らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -12ページ目

第337話 私の罪

携帯からの目次を作りました


どれだけ考えても言い訳を思いつくはずがなかった。


私達が付き合いだしてから二年半

二人は一度も空白の時間をもったことがない。


私は一人の時

コンビニ一つ行くにしても連絡を入れてから出かけるし

俊ちゃんは営業中手があくと「何してる?」と携帯に電話をかけてくる。


同棲していても日に何度も電話しあう私達は

お互いがどこで何をしているのか完全に把握していた。


いつもなら

アフターに行く前、家に帰る時、帰宅後

三度は彼の店に電話を入れるのに昨晩はそれを怠った。


俊ちゃんのことは頭の片隅にもなかったから

レンに誘われて完全に舞い上がっていたとしか思えない。


少し考えれば困ることになるのは分かりきっているのに

後先考えることなく突っ走った自分のことを不思議に思う。


なんて馬鹿なことをしたんだろう。

どうしよう、なんて言おう。


一向にそこから進展しない思考とは別に

時間は無情に流れていく。


珈琲を飲みすぎたせいで気持ちが悪い。


これ以上ここで考えていても状況は悪くなるだけだと思い

私は決意して店を出ると

重い足取りで家までの道を歩き始めた。


「ただいま」小さな声で言い、そっとリビングを覗く。

テーブルの上に潰れたビールの空き缶が三本置いてあるのが見えた。


普段家で酒を飲む習慣はなく冷蔵庫にビールの買い置きはしていない。

俊ちゃんは私の帰りを待ちながら堪らずビールを買いに行ったのだろう。


独りきりのこの部屋で

どんな気持ちで飲んでいたのかを想像すると

自己嫌悪のあまり吐き気が喉元まで込み上げてきた。


よろよろと部屋の中へ足を進める。


薄暗いリビングに俊ちゃんのシルエットが浮かび上がり

「なにしてたのや」と低くくぐもった声で訊かれた。


私は大きく息を吸い込むと

無理やり作った明るい表情で行き当たりばったりの嘘をついた。


「ちょっとアフターだったんだけど

いろいろあって、こんな時間になっちゃったんだ。

連絡も出来なくて、心配させちゃったね、ごめんね」


「アフター? 今何時だかわかってる?」


「…うん。 一緒にいた女の子が酔っ払っちゃってさぁ

介抱してあげたりしてて… 最後はその子の家まで送ってきたの」


「誰と一緒だったの?」


「今週入ったばかりの新人の女の子よ」


俊ちゃんが本気で詰めれば

簡単に綻ぶ見え透いた嘘だった。


「…まりも、今まで、どこで、何をしてたの?」

俊ちゃんはもう一度確認するようにゆっくりと尋ねた。


「だからアフターだってば!」

私は開き直るしかなかった。


お願い、これ以上何も聞かないで! 何も聞かずに私を許して!

心の中でそう願いながら俊ちゃんの顔を見た。


彼の瞳の奥には隠しきれない絶望が刻み込まれていた。

人間関係を厭うような孤独の色が満ちている。


それは出会った頃の俊ちゃんの瞳で

決して癒えない傷を抱えた人間の目だった。


絶望と諦めの滲んだ瞳に見詰められて

私は激しく動揺した。


心も身体も真っ二つに引き裂かれたような苦痛を感じ

まるで石を呑んだみたいに息が詰まって胸が苦しくなった。


俊ちゃんのことを

ツインソウルだと実感して生きている私にとって

彼を傷つけることは自分自身を傷つけることに他ならなかった。


「まりも… 俺のこと好きか?」

俊ちゃんが目を逸らして寂しそうに尋ねた。


私は動揺から立ち直れないまま

木偶のように頷いた。


好きとか嫌いとかいう次元ではない。

私と俊ちゃんは二人で一つの完全体なのだから。


こんな疑問を俊ちゃんに抱かせている自分が許せなかった。


重々しい沈黙の中に沈みながら

私は自問自答を繰り返した。


どうして

俊ちゃんは私を責めないんだろう。


なんで

私の白々しい嘘をこれ以上問い詰めないんだろう。


俊ちゃん、せつないよ。


全てを知ろうとしないことが

俊ちゃんなりの処世術みたいで悲しくなるよ。


どうして

怒りや悲しみを発散させず自分の内に吸収してしまうの。


俊ちゃんはいつだって絶対に私のことを責めたりしない。

あの時も今も同じだ。


なんで

私はいつもこうなんだろう。


どうして

大切なものをちゃんと大切に出来ないんだろう。


俊ちゃんには何の不満もない、仕事にも満足している。

私の心は充足していて寂しさも不安も感じていなかった。


どうして

こんなことになってしまったのだろう。


相手がレンだったからだ。


レンじゃなければ

絶対にこんなことにはならなかった。


レンはきっと私が求めているものの象徴なのだ。


私だけではなく今の時代が求めるニーズだからこそ

これだけの人気を誇っているのだ。


レンは『神様に選ばれた人間』というシンボルで

そんなレンに例え一夜の相手であろうと選ばれたという自意識が

私も神様に選ばれたと同義のような錯覚を引き起こし

優越感という言葉では片付かないくらいの高揚と快楽を与えた。


それなら私は

快楽のために愛を犠牲にしたのだろうか。


私にとってレンとの一夜は

これまで積み上げてきた幸せを放棄する程価値のあるものなのだろうか。


そんなはずがない。 

いや、どうだろう… 正直分からない。


言語化できない感情と分析できない行動に

私自身が困惑していた。


「俊ちゃんを裏切るようなことは何もしてないわ。それは本当だよ」


私はレンと何もなかったことがせめてもの救いだと感じて

そんな言い訳をした。


だけどそれはただの結果でしかなく

裏切っていないと言うのはズルさ以外の何ものでもないと分かっていた。


私はレンと寝たかったし

完全にそのつもりだったのだから。


いっそのこと

俊ちゃんに全部本当のことを話してしまえばいいのかもしれない。

相手がレンだと分かれば納得がいくのではないだろうかとも考えてみた。


しばらくその方向で思案してみたが

結局は思い留まった。


逆の立場なら

私は納得もいかないし許すことも出来ない。


言って楽になるのは私だけで

やはりこれは誰にも言うべきではないのだと思った。


私は俊ちゃんを裏切ったのだろうか。

これは俗に言う浮気にあたるのだろうか。


私の罪は何だろう。


もしももう一度

レンに誘われたとしたら私はどうするだろう。


絶対に手の届くことのない光り輝く頭上の星が

ある時自分の下に降りてきたとしたら

人はそれに手を伸ばさないでいられるのだろうか。


いくら自問自答を繰り返しても

自分の中の矛盾を解決することは出来なかった。


ただ、どんな自己弁護も意味はないと思った。

私が俊ちゃんを傷つけたという事実だけが全てだ。


俊ちゃんごめんね。 

だけど信じて、私は本当に俊ちゃんのことを愛しているの。

都合がいいのはわかっている、だけどどうしようもなかったの。 

昨日のことは事故みたいなものなの、お願いだからもう一度私を信じて。

俊ちゃんの絶望が、二人の心を遠く隔ててしまったらどうすればいいの?

俊ちゃんを失ったら、もう生きていることに何の意味も見つけられないよ。

お願い、心を閉ざさないで。 私を愛して。


心の中で祈りにも似た言葉を繰り返していた。


私は自分勝手な女だ。


自業自得なのはわかっていても

自分のしたことの代償を払うのが嫌だった。


何事もなかったように

俊ちゃんとの関係が元通りにならなければ嫌だった。


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