第131話 震える背中
直樹は約束どおり
仕事を終えて私の家にやってきた。
目の下にクマをつくり
疲れきった酷い顔をしている。
直樹の顔を見ていたら
何をどう説明したらいいのかわからず
なかなか言葉が出てこない。
私が何も言えずにいると
直樹は
「どういう事なんだよ。」
と低い声で呟いた。
最後くらいは嘘をつかずに
出来る限り正直に自分の気持ちを話そうと思いながら
私は重い口を開いた。
「あの男の人は昨日初めて会った人で・・・
何の関係もない人なの・・・。
二股をかけてたとか、直樹から気持ちが離れたって事ではないの・・・」
「・・・おまえ、昨日は実家に帰ってるはずだろ?」
「・・・うん。」
「なんで? なんでそんな嘘をついたの?」
今の直樹にはとにかくたくさんの疑問符があるのだろう。
私はその直樹の疑問に一つづつ答えていかなければならない。
「・・・・直樹、驚かないでほしいんだけど・・・私、AVに出たの。」
「え?! 何だよ! それ?!」
「はじめね・・・・ ・・・・えっと・・・
直樹が実家に帰るようになったでしょ・・・。
それで、私さみしくて・・・
直樹に内緒で夜遊びをしていたの。その時にスカウトされたの・・・。」
「最初はグラビアだけって思ったの。 水着とかね、そういうのの仕事を少しやったの・・・。」
「そのうち、AVの話になって・・・昨日がその撮影の日だったの・・・。」
直樹は驚愕の表情を浮かべて
唇を震わせている。
「なんだよ・・・それ・・・。意味わかんねーよ! なんでなんだよ?!」
「私にも・・・わからないの・・・、なんとなく・・・そうなっちゃったの。」
「なんとなくそうなっちゃったじゃねーよ! おまえ自分が何してるかわかってるのか?!」
直樹が大きな声を出したのは
2年間付き合っていて初めての事だった。
直樹は感情が抑えられないというかんじで
こぶしを握り締めている。
「私・・・AVに出たの。 ・・・本当はバレなければいいと思ってた・・・」
「直樹の事を愛しているよ。 直樹だけいればいいと思ってた。」
自分でも支離滅裂だと思うのだから
直樹にはもっと理解できないに決まっている。
「待てよ!・・・ちょっと待って、信じられないよ!」
直樹が堪えられずに泣き始める。
直樹を見て私も涙が溢れ出す。
「直樹・・・ごめんなさい。 私・・・さみしかったの・・・」
「さみしかったってなんでだよ? 毎日一緒にいたじゃないかよ? なんでだよ!なんでだよ!!」
「わかんないの。 一人になるとさみしくて不安でどうにかなっちゃいそうだった。」
「直樹は何も悪くないの。 全部私の問題なの・・・うぅぅ・・・ごめんね・・・直樹・・・」
「昨日の男はね、そのAVの関係者だったの。
撮影が終わってから、一緒に帰ってきたんだけど
それは計画的じゃなくて
本当に衝動的な事で・・・
自分でも全然そんなつもりはなかったんだけど・・・
言い訳みたいだけど・・・本当なの・・・」
「おまえ・・・おかしいよ! 頭おかしいよ!!」
直樹は立ち上がって
部屋の壁を思い切り叩いた。
それから
私達の思い出のアルバムを出してきて
写真を一枚づつ抜き取って破り始めた。
アルバムは何冊もあった。
「どうして・・・どうして・・・どうして・・・・」
直樹は
嗚咽をもらしながら
全ての写真を粉々に破いた。
私は直樹の震える背中を
だまって見ているしかなかった。
つらい別れ。 当時は解らなかったけれど、人を傷つける事は自分の傷になっていくんですね。
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