第292話 敵の思惑
私は自分のおかれたその不可解な状況を
少しでも理解しようと勤めている。
混乱し戸惑いながらも
この状況を成立させている論理や基準のようなものを
なんとか把握し呑み込もうと全力を尽くしている。
だけど
どういう筋道を組み立ててみても
途中で辻褄が合わなくなる。
『なにがなんだかわからない』
何の説明もくれないまま
ベッドの上で眠っている俊ちゃんをみつめる。
『どうしてこんなことになってしまったの?』
横たわるソウルメイトに心の中で切なく問いかける。
俊ちゃんは
青白い顔を天井に向けたままみじろぎもしない。
寝息さえ聞こえない。
部屋に充満する重みのある沈黙に息が詰まる。
『私の頭はおかしくなってしまったのだろうか』
もちろん何度だって自分にそう問いかけてはみた。
だけど
隠蔽されていた穴
コードを引き抜くような音
金属を叩くような音は現実だ。
俊ちゃんの
「大変なことをしてしまった」という一言も現実だ。
そして俊ちゃんは
敵の存在を否定もしなければ
私が部屋を破壊することを制止もしなかった。
どう考えても
おかしいのはこの現実の方だ!
私は俊ちゃんから視線を戻し部屋を見回す。
壁のあちこちに
ドライバーを刺した穴が開いている。
天井の四隅は大きく抉られて
コンクリートがむき出しになっている。
コンセントのプラグは室内に引きずりだされ
後ろの配線があらわになっている。
トイレや脱衣所の壁は元の形状を残していない。
彼の部屋は私のせいで凄惨な状態だった。
この部屋の惨状を見る限り
私が精神異常者だと思う方が納得がいきそうで
どっと疲労感が押し寄せてきた。
目を閉じて
耳をすませてみる。
かすかに通りを行きかう車のエンジン音が聞こえる。
カラスの鳴き声。遠くのヘリコプターの音。
ごく普通の日常音が聞こえるだけで
何の異常も感じられない。
『大丈夫。 私の感覚は狂っていない』
そう確認してから
もう一度壁の穴に耳を当てる。
シュルシュルシュルシュルッ
素早くコードを引っ張る音がする。
幻聴などでは断じてないリアルな音だ。
とても近くに何かが潜んでいる気配を感じる。
敵はあえて私に
その存在を誇示しているようだった。
挑戦的で攻撃的な敵のやり口に
私は恐怖を感じながらも腹が立ってしかたがない。
敵は今もまだ
この部屋を監視しているのだ。
この部屋には
いくつかの隠しカメラと盗聴器が設置されている。
定期的にカメラの位置と角度が変化する仕組みだ。
きっと敵は
この部屋の様子を
テレビの画面を通して眺めているのだろう。
ここまで大掛かりな盗撮が出来るのは
かなり大きな組織に違いない。
だけど
トイレやシャワーやSEXシーンを撮って
アングラルートに流したところで
いったいどれだけのお金が入ってくるだろう。
これだけのリスクをとって採算が合うとは思えない。
何よりも
バレた今もなお撤収することなく
監視の手を緩めていないのは何故なんだろう。
物事にはかならず動機と理由があるはずだ。
『やっぱりよくわからない』
そもそも私はこれからどうすればいいのか。
盗撮や盗聴の証拠を掴めば敵を追い込み
自分の身がなおさら危険になるのではないだろうか。
この不可解な状況から逃げ出すことが最良策なのではないか。
私は監禁されているわけじゃない。
その気になれば今すぐにだってここから出ていくことが出来る。
そうか!
敵は私が自発的にここから出ていくように仕向けているんだ。
だから恐怖心を煽るような音をわざとたてているんだ。
俊ちゃんの不可解な言葉も
私の不安を掻き立てるための演技だったのかもしれない。
私を限界まで追い込んで
ここから逃げ出すように仕向けているんだ。
きっとそうに違いない!
まだ全体像は掴めていないけれど
現状の敵の思惑を推理することは出来た。
『だとしたら私は負けない』
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