らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -10ページ目

第339話 ジレンマ

携帯からの目次を作りました


出勤前のメイクルーム。


営業電話中に

非通知でキャッチホンがはいった。


「あ、キャッチだ、ちょっと待っててね♪」

私は電話中だった客を待たせて裏の着信に出た。


「まりもちゃん?」


声を聞いて椅子から飛び上がった。


「もしもーし、今平気?」


少しハスキーな声、軽めの口調。

名乗らないけど間違いない。 レンだ!


チーフにホットカーラーをまかれている最中だったが

ザワつくメイクルームから出て階段を上った。


空きフロアーの階まで駆け上がり、息を整える。


「こんにちは、出勤前でヘアメイク中なの、でも大丈夫」


「そっか、チケット手配したからさ~、送るよ。

メールで名前と住所教えてくれる? 書くものある? こっちのメアド言うよ」


「やったぁー!!!  ちょっと待ってね」


レンが口頭でメールアドレスを二度繰り返す。


私はメモをとりながら復唱し

「これレン君のメールアドレスなの?」と確認した。


「俺のだよ、時々メールちょうだいよ」


「マジで! じゃーメルトモだ♪ やったぁー!!!」


「声でか~! 元気だねぇ~」


「そりゃーもう! 

絶対約束忘れてるだろうなって思ってたし!

約束どころか私の存在ごと忘れてるって思ってたし!

だってレン君ただの酔っ払いだったじゃない?」


「はははっ、いや記憶なくすほどは飲んでないけどさ~

あの日寝ちゃったんだったよね~、もったいないことしちゃったな」


レンは天気の話でもするみたいにそう言った。


その言葉に過剰反応をおこしたのか頭の中が真っ白になり

胸がドキドキして返す言葉が見つからなかった。


「…てか! また仙台に来たら遊んで欲しいな」

私はつい勢いで言った。


「まりもちゃんが東京に来ればいいじゃん」


「えっ! 東京に行けば逢ってくれるの?」


「う~ん、なかなか難しいとこだな、はははっ」


「ですよねぇ… とりあえずライブ! 超楽しみ!」


「うん、おいでね。ごめん、俺そろそろ戻らないと」


「はい、じゃ送り先すぐにメールしますね」


「うん、チケット届いたらまたメールして」


「はい、仕事頑張ってくださいね!」


短い会話だったが

私はまたしても完全に舞い上がってしまった。


当然だ。

憧れのレンから電話がかかってきたのだから。


俊ちゃんには申し訳ないが

素直に喜ばずにはいられなかった。


私とレンは繋がっている。

メールをすればまた返事がくるかもしれない。

もしかしたら… 妄想が膨らんで止まらない。


跳ね上がった心拍はなかなか元に戻らなかった。


レンにメールを送信し終わると

すぐにまた携帯が鳴り、私は番号も見ずに通話ボタンを押した。


「キャッチで待たせておいて切るってどういうことよ?」


「あー! た~ちゃん! ごめぇ~ん

そうだった、裏だったのすっかり忘れてたよ!」


「ひでぇ、あいかわらずボケてんなぁ」


「ねぇね、今日店に顔だして! 逢いたいょ♪ 

あー! もう同伴行かなきゃ! ごめ~ん、切るね」


私は用件だけ伝えると一方的に電話を切った。


仕事も指名もどうでもいい。

今はただ、耳に残るレンの声の余韻に浸っていたい。


レンは私との約束を守ってくれた。

あの夜のことも覚えていてくれた。


最高に気分がよくて

メイクルームから出ると

我こそは国分町の主役という顔で通りを闊歩した。


同伴の約束場所へ向かう。

先に来ていたルッチが私の姿を見つけて手を上げた。


「あんまり食欲ないから喫茶店にしない?」

私はそう提案した。


店の近くの喫茶店に入り

私はサンドイッチとカフェオレを

ルッチはカツカレーとコーラを頼んだ。


「なにやぁ~? 随分大きな溜息つくな」

ルッチが不思議そうに私の顔を覗き込んだ。


どうやら私は無意識に溜息を吐いていたらしい。

まず冷静さを取り戻そうと水を半分ほど飲んだ。


「生きていると、予想もしてなかった出来事に遭遇することがあるね!」

私は頬杖をついてしみじみと言った。


「なんかあったのわ?」

ルッチはキョトンとした顔で私を見た。


「ルッチさ、可愛い嫁がいて、息子も三人いるじゃない?

仕事も順調で金持ちで、毎日でもキャバに遊びにこれる余裕がある。

でっかいマイホームも建てて将来安泰。 すごく幸せだよね?」


「だっちゃ、俺は幸せだよわ」 ルッチは得意げに顎をあげる。


「ねね、幸せって自覚があるのに、それを見失いそうになる時ある? 

例えばさー、ルッチ私のこと大好きじゃん?

もし私が、家庭捨てて一緒になって! って頼んだらどうする?」


「そいつは願ってもない話だげどやぁ~

実際問題としてやっぱできねぇべ~? 愛人になっか?」


ルッチはニコニコ笑いながら嬉しそうに鼻を擦った。


「十分幸せなのにさ、もっと他にも幸せがあるのかも! って

目新しい可能性に飛びついて、本来あるべきはずの幸せを壊しちゃうなんて

とんでもなく愚かなことだよね。失ってから気づくってオチつきだろうし!」


「ん~だなぁ~

でも人間って現状に満足しちまったらそこで閉じちまうってか

それ以上の発展や向上は望めないからなぁ。

可能性に賭ける人生ってのも悪くねんじゃね? まりもはそっちのタイプだべ? 

向上心がなければNo1にはなれねぇだろうから」


果たしてそうなのだろうか、と私は考える。

向上心があるからNo1になった?

それも少しはありそうだが、たぶん理由はちょっと違う。


誰よりも、どうしても

No1になりたい動機があったから努力しただけだ。


私は自分の女としての価値を

執拗に確かめたくてしょうがないのだ。


No1の座に固執するのは

それが「女としての価値」を確認できる客観的なモノサシだからだろう。


店でのランキングは

そのまま私の「評価」となり女の「ランク」とみなされる。

意地とプライドを保つための指標なのだ。


私がいつも

女としての価値の確認に強迫的に囚われているのには理由がある。


それは、失われた自尊心の穴埋め行為なのだ。

根深いコンプレックスの表れなのだと自分で思っている。


援助交際や中絶を繰り返した汚れた過去を

私はいまだに自分で許すことができないでいるのだ。


過去の全てがあるから今の私があるのだと

頭ではわかっていても、心がその事実を享受するには至っていない。


あぁ、そうか、と私は思う。


俊ちゃんが何よりも大切だと心の底から感じながらも

レンに期待と妄想の入り混じった感情を抱き

私を暴走させた欲望の正体が少しわかった気がした。


レンとの繋がりは

もしかしたら王子様に選ばれるシンデレラは

私かもしれないという甘い幻想に通じているのだ。


レンに抱かれるようなことがあれば

それは「女としての価値」が究極に保障されることを意味するのではないだろうか。


レンが私を選んでくれれば

自己嫌悪も劣等感もきっと遠い彼方に飛んでいくような気がする。


特別な男から

「君は特別な女の子だ」と太鼓判を押される至福の時。

私はどこかでそんな夢を見ているのかもしれない。


『特別な人間になりたい』


そんな手に負えないナルシスズムと自我を切り離すことができずに

私は理性を失いあの夜レンの元に走ってしまったのだ。


白鳥になりたい! 理想の自分を手にいれたい! と。


なんだ…

結局そういうことなのか…


私の欲望のベクトルは

俊ちゃんにもレンにも向いていない。


自分に向かっているから

だからいっそう留まることを知らないのだ。


考えれば考えるほど

そんな自分にいいかげん辟易してくる。


「真面目な顔して考え込んで、一体どうしたのや?」

ルッチがカレーをがっつきながら尋ねた。


「なんかさ、もしかして考えても無駄?!

結局、意味づけして自分が納得したいだけだよねぇ~

考えて答えが出てもそのとおりに行動できないんじゃ意味ないし。

つーか、そもそも意味なんて何にもないのかも! 私にも、人生にもさ…

そう思うと、心もとないから必死で意味を見つけようとしてるだけ?

あー! もぉ! 考えることに疲れたよ! 

どーせ考えても、いつも間違えちゃうし、馬鹿みたい…

自分をいくら分析したってダメなのよ! 頭でわかってもダメなの!」


「ん~? よくわかんねえけど好きにすればいいべ

世の中そんな複雑なもんじゃないっちゃ、サンドイッチ食わねぇのが?」


ルッチは皿の上からハムサンドを取って私に差し出した。


こんな支離滅裂な言葉がルッチに伝わるはずはない。


だけど彼は能天気に

彼なりのやり方で私を元気付けようとしてくれていた。


私はサンドイッチを一口かじった。


「いや~、腹くっつい!」

カレーを平らげたルッチがニコニコ笑った。


「私ってすぐに抽象的な思考に沈んじゃうのよ! 

なんなんだろうね? このクセ? もしかして現実逃避なのかな?」


「いいからサンドイッチ食え~」

ルッチはガハハハハと笑ってコーラも飲み干した。


私も笑って肩をすくめた。


よくよく考えれば

レンは私にライブのチケットを送るために電話をかけてきただけだ。


ここまで思考が飛躍してしまったのは

私の中にジレンマがあり、それがどうにも心地悪くて

答えを見つけてスッキリしたいからなのだろう。


頭と心がバラバラでイライラするのだ。


目の前にある幸せを大切にすると決めたばかりじゃないか。

私が愛しているのは俊ちゃんだ。


局いつもの終着点に辿り着く。

何回ループすれば気がすむんだ! と自分自身に苦笑いした。


俊ちゃんが大切。

レンから電話がきて嬉しい。


ただそれだけのことだ。 

難しく考える必要は、きっとない。


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