第098話 深み
パパは
週の半分は
内縁の妻の元へ帰るようになった。
さすがに4ヶ月もほっておいたら
向こうの機嫌も少しは取らなきゃいけない様だ。
彼女がどういう人なのか
私はよく知らないのだけど
パパが捕まった時に保釈金を出した人だと
姐さんから聞いた事がある。
パパがいない日は
いつも美咲を家に呼んで
二人で葉巻を吸って遊んでいる。
「美咲、おなかすいたねぇ~。ピザ頼もうぜ」
「あはは、いいねいいね! アイスクリームも頼もう~」
「美咲、電話かけてよ。私注文できそうもないわ。きゃはは」
「OK。んじゃ適当に頼むねぇ~。」
美咲がピザ屋に電話をかけているのを横で見ていて
私は急に可笑しくなり
ゲラゲラ笑ってしまう。
「ちょっと、まりもいいかげんにしてよ。きゃはははは
あ! えっと配達をお願いしたいんですけど。」
「あーっはっはははは。うける~。美咲~~ あっははははは」
「ぶぅぅ~~~~~」
注文の途中で美咲は
こらえ切れずに吹き出してしまい
電話を切ってしまった。
美咲は自分の頬をパチパチ叩いて気合をいれ
他のピザ屋に電話をかけたけれど
私達はまた同じ事を繰り返した。
「てか、まじでピザ~~ あっははははは」
「無理! あはははは 絶対無理だよ~~~ あははははは」
私達はデリバリーピザを諦めて
コンビニに買い物に出かけた。
並んでいる商品がどれもこれもおいしそうに見えて
カゴに次から次と投げ入れていく。
ふと美咲の顔を見ると
目尻がぐんにゃりと下がり
情けない顔をしていて
私はまた吹き出してしまう。
「ぎゃはははははは」
「ちょ! まりも! まじでいいかげんにしてってば あはははは」
「だってさぁ。あっはははは 美咲の顔! あはははははは」
「おまえもだっつ~の! あははははは」
気が触れた私達を
他の買い物客達が何事かという顔で見ている。
それがまた可笑しくて
私達の笑いはいつまでもとまらない。
レジのおばちゃんに不審な目で見られながら
どうにか買い物を終え
笑い転げながら部屋に帰ってきた。
二人であるだけの食料をたいらげ
大音量でユーロビートをかけながら
パラパラを踊る。
「てかさ、うちらって相当イカレてるよね? きゃはは」
「うんうん。かなりやばいよね? あはははは」
「なんかさぁ、私ね、もうパパと別れたいんだけどさぁ~
でも葉巻なくなるのって困るじゃーん? きゃははははは」
「まりもは、あいかわらずひっどいねぇ~ あはははは
てか、葉巻なんて上野に行けばイラン人が売ってるじゃーん。」
「え~? そうなの? 知らないよ~~ きゃはははは」
「ほら、偽造テレカを束で売ってるイラン人いるの知らない?」
「上野なんて行かないしなぁ~」
「あー、そっか、まりもは貴金属は姐さん経由だもんね。
私は、御徒町あたりでよく買ってるから詳しいのよぉ。」
「へ~。じゃ、自分でも手に入るの?」
「入るんじゃないかな? 今度買いに行ってみる? きゃははは」
「あはっ いいね! じゃーパパはもう用なしだな!
次はイラン人の彼氏でも作るか! あっはっはははは」
「きゃはは うける! ヤクザと別れる時ってなんか大変そうじゃない?」
「ん? そっかな? どうにかなるべ きゃははははは」
何も可笑しい事がないのに
どうしてこんなに笑えるんだろう。
笑っている時って幸せだ。
不安なんてどこかに消えてなくなっちゃう。
これが現実逃避だとしても別にいいじゃん。
ずっと笑っていたいもん。
こうして私は
どんどん深みにはまっていった。
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