女優だ。
裏ビデオが流出したところで
社会的ダメージを受けることなどない。
一般人のお嬢さんが
いきなり裸を公然に晒されるわけではないのだから。
そうだ……
盗撮くらいどうってことはない。
無論
ギャラをもらっているわけではないから納得はいかないけれど
そんなことはたいした問題ではない。
そうだ。
そんなことなら別に大丈夫だ。
――大丈夫――
私は自分自身に言い聞かせる。
けれど
そこに俊ちゃんの意思が加わっていたとなれば話は別だ。
私が一番恐れているのは俊ちゃんの裏切り。
この愛が真実の愛だったという揺ぎ無い確信が奪われることだ。
二人の愛に比べれば
世の中の全てが不確かで曖昧なものに思えた。
私にとってこの愛は
自分自身の核であり
私と世界を結びつけている軸なのだ。
失えば足元が崩れ落ち
何もかもがバラバラになってしまうだろう。
二度と取り返しがつかないくらいに。
だけど……
今の俊ちゃんの様子を見れば
少なくとも喜んでお金のために私を売ったということはなさそうに見える。
ずっと何かに怯えていたようだったし
明らかに俊ちゃんも苦しんでいた。
きっと事情があってこのことなのだ。
ああ…… でも……
だいたいそんな事情なんてありえるだろうか。
俊ちゃんは
演技をしているだけなのかもしれない。
盗撮をしていたくらいなら
きっとどんな嘘だって平気でつける悪党に違いないのだから。
盗撮に俊ちゃんが加味していたなら
これから先どうするつもりなんだろう。
私と別れて厄介払いするつもりだろうか。
それとも
盗撮なんてはなかったと思い込ませるために
愛しているふりを続けて付き合っていくのだろうか。
敵は事件の発覚を恐れて
もう俊ちゃんに何かの指示を出しているのではないだろうか。
私の様子を監視しておけとか……
口封じのために殺せとか……
ああ、そうか。
一番最悪な結末はきっと殺されることなのだ。
なんだ。
私は殺されることなんて怖くはない。
命なんて惜しくないよ
俊ちゃん。
殺したいなら殺せばいいよ。
いっそのこと殺してよ!
俊ちゃん
私を殺してっ!
頭の中がオーバーシュートしていく。
想像が発展して感情が高ぶり
涙が止め処なく溢れて頬をつたった。
「何なの? 大変なことしちゃったって?」
早く決着をつけてしまいたくて
私は俊ちゃんに尋ねた。
「やっぱり…… なんでもねぇわ」
俊ちゃんは泣き出しそうな顔で言った。
「はぁ?! 何それ? 何?!」
私はわけがわからずに叫んだ。
こめかみの血管が破裂しそうだった。
「……もう寝るよわ」
俊ちゃんはそう言って
また布団をかぶってしまった。
冗談じゃない!
私は布団を引き剥がし
俊ちゃんの背中をグウで叩いた。
「いいかげんにしてよっ!!! 大変なことしちゃったって何なの?!
自分で言い出したことでしょ! 最後までちゃんと言ってよっ!!!」
私がいくら怒鳴っても
俊ちゃんは黙っているだけだった。
俊ちゃんの背中は
石のようにただ何かに耐えていた。
私は憤りを抑えられず爆発した。
「そう! もういいよっ! 寝れば! 私は一人で証拠を探すから!」
チェストの上に置いてあったドライバーを握り締める。
ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!
怒りにまかせて
闇雲にドライバーを壁に突き刺していく。
ドライバーをグルグル回して穴を広げる。
広がった穴に自分の指を入れて
壁紙をはがし石膏ボードを砕いていく。
俊ちゃんは私を無視したまま
その背中は微動だにしない。
どうして何も言ってくれないの?
どうしていつも一人で悩みを抱え込むの?
違う!
俊ちゃんは敵なんだ!
ガッ! ドン! ドン! ガッ! バリッ!
私は
一心不乱に髪を振り乱し
大きな音をたてどんどん壁を破壊していく。
狂気の沙汰だった。
彼の部屋と共に
私の精神も崩壊していったのだ。
「第一回らぶどろっぷオフ会」はおかげさまで大成功を収めることが出来ました。
今回来てくださった43人のらぶどろっぱー諸君!本当にどうもありがとう。
私はとても幸せ者だと思ったよ。詳しいレポは章間の挨拶文の時にしますね♪
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