第195話 ユウの将来
「専門学校を辞める? いったいどういうこと?」
私は怪訝な表情でユウに尋ねる。
ユウは決意を込めた目を私に向け
一息ついてから一気に語り始めた。
「まりも、真剣な話だから真面目に聞いてね。
ずっと考えていたことがあるんだ。
今の専門学校を卒業して建築士になったとしても
最初のうちは給料なんてたかが知れていると思う。
まりもと生活して思ったんだ。
金の力は絶大だ! って。
まりもは何だって好きな物を買える。
どこにだって行ける。
みんなが最初から諦めているようなことを
当たり前みたいにやっちゃうんだ。
ヒカルさんもそうだったでしょ?
まりもやヒカルさんは
俺の学校に来ているような人間達とは根本的に何かが違うんだよ。
同級生はみんな
遊びに学校に来てるようなやつらばかりだし
それこそ、まりもが今言ったみたいに流されて生きてるんだと思う。
みんなと同じだからって変な安心感があってさ
枠の中に納まっていることが居心地いいんだ。
あいつら、みんなくだらないんだよ!
前にヒカルさんに言われたことあるでしょ?
俺とまりもは同類だけど、おまえは違うって・・・。
その意味をずっと考えていたんだ。
今のまま学校を卒業すれば
頑張れば人並みの生活は手に入るかもしれないけど
果たしてそれでいいのか? って疑問なんだよ。
俺は
まりもやヒカルさんの側に立ちたいんだ。」
ユウがそこまで言ったところで
私は驚きのあまり絶句してしまう。
ユウがそんなふうに考えていたなんて思いもしなかったのだ。
事態は深刻な気がして
私はいくらか気を引き締める。
「ちょっと待って・・・。
ユウは何か誤解してるわ。
私がお金を稼げるのは当たり前じゃない! 私はAV女優なのよ?
自分の身一つで手段を選ばずに何でもやってきたからよ。
それに稼げるのなんて今だけなの! 女の賞味期限なんて短いんだから・・・。
ヒカルにしたってそうよ。 おじさんになったらどうなるかなんてわかったもんじゃないわ。
私のしてきたことは自慢できるようなことではないの。
こんな風になりたいなんて思っちゃダメよ! 間違ってるわ!
ユウはね、今までどおり自分なりに頑張っていけばいいのよ。」
私は慌てた。
ユウが私の影響を受けることを
一番望んでいなかったのは私自身だった。
ユウにはいつまでも
出会ったころの純粋さ
生真面目な平凡さを失ってもらいたくなかった。
「だめよ! 絶対にダメ!」
私は力強く首を横に振る。
「待ってよ! ちゃんと最後まで話を聞いて。
まりもは、大原簿記って知ってる?」
「大原簿記? 何よそれ?」
「簿記の専門学校なんだけど、池袋にあるんだ。
実はもう調べてあるんだよ。
そこで簿記を習って税理士の資格を取りたいんだ。」
「・・・税理士? ・・・なんでまた?」
ユウの唐突な話に
正直ついていけない気持ちになる。
「だから最後まで聞いてよ。
税理士はプロセスであって最終目標ではないんだ。
俺が取りたい資格は公認会計士。 すごく難易度が高い国家資格なんだけどね。
まぁ、司法試験よりは簡単だよ! さすがに弁護士になるのは無理だと思うからさ。
公認会計士になるためには本当は4年生の大学を出ていないとだめなんだ。
だから、俺がなるためにはかなり遠回りをしないといけない。
まずは簿記の試験、それから税理士の試験
それに受かってようやく公認会計士の試験を受けられる資格が得られるんだ。
でも絶対に頑張ってみせるよ!
今の学校にこのまま通い続けていても何の意味も見出せないんだ。」
私は言葉を失う。
もう誰かの人生を壊すキッカケになるのだけは
絶対に嫌だと感じている。
なんとしても
ユウを説得しなければならない。
「税理士だとか公認会計士だとか・・・よくわかんないよ。
どうしてそれになりたいと思ったの?」
私はなるべく冷静に
ユウの真意を一つずつ確認していこうと試みる。
「だから、金だよ。」
「お金って・・・。 お金を稼いでどうしたいの?」
「具体的には・・・
まりもみたいに値札を見ないで買い物したり
ヒカルさんみたいに5千円未満のお釣りはチップだってばら撒ける立場になりたいかな。」
「はぁ? あんたバカ? それこそ超くだらないわよ!」
ユウが大真面目にそんなことを言うので
私は怒りを通り越して呆れてしまう。
「まりもが言っても説得力ないよ! とにかく俺はそうしたい。 いや、 そうするから。」
ユウは反抗する。
「待ってよ・・・。 本当になりたいなら
今の専門学校を卒業してからでもいいじゃないの。 そうでしょ?」
「無駄じゃないか。 あと2年も無駄な時間を過ごすことに何か意味はあるの?
まりもが二人のために頑張ってストリップして貯金するって言っているのに
俺だけは無意味な生活を続けてろって? それっておかしいでしょう?」
私は言葉に詰まってしまう。
ユウの言っていることは理屈は通っているけれど
到底納得のいく話ではなかった。
一体どうすればいいのか
どうユウと説得すればいいのか
なかなかいい案が思い浮かばない。
「ユウのお母さんに申し訳ないわ。
ユウの学費だって家賃だって出してくれているのに。
専門学校辞めるなんて言ったら、悪い女にたぶらかされてるって心配するわよ・・・。」
ユウは18歳。
まだ未成年なのだ。
「どうして? 俺は何も悪いことを提案していないでしょ?
まりもがそこまで頑なに反対する方が理解できないよ。」
「そんなのって・・・そんなにうまいくとは思えないのよ・・・。
どれだけ大変なのかユウはわかってないのよ・・・。」
「まりもは俺が信じられないの?
俺は高校の時の試験はいつだってトップクラスだったんだよ。
勉強の集中力には自信あるんだ。
こういう考えになった今
このまま専門学校に通い続けるモチベーションなんて維持できないよ。」
私は深いため息をつく。
あるいは
ユウは本当にやり遂げるのかもしれない。
その可能性がないわけではない。
それでも私には
どうしても賛成することが出来なかった。
「だめよ! やっぱりダメ!
専門学校を卒業してからチャレンジすればいいわ。
それからでも遅くないじゃないの。」
「なんだよ! わからずや! まりもの許可なんて必要ないよ。
自分の将来のことくらい自分で決めるさ!
母ちゃんに相談するから! 親の承認があれば文句ないだろ?」
「・・・・・・・・。」
私は返す言葉を失い
途方に暮れてしまう。
ユウは受話器を持ち上げる。
「ちょっと! こんな時間に電話だなんて・・・。
明日、落ち着いてから電話すればいいじゃない。」
私がそう言っても
ユウは聞く耳を持たない。
「いや、これは大事なことだから。 今、母ちゃんに電話する。」
ユウは実家の番号をダイヤルした。
こういう場合ってどうすればいいんでしょうね? ユウは頑固な子だったなぁ。
ユウを説得することは出来なかったんだろうか・・・。 今でもわからん^^;
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