第130話 もう幸せにはなれない
翌朝
私は必要以上に
男優に甘えたり笑ったりしながら
「また遊ぼうね」と約束をした。
もちろん二度と会うつもりはなかった。
男優は今日も仕事で
2つの現場を掛け持ちらしく
私の家から直接仕事に出かけていった。
一人になり
昨日の出来事を思い出してみても
現実感がなく私の感情は波立たない。
AVに出演した事も
浮気現場に直樹に踏み込まれた事も
まぎれもない現実なのに
何も感じられない自分を気持ち悪いと思う。
今度は直樹の気持ちを想像してみたけれど
それもうまくはいかなかった。
相手の立場になってものを考えるという能力が
欠如しているのだろう。
共感能力があれば
こんな酷い事はきっと出来ないのではないかと思う。
直樹にとっては
本当に晴天の霹靂だったに違いない。
私が愛しているのは直樹だけで
結婚を強く望み
その日を夢見て生きていると
微塵の疑いも持っていなかっただろう。
そしてその事に
嘘はなかった。
だから私にも
どうしてこんな事になってしまったのか
よく解らないのだ。
お金に目が眩んでAV女優になったとか
自己破壊的な無意識に翻弄されたとか
自分を罰したいという衝動のせいだとか
いろいろと理由をつける事は出来るけれど
きっとそれだけではない様な気がする。
ただ
今の私には
一つだけ解っている事がある。
もう幸せにはなれない。
その事実だけが
クッキリと立体的なリアリティを持っていた。
直樹を失うという事に
喪失感は感じていない。
幸せという希望が
完全に手の届かない場所に遠のき
私の不安は消えて
楽になったようにさえ感じている。
全てを終わらせるため
私は直樹に電話をかけた。
「直樹・・・今日仕事終わったら・・・来てくれる?」
「・・・・・・うん。 わかった。」
私は本当に最低の人間でした。 過去は変えられないけれど・・・ごめんなさい。
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