第196話 運命の車輪
私の執拗な制止を訊かず
ユウは実家の番号をダイヤルする。
ユウの親からしたら
まさに寝耳に水だろう。
ユウの母親は心配のあまり
明日には東京に出てくるかもしれない。
年上の女と同棲しているとわかり
さらには私がAV女優だと万が一にもバレたりしたら
私が親なら縄で縛ってでもユウを家に連れ帰るだろう
と思う。
そこまでいかなかったとしても
ユウを諭して言い聞かせ
専門学校に残るようにと
ユウの気持ちを軌道修正するに違いない。
ユウも母親の言うことなら
素直に聞き入れるかもしれない。
ユウは親に反抗するタイプの人間ではないから。
そう思っていた。
ユウは
自分の真剣な思いを
ひとしきり15分くらい話し続けると
受話器を私に渡そうとする。
「ぇ・・・」
「母ちゃんがまりもに代わって欲しいって。」
私はかなり動揺して
電話口に出る。
「もしもし、 はじめまして。 まりもと申します。
夜分遅くに本当に申し訳ありませんでした。」
私はまず謝罪の言葉を口にする。
どんな怒声を浴びることかと心構えていたのだが
ユウの母親はいたっておだやかな口調で挨拶をした。
「まりもさん、 ユウがお世話になってるそうで。
話はだいたい聞きました。
正直驚いているんだけど、どうしたもんでしょうねぇ・・・。」
ユウの母親の声は
そこはかとなく心配に満ちている。
「はい。
私は・・・専門学校を卒業してからでも遅くないと説得したんですが
ユウ君の意思が固いようなので・・・私としても判断つきかねておりまして・・・」
私は自己擁護ともとれるようなことを口走る。
「そうですか。」
ユウの母親はだまってしまう。
沈黙の時間がしばらく続く。
ややあってから
ユウの母親はおだやかな口調を崩さずに話し始めた。
「まりもさん、 私は息子のことを信じてみます。
たしかにとても難しい道だろうけど、この子はやれば出来る子なんですよ。
今までもそうでしたから、きっと大丈夫なはずです。
私は応援していこうと決心しました。
まりもさん、この子のことをよろしくお願いしますね。」
ユウの母親の言葉を受け
『えぇぇぇぇ・・・嘘でしょ?!』と心の中で叫びながらも
私は無難な受け答えをしてユウに受話器を戻した。
電話を切った後のユウは
表情が一変して柔らかくなり
瞳には覚悟とやる気の焔を静かに灯らせている。
私はそんなユウを見て
なんとなく安堵する。
この選択も間違いではないのかもしれないと
思い始める。
「ユウは幸せね、お母さんに心底信じられてるんだわ。
いいお母さんだね。」
私は言う。
「うちの母ちゃんは本当にいい人なんだ。
優しくて愛情深い完璧な母ちゃんだと思う。
ほとんど怒られたおぼえがないし。
俺もいつも母ちゃんのことを喜ばせようって生きてきた。
やっぱり母親の愛情や期待に応えたいって思うんだろうな、男って。」
ユウは満足そうな表情を浮かべる。
私は
とてもうらやましい気持ちでユウを眺める。
「そういう理想のお母さんに育てられると
ユウみたいないい子になるわけね・・・。
ユウの真っ直ぐで素直な性格、なんか納得できたわ。」
ユウははにかんだ笑顔を見せ
「まりものお母さんってどんな人なの?」
と尋ねる。
「そうだなぁ・・・うちのお母さんだったら今回の件だと
言語道断! 子供の分際でそんなことを決める権利はありません! ピシャリ!!
ってもんだわよ・・・。口答えでもしようものなら何発か頬張られて・・・
しまいには、あんたのためを思って!!キィィィィ!!ってさぁ・・・
はぁ~・・・人の親見て我が親を知るってかんじだなぁ・・・。あはは」
自分の立場に置き換えてみて
私は苦笑いする。
北風と太陽の寓話を思い出す。
旅人にコートを脱がせることに成功したのは
暖かく見守りながら照らし続けた太陽であり
容赦なく吹き付ける北風ではなかった。
「お母さんの期待を裏切らないように
死ぬ気で頑張るのよ。 私も応援するからさ。」
私はスタンスを変えた。
「もちろんだよ。
でも、母ちゃんのためじゃないよ。
俺とまりものためだからね!
実際、まりもと結婚するなら相当の収入がないと不安だよ。」
「そっかぁ。
ユウの人生壊しちゃうかもって、私怖かったの。
だってせっかく乗ってるレールからあえて脱線するわけだもん・・・。
でもよくよく考えてみたら
私にとっては願ったり叶ったりなのよね!
行く末は会計士夫人かぁ~。 念願の正真正銘玉の輿じゃん♪」
私はユウの母親が太鼓判を押したことで
安心したのかもしれない。
「そしたら、まりもの
ユウ育成計画はコンプリートだよね?
理想の王子様の出来上がりだろ?」
「そうよね! たしかに最高の筋書きだわ。」
私達は笑った。
意外な幕引きになった今回のドラッグトリップは
二人の新たな運命の車輪を廻しはじめたのだった。
こういった話の流れになったのには
やっぱりドラッグの影響もあったんだろうなぁ、と思います。
さて、ユウは無事私の理想の王子様になってくれるのでしょうか?
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