らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -61ページ目

第290話 敵

携帯からの目次を作りました



盗撮をしていた何者かが

口封じのため私を消しにやってきた!


咄嗟にそう思った私は恐怖心でいっぱいになり

完全にパニックに陥った。


今このドアを開けて

部屋の中に入ってこようとしているのは大男かもしれない。


どうしよう! どうにかしなければ!


私は体も小さいし力もない。

それどころか怖さのあまり体が固くなって動こうとしない。


息を吸うことですら難しい状態で

ドライバーを握りしめる手に精一杯の力を込めた。


だけど私の予想に反して

部屋に入ってきたのは俊ちゃんだった。


「ただいま~」


玄関で革靴を脱ぐ俊ちゃんを呆然と眺めた。


「……どうしたの?! 何で帰ってきたの?」


混乱しきった頭では

思考が四方八方に飛びまわるだけだった。


ドライバーを持った手を背中にまわし

側にあったチェストの上にそっと置いた。


「ん? なんで帰ってきたって? 終わったからだべ」


俊ちゃんは不穏な表情を浮かべて部屋に入ってくる。


私は時計を見る。


6時半。


まさか!と思った。


そんなに長い時間壁を調べ続けていたのだろうか?


壁の穴に顔を張り付け

聞き耳をたてていたのは

長くても数十分くらいだったはずだ。


スピードのせいで時間の感覚が歪むことは判っている。


だけど今回のように

まるで時間が分断され失われたかのような体験は初めてで

どうにも納得がいかなかった。


しかし

時計の針まで嘘をつくことはないだろう。


私はますます混乱して考えがまとまらず

その場に立ち尽くしていた。


たくさんのことを一気に考えようとしているからだ。


とにかく

俊ちゃんが敵なのか味方なのか

その判断をつけることが一番重要だと思った。


私は意識を集中させ

警戒心たっぷりに俊ちゃんの様子を伺った。


俊ちゃんは私に背中を向けている。


ジャケットを脱ぎクローゼットにしまう。

ネクタイをはずしシャツを脱ぐ。

ズボンは折り目正しくハンガーにきちんとかける。

Tシャツとトランクス姿になると

冷蔵庫をあけミネラルウォーターを取り出す。


仕事から帰ってきた後の一連の動作を

普段どおり淡々とすませている。


私は我慢できなくなり

背後から強い口調で声をかけた。


「正直に全部話して!」


俊ちゃんは

「うん? 何がやぁ・・・ 」と

だるそうに私の方を向く。


またはじまったか、という

少し困ったような微笑みを携えている。


しらじらしい!

行き場のない私の感情は怒りという形で表に出ようとする。


「何も気がついていないとでも思ってるの!!」


叫びに近い声を出し

バンっと大きな音をたてて壁を叩く。


「これは一体どういうこと! 説明しなさいよっ!」


私が叩いた壁には
ドライバーでこじ開け

500円玉ほどの大きさまで広がった穴が開いている。


下には

無残に破かれた安室奈美恵のポスターが散乱している。


俊ちゃんの表情が一瞬で変わる。


その表情の意味するものを見落とさないように集中する。


「おまえ… 何やってんの…」


俊ちゃんは壁に歩み寄り穴を手で触りながら

「どうしたの? これ」と私に確認する。


「どうしたのじゃないよっ! 盗撮してたんでしょっ!」


私は金切り声をあげる。


「……盗撮?」


俊ちゃんは下瞼をピクピクと震わせる。

肩が不自然に上がり全身が強張っているのがよくわかる。


そのままじっと考え込んでいる。


俊ちゃんの顔は

血の気が引いてみるみる真っ青になっていく。


何か思い当たることがあるんだ!

私はそう直感した。


俊ちゃんは

怯えるように壁から離れてベッドに腰かける。


私と目をあわそうとしない。


俊ちゃんの態度が

何を意味するのかまだ判らず私はイライラする。


「こっちに来なさいよ!」


私はトイレに向かって歩いていく。


俊ちゃんはベッドから立ち上がろうとしない。


私は一度ベッドまで戻り

俊ちゃんを手をぐぃっと掴んで

トイレまで連れていく。


ドアをあけ

壁の穴を指差し

「説明しなさいよっ!」と怒鳴りつける。


俊ちゃんは壁の穴を見て

ますます体も表情も強張らせる。


言葉は何も発しない。


重苦しい沈黙が部屋を包み込む。


ああ

俊ちゃんを信じたい!


お願い! 

俊ちゃんだけは私の味方であって欲しい!


一体これはどういうことなの!


揺れる想いと共に涙が浮かび

大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。


「俊ちゃん、この部屋、盗撮されてるんだよ! ぇっ・・・ぇっ・・・えっ・・・ぅぐ」


私は俊ちゃんの胸で泣き崩れた。


この人は敵かもしれない。

だけど私にはどこにも頼れる人なんていない。

俊ちゃんが私を裏切っているなら死んだ方がマシだ。


俊ちゃんを失えば

どのみち私は生きてはいけない。


――もうどうなってもいい――


それは諦めにも似た覚悟だった。


私はしばらく俊ちゃんの胸で泣いていた。

私を抱く俊ちゃんの腕は小刻みに震えていた。


私が少し落ち着くと

俊ちゃんは私の手を引きベッドに連れていった。


私はベッドに寝かされてしまう。


隣に俊ちゃんも寝て

「何も心配することないよ」と頼りない声で言う。


やっぱり

俊ちゃんは敵ではないのだろうか。


私は俊ちゃんが何も知らないことを前提で

今夜の出来事を一から話してみることにした。


俊ちゃんは途中で一切声を発することなく

私の話を黙って聞いていた。


話し終えた私は

俊ちゃんにも「音」の証拠を聞かせることが出来ればと

ベッドから出てもう一度壁の穴に耳を近づけた。


「カン! カン! カン!」


トンカチで金属を叩くような音だった。


こんな早朝に日常生活ではありえない音が聞こえてくる!


「ねぇ!! ほら! 今も聞こえてる! 俊ちゃんも聞いて!

何の音だろう? きっと盗撮がバレたから証拠隠滅してるんだよっ!

ここと繋がった部屋がどこかにあるのよ! 早く聞いてみて!」


私がそう言っても

俊ちゃんは壁の音を聞こうとしない。


ベッドで目を閉じたまま

怯える子供のように布団にくるまっている。


「どうしたの? 早く聞いてよっ!」


私は俊ちゃんの布団を引き剥がす。


俊ちゃんが起き上がり私を見る。

その瞳には絶望の影が色濃く揺らめいている。


「俺…… 大変なことしちゃったんだ……」


俊ちゃんが重い口を開いた。




オフ会参加者は40人くらいになりそうです^^ 

全国から来てくれる人がいて本当にうれしいです。どうもありがとう。

章間の挨拶文と一緒にオフ会レポも書こうと思ってます。

今回参加できない方はレポを楽しみにしていてネ♪

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