第335話 誘い
栄子も純も公休日だったその日
私は自分によく懐いているアルバイトの女の子三人をアフターに誘った。
営業中、カラオケルームの席に着けなかった彼女たちは
キャーキャーと黄色い声をあげ大喜びした。
「口止めされてるから、漏らしちゃだめだよ。
それと安藤さんが満足いくようにやや接待モードでお願いね。
ちなみにレン君の相手は私がするから。
これで何か美味しいものでも食べて」
「こんなのいいですよ!」とお金を受け取ろうとしない三人に
私は無理やり「いいからしまって!」と一万円ずつ握らせた。
一旦メイクルームに戻って私服に着替えてから
安藤が指定した会員制のバーに向かった。
わりと有名なビルの七階にその店はあったが
看板が出ておらず「こんなところにこんな店あったんだねぇ」
と私たちは驚きながら木製のドアを開けた。
六人ほどが座れるカウンターと
テーブル席が二つあるだけの小さな店で
もちろん貸切になっていた。
アールヌーボー調に統一された優美な店内は
豪華なマンションの一室を彷彿とさせる。
照明がかなり絞られていて
アダルトな雰囲気だ。
人数は数人減っていたけれど
Cubeのレンとコウは二人とも残っていた。
三人の女の子を従えて安藤の元へいき
彼女達の名前を紹介して席に座らせた。
「何飲んでるの?」
私はレンのグラスに視線を定め
ごく自然に隣の席をキープした。
「ウォッカトニック」
「どんな味するの? 一口飲ませて」
レンのグラスに手を伸ばしながら
『イェイ!間接キッス!』と心の中で盛り上がる。
「美味しいね」
グラスを戻すとき指先が触れただけで
私は天にも昇る気持ちだった。
「同じのにすれば?」
レンに言われるまま
ウォッカトニックをオーダーした。
「レン君ってさ、テレビで見るのと少しイメージが違うね」
「そう? どう違うかな~?」
「うんとね、歌ってる時はもっと尖がってるっていうの? かっこいい。
話してみると優しいかんじがする。けっこうゆっくり話すよね」
「それはたぶん酔っ払ってるからだ!」
レンはそう言うと
残りのウォッカトニックを飲み干し
バーテンに向かってグラスを持ち上げて「おかわり」というサインを送った。
「こういう商売してるとさ~
イメージが一人歩きするってことは往々にしてあるよな~
水商売でも同じようなことある?」
レンは少し考え込むような表情で言った。
「どうだろう。 じゃ、レン君から見て私はどんな印象?」
「うーん、そうだな~、そそる女? はははっ」
私はレンの直接的な言い方が可笑しくて一緒に笑った。
それから、単純に女として褒められた嬉しさを感じて
「ありがとう」とお礼を言った。
「まぁ人気商売ってイメージが命みたいなところはあるよね。
芸能人はとくにそうでしょ。プロデュースされる側だもんね」
私がそう言うとレンは
「そうなんだよなぁ~」と声のトーンを落とした。
彼はバンドに付きまとうイメージに悩んでいるように見えたが
自分に言えることは何もないような気がしてそれ以上はつっこまなかった。
「ライブ行ってみたいなぁ」 なんとなく話題を変えた。
「これも何かの縁だしチケットあげるか!」
「まじで? 本当?」
「でも次のライブ仙台来るのはいつだろうなぁ~
年内はもうないしな、年明けでっかいのあるけど東京まで来る?」
「うん! 行く! てかレン君酔ってるよね?」
私は即答したが
レンが約束をきちんと守ってくれるのか信用できなかった。
「酔ってるけど大丈夫。じゃ、電話番号教えておいて」
レンは携帯電話を取り出し入力画面に進みながら
「えっと… 名前なんだったっけ?」と普通に訊いた。
「え~… また忘れてるし! ひど~い」
私は呆れた声で言った。
「覚えてるよ!まりもちゃんだよね~?」
レンは自信がなさそうに上目遣いで私のことを見た。
「正解」 私は肩をすくめて笑った。
ワンギリして着信を残せば早いと思ったけれど
レンの電話番号を聞きづらくて口頭で自分の番号を伝えた。
「東京に戻ったら電話する。ちゃんとチケットは送ってあげるよ」
レンはパチンと携帯を折りたたむとニコリと笑った。
「嬉しいなぁ~!
ライブって行ったことないから本当に楽しみ!」
私は希望を込めてレンの言葉を信じることにした。
「レンさん、そろそろ」
スタッフの一人が横から口を挟んだ。
安藤はすでに会計をすませたようで
店長から領収証を受けてっているところだった。
最後はミーハーな自分を抑えきれず
手帳にサインをもらい、握手をしてもらった。
通りに出ると
レンは「じゃあ」という眼差しで私をもう一度見てから
コウと一緒のタクシーに乗り込んだ。
タクシーが見えなくなるまで手を振り続けた。
安藤が「まりも近いんだろ?途中で落としてやるぞ」と言ったけれど
「コンビニで買い物があるので歩いて帰ります」と丁重に断った。
安藤達の見送りがすむと
三人の女の子達が「今日は本当にありがとうございました!」と満面の笑みで言ってくれた。
どうやら相当楽しかったようだ。
「あんたたち今日はマジでありがとうね! 可愛い子たち!」
私は興奮冷めやらぬまま
三人まとめて力いっぱいハグした。
夢のような時間の余韻を楽しみたくて
秋風に吹かれながらのんびりと家までの道を歩いた。
スキップしたい衝動とニヤケる顔を必死で堪えながら帰った。
部屋につくと同時に携帯が鳴った。
着信は見たことがない仙台局番の電話番号だった。
「もしもし~」
声を聞いて心臓が止まりそうになった。
「部屋帰ってきたよー。まりもちゃん、もう寝る?」
「まだ眠れそうもないよ。どうして?」
「今からさ~、部屋来る?」
私はその言葉の意味をしばらく理解することが出来なかった。
頭の中が真っ白になるというのはこういう状態なのだろうと思った。
『レンはセックスがしたいのだ』
私は壁に寄りかかって震える体を支えながら
「部屋番号は?」と上ずった声で尋ねた。
人気ブログランキング
らぶどろっぷ外伝 携帯サイトは毎週月曜日更新中♪
URL: http://flash-m.jp
本日更新♪ 今月は「元ソープ嬢の友達」の話。
来月からは「ハプニングバーにハマった人妻」の話。
