らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -15ページ目

第334話 意地悪な交差点

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「行ってきまーす」


玄関でヒールを履き終わると

俊ちゃんは私の腰に手を回し優しいキスをした。


「頑張ってな」


いつもどおり

彼に見送られて家を出た私は

定時にメイクルーム入りしてそのまま同伴に向かった。


客と軽い食事をすませて店に入る。

いつもの風景。いつもの顔ぶれ。


昨日と同じような今日

明日もきっと今日と同じような一日になるはずだった


ただ真っ直ぐに見えた

幸福に向かって伸びる一本道の途中に

突如として現れた意地悪な交差点


私は神様に試されていた


あの時の

あの選択が

今でも私を苦しめている


深夜12時を回った頃

女の子達が一斉にザワついた。


客席から店の入り口に視線を移すと

見るからに業界人らしい集団が入ってくるところだった。


ラトゥールには芸能人もよく訪れる。


俳優、歌手、お笑い芸人、スポーツ選手

様々な業界人がライブやイベントで仙台にやってくると

地元の広告代理店などに連れられてやってくることが多い。


マスコミの目がないからか

芸能人との遭遇率は東京の店よりも高いくらいだった。


「なんか有名人来たっぽぃねぇ~」

私は客と一緒になって「誰だろう?」とその集団に注目した。


一団の中で一際目立つ男がいた。


レザーのパンツに黒のTシャツ

ドルガバのキャップを目深に被っている。


彼が誰だかわかった瞬間

私は椅子から立ち上がり両手で口を覆った。


「うそ! Cubeのレン!」


人気絶頂のバンドのボーカルだった。


その一行はメインフロアではなく

カラオケがある方の部屋に案内されていく。


私は客そっちのけで高梨の元に走った。


「今のレンだよね! お願い!!! 私を席につけて!

超ファンなのよ! ラストまで指名入っても断って!」


「指名を断るって… 

そんなこと出来るわけないだろ。クラブじゃないんだから…

席にはつけてやるけど、今ついてるお客さんが帰ってからな」


「わかった! 必ずつけてね!」


約束を取り付けた私は

とりあえず客のテーブルに戻ったものの

『さっさと帰れ』とばかりに腕時計に何度も視線を落とし

会話にも全く集中していなかった。


「まりもちゃん、レンのファンなんだろ? そろそろ帰るよ」

察した客が苦笑して言った。


「うん! ありがとぉ!」

私は空気を読まずにその言葉に甘えた。


見送りが終わるとフロントに飛んでいって

「早くつけてっ!!!」 と高梨に懇願した。


「あんまりハジケ過ぎるなよ!

キョードー東北の人から指名もらってるから

このまま指名重ならなければラストまでついてていいよ」

高梨が言った。


「マジ? あの人指名いれてくれたの? 

えっと… 名前… なんだったっけ?」


何度か店に芸能人を連れてきたことがある人で

私も数回席に着いたことがあったけれど、指名を入れてくれたのは初めてだった。


「安藤さんな」

高梨に言われて記憶が蘇った。


「あぁ、思い出した! とりあえず! 高梨さん愛してる! きゃ~~!」


私は興奮して意味不明な叫びをあげた。


「おいおい…

席着く前から盛り上がりすぎだろ。ちゃんと仕事しろよ。 

皆さんけっこう出来上がってるみたいだから、頼むぞ!」


「ラジャ! ちょっとガムテープ貸して!」


私はフロントでガムテープを受け取るとトイレに走った。


その日はボディコンで

タイトな白のセパレーツを着ていた。


胸元はすでに十分強調されていたけれど

さらにガムテープで両胸を寄せ上げ

ありえないボリュームを作り上げた。


グロスを何度も重ねて濡れた唇を演出し

前髪を入念にキメて両手首に香水を振り掛けた。


トイレから勢いよく飛び出し

高梨にむかって「準備OKです!」と意気込んだ。


「まりもさん… 鬼気迫る迫力ですね」


高梨がチャカしたように「ぷぷっ」と笑い

それが幾分私の緊張をほぐしてくれた。


高梨に連れられてカラオケルームに入っていくと

その団体だけの貸切状態になっていた。


『うわぁぁぁ 本物!』

リミッターを振り切った高揚感が全身を駆け抜けていく。


十人ほどの団体の中

Cubeのメンバーはボーカルのレンとギターのコウだけが来ていた。


「ご指名ありがとうございます、まりもさんです」

高梨がコールと共に私の背中をポンっと押した。


「お邪魔します。まりもです」


私は安藤部長ににこやかに挨拶をして

真っ直ぐにレンの隣に向かった。


高梨が気をきかせてレンの隣の子を抜いていけばいいものの

女の子が一人オーバーの状態だったから

私はレンの横に座っていたアキに

「フロントに電話だって」と嘘をついて席を横取りした。


「一緒にご馳走になります。私もシャンパンを頂こうかな」


横で待機していたウェイターが

私のグラスにシャンパンを注いでくれた。


「レン君、ライブで来てるの?」


第一声、声が震えた。

シャンパングラスを持つ手も震えた。


「今日ラストだったから打ち上げなんだ~」


私は緊張してレンの顔をきちんと見ることが出来ず

テーブルの上を片付けるふりをして髪の隙間から横顔を盗み見た。


溜息が出るほどかっこいい。


「そうだったんだ。おつかれさま。

何軒目なの? けっこう飲んでるんだって?」


「だな~。けっこう飲んでるな~」


「今すごいブレイクしてるよね。忙しい?」


「そうだな~。すごく忙しいな~」


レンは私の言葉をそのまま繰り返すだけで

全く会話がはずまなかった。


私は緊張でカチコチに固まったまま

シャンパングラスを何度も口元に運んだ。


「うちの店ね、よく芸能人来るんだよ。

レン君はこういうお店にはけっこう来るほうなの?」


「いや~、地方にライブに来た時打ち上げでたまにだね。

女の子がつく店に流れるのはめずらしいかな~」


「そうなんだ。地方に来た時の方がお忍びで遊べるもんね。

私ね、元々東京なの。これは店の子にもお客さんにも内緒なんだけど

ギルガメッシュナイト知ってる? あれにでてたんだよ」


限られた時間を楽しみたいと思い

私は会話の突破口を見つけようととっておきのネタを出した。


「マジで? 見たことあるよ。 はははっ」


レンはようやく私の顔をまともに見てくれた。

彼の視線はそのまま胸元に降りてピタリと止まった。


「名前なんて言うの?」


レンに訊かれて
『カチっ』と自分のスイッチが入ったのがわかった。


「名前は最初に言ったのにぃ~。 まりも、まりもね!」 


「あれ、言ったっけ~? そうだっけ~? ごめん、はははっ」

レンは申し訳なさそうに俯いて笑った。


その笑顔が、どうにも形容できないほど素敵で

私は夢の中にいるみたいな不思議な感覚に陥った。


「今日はどこのホテルなの?」


「どこだっけ、スタッフに聞かないと忘れちゃったな。 ははっ」


レンは目に前に置かれたシャンパンには口をつけず

ビールばかりを飲んでいた。


「もうここでお開きなんでしょ?」


「どうなんだろうなぁ~。 

明日も早いし今日はここで終わりだろうな~」


「そうなんだ。私の部屋ね、USENがついてるんだけど、いつもCubeの曲流れてるよ。

最新アルバムいいよね。とくに6曲目が好き。たぶんCDは全部持ってると思う」


「ライブには来たことある?」


「ううん、ライブには行ったことない」


「ところで、どうして仙台に? 

こっちから上京するのはわかるけど逆はめずらしいよね」


ようやく会話が自然に流れ始めたのも束の間

閉店10分前のBGMが流れ始めた。


時間を忘れていた私は

思わず残念で堪らないといった溜息を吐いた。


「まりもちゃん、ちょっと」

安藤が私に向かって手招きした。


私は会計を頼まれるのだと思い安藤の席に移動した。


「この後もう一軒いくけど、女の子何人か連れてきてもいいよ。 

口固い子だけお願いね。店に入ったら連絡するから携帯繋がるようにしておいて」
 

思い掛けない天の声に

私は「もちろんです!」と即答してレンの隣に戻った。


「レン君、この後あるみたいだけど行くの?

私も誘ってもらったんだけど顔だしてもいいかな?」


「誘われたなら来てもいいと思うよ~。おいでよ~」


グラスに残ったビールを飲み干したレンは

もう随分と気持ち良さそうに見えた。


――私は夢の中にいた

決して目覚めるはずのない現実の夢の中に――


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本編ドキドキ展開ですね~

やっとここまできたか、ってかんじでストーリー的にはやや加速かも。

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