らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -257ページ目

第102話 サラリーマン

10時を回り
ようやく最初の客が入ってきた。


3人組みの先頭にいる男には見覚えがある。


組のお抱えの電気屋で
私の引越しの時に全ての電化製品を運び込んできた

確か名前は田中とかいう男だ。


「いらっしゃいませ」


私が明るい笑顔で出迎えると

「どうも、どうも!」
と客のくせに、やたらと腰低く入ってきて
姐さんに
「開店おめでとうございます」

とカードのついた胡蝶蘭の鉢植えを手渡した。


姉さんは
「綺麗な胡蝶蘭やな。気使わせたな。」
と満足げに微笑み

カウンター越しの春子さんに

あそこに飾るようにと指示を出す。


姐さんから

ヘネシーを持ってくるように言われ

新規のボトルを持って席に戻ると
姐さんは
自宅に新しい洗濯機が欲しいだとか
どこどこの事務所にもう一台テレビが欲しいんだとか
田中と話し込んでいるので
私は連れの二人の相手にする事にした。


30代後半のおじさんと

20代前半の青年といったかんじだ。


30代の方は見るからにしみったれたオヤジで
キャバクラ時代によく店で見かけていたタイプ。


20代の方は

いかにも連れてこられましたという様子で

行儀良くかしこまり

首を動かさずに目だけをキョロキョロさせて

店内を見渡している。


紺のシンプルなスーツに

白いワイシャツ、ストライプのネクタイ
短く切りそろえられた黒い髪。


なんだか場違いなこの青年に少し興味が沸く。


「まりもです。お二人は何されてる方なんですか?」


「家電メーカーの営業ですよ。」

と30代のオヤジの方がだみ声で教えてくれた。


「お名前聞いてもよろしいですか?」

と20代の方に目を合わせて聞くと


その青年は

見るからにドキマギしながら

名刺を私に差し出した。


あ~あ、飲み屋の女に座って1分で名刺なんか渡しちゃってダメねぇ。

なんて思いながら名刺に目をやると

一流企業とは言えないまでも

私でも知っている家電メーカーの社名が入っていて

所属は営業一課だという事がわかった。


男の名前は笹河直樹。


ついでに

オヤジの方は藤田というらしい。


直樹はきっと

どこにでもいる一般的なサラリーマンだ。


でも私には

堅気の若いサラリーマンなんて

今までは全く無縁の存在だった。


『普通』というカテゴリこそが

一番めずらしいものだったのだ。


お酒


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