第193話 ユウの視たビジョン
本文は小説です。
ここに書いてあることは全て私の過去の体験に基づいたもので、現在のことではありません。
ドラッグは法律で禁止されていますし、人生に悲惨な影響を及ぼすものであることを先にお伝えしておきます
ユウは眉間に深い縦皺を刻み
両腕を胸の前でしっかりと組んで
一点を見つめている。
「ユウ! 大丈夫? どうしたの?」
私が慌てて声をかけると
ユウは我に返り
怯えたような声でこう言った。
「いろんなことが一気におこって
わけがわからないんだ!」
私はユウの隣に座り
寄り添って肩を抱く。
「いろんなことって?」
抱いた肩に少し力をこめ
ユウの顔を優しく覗き込む。
「頭の中に映像が次から次と浮かんでくるんだよ・・・
フリーウェイをノーブレーキで走ってるスポーツカーだとか
回転木馬がすごいスピードで上下しながら回っていたりするんだ。
ピラミッドを内側から展開するとなぜか星型になって
その中からいろんな形の立方体が飛び出してきたり・・・
鮮明なビジョンがひっきりなしに現れるんだ!
頭が破裂しそうだよ!」
ユウは両手で頭を抱え込む。
「大丈夫だよ。 落ち着いて! 深呼吸しようか。」
私はユウを窓際に連れていき
窓を全開にする。
冷たい風が頬を撫で
私にはとても心地よく感じられる。
「うわっ!!」
ユウはギョっとして
後ろに飛び退く。
「何?」
私は驚いて
窓の外に何があるのかを確かめる。
普段と変わった様子は一切ない。
「一体どうしたのよ?」
「大魔神がっ!!」
ユウには
隣の家の庭の樹木が
大魔神に見えたらしい。
「大丈夫よ。 今おこってることは全部ドラッグのせいなんだから。
怖いことなんて何もないわ。 ねっ?」
ユウを安心させたくて
いろいろな言葉を使いなだめてみるものの
ユウはどんどん自分の殻に閉じこもっていってしまう。
今、私の身におきた超越体験は
私だけのものだったことに気がつく。
ドラッグの効き方は
私とユウとでは明らかに違っている。
一言で言えば
私は左脳にユウは右脳に
その効き目が顕著に現れたのだと思う。
視覚的なイメージの氾濫に
脳の処理速度が追いつかず
ユウは混乱しているのだろう。
『オーバーヒート』
この言葉が
今のユウにはぴたりと当てはまるように感じる。
「ねぇ、ユウ?
さっきフリーウェイをノーブレーキで走ってる映像って言ったよね?
それって今の状態なんじゃないの?
きっとユウは、自分自身におこっている内的な変化を
メタファーに転換してイメージ化しているのよ!!
すごいじゃない!
私は全然視覚にはキテないのよ! うらやましぃ!
ねぇ、どんなかんじなの?」
私は興奮してユウに尋ねる。
「そんなこと言ったって
次から次と映像は変化していくんだ。
なんの脈絡もないよ・・・。とりとめなくってかんじだよ!」
重要なことは
今の状態をユウが全く楽しめていないことだった。
私は少し考えてから
ある提案をした。
「ユウ、絵に描いてごらんよ。
何かをして思考をまとめた方がいいわ。」
私はヒカルが置いていった
36色の色鉛筆を取り出しユウに渡す。
ユウは難しい顔をしたまま
絵を描き始めた。
まず最初に
歪んだ形の時計を描く。
その時計にはトランプの柄を思わせる
デザインが施されている。
それから
星条旗柄の服に身を包んだピエロ。
ピエロの目元に一滴の涙。
手にはジョッキを持ち
泡の溢れるビールが注がれている。
ユウは
そのピエロを
ガラス張りの箱の中に閉じ込めてしまう。
その箱に今にも刺さりそうな剣。
箱の蓋の部分に鍵穴。
天空の月に向かって続く黄金の階段。
カサブランカ。
それから
何人もの小人の姿を描く。
玉乗りしている小人。
空中ブランコしている小人。
風船にぶらさがって飛んでいる小人。
ラッパを吹いている小人。
最後に描いた
花柄のワンピースを着ている小人には
鍵を持たせた。
ユウは
考えることも迷うこともなく
一気に一枚の絵を描ききった。
独特の遠近法で奥行きの生まれた
統一感ある幻想的で象徴的な世界だ。
その発想! その色彩!
それは
とても通常の知覚では描き出せないものだった。
「すごいわ・・・ 信じられない!
ちょっと漫画チックだけど、ダリの世界観みたい。
間違いなく芸術よ! 」
ユウは絵を描いているうちに
落ち着きを取り戻しはじめていた。
「きっと、このピエロはユウなのね。
ビールがドラッグで、この鍵を持ってる小人が私かな?」
私はそんな分析をして
ユウは興味深そうに頷いていた。
私に文才がないので、この時のユウの絵を表現することにいまいち成功していませんが
人には驚くべき才能が隠されているんだなぁ! という印象を受けた素晴らしい絵でした。
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