第232話 ユウの生い立ち
「隠してたわけじゃないんだけどさ
うちの父ちゃん、実の父親じゃないんだよね」
「そぉなんだ?
そういえば、ユウってお母さんの話はけっこうするけど
お父さんの話は今まで聞いたことなかったかも」
私は体をユウにピタリと寄せて
話を聞く体制をとった。
ユウは目を閉じたままで
かなり歯切れの悪い話し方ではあったけれど
自分の生い立ちや幼少期の記憶、それに伴った心情などを
言葉を選びながら語ってくれた。
私はユウが話し終わるまで
ずっと相槌だけを打っていた。
ユウの家庭は
想像していたよりもずっと複雑だった。
ユウが3歳の時
実の父親が蒸発した。
ユウは父親の顔を覚えていない。
まだ幼いユウと4歳年上のお兄さんを
ユウの母親は3つの仕事を掛け持ちしながら育てた。
お兄さんは
帰りの遅い母親に代わって
ユウの面倒をよくみた。
とても仲の良い兄弟だった。
二人は地域の少年野球チームに入っていた。
監督は
隣の家に住むおじさんで
ユウの家と同じく息子が二人いた。
彼らも野球チームのメンバーで
ユウの親友でありライバルでもあった。
監督は
まるで父親のように
ユウ達兄弟に親身に接してくれた。
監督の本業は大工さんで
自分で建てた大きな一戸建てに住んでいた。
遊びに行くと
ファミコンがあってすごく羨ましかった。
ユウが小学校3年生の時に
監督の奥さんが病気で亡くなった。
そして
ユウが中学に入る頃
監督とユウのお母さんは再婚した。
ユウは男ばかりの4人兄弟になった。
年も全員近かった。
その頃からユウは
強迫的に「良い子」でいるようになったという。
監督のことも
子供の頃からずっと仲良くしてきた隣の息子達も
大好きだったし、信頼関係もあったのだけれど
「新しい家族」という関係性にユウは戸惑った。
ちょうど多感な時期だったこともあるだろう。
新しい環境に
ユウはなかなか馴染めなかった。
居心地の悪さから
リビングには居つかずに
自分の部屋に篭って勉強ばかりするようになった。
成績はぐんぐん上がり
母親はそれをとても喜んだ。
その頃
陰湿な噂話がユウの耳に入った。
「あの二人は昔から不倫関係だった」
「隣の奥さんが病気で入院している時に
ユウのお母さんが誘惑して取り入った」
中学生だったユウはとても傷ついた。
強く憤りながら自分の無力を感じた。
お兄さんは
高校を卒業するとすぐにアパートを借りて自立した。
ユウも
教師達に惜しまれながら
大学進学ではなく建築士の専門学校を選んだ。
早く自分の手で
お金を稼ぎたかった。
人一倍
お金への執着心は強かった。
どこかで
新しい父親の世話になることに抵抗感があり
本当の息子達への遠慮もあったのだという。
ユウの話を要約すると
だいたいこんなところだった。
それから
こうも言っていた。
モルタル造りの小さなボロアパートで
家族3人暮らしていた頃が一番良かったと。
貧乏だったし鍵っ子だったけれど幸せだったと。
「この話、初めてしたよ。 今まで誰にも言えなかった。
まりもは、いつも自分の居場所が欲しいって言うだろ?
それは俺も同じなんだよ・・・。 一緒に暖かい家庭を作ろうな」
ユウはこう言って話を締めくくった。
それは
私が今まで知らなかったユウの一面であり
現在のユウを構成している重要な要素なのだと感じた。
きっとユウは
今まで生きてきた過程で
たくさんのものを抑圧してきている。
それはみんな同じなのかもしれないけれど
ユウはそういう抑圧的な部分が表面に現れてきていない。
一見
良いところのぼっちゃん風にすら見える。
新しい家族が出来た時
ユウは自分の存在理由の危うさを感じたはずだ。
だから
母親の自慢の息子でいる事に
強迫的にこだわり続けたのだ。
ユウの純粋無垢なところ
最初に感じた「真っ白なキンバス」という印象は
考えようによっては不自然ともいえるわけで
ユウが無意識に「そうあり続けた姿」だったのかもしれない。
「話してくれてありがとう」
私は包み込むような優しい声で言った。
性格って、環境によって作られる部分が多いのかなぁ?
生まれつき持ってるDNAもあるんだろうけど、後天的な要素も大きい気がするよね。
子供の頃ってさ、みんな家族の中で無意識に「自分の役割」を演じていると思う。
家族の内のパワーゲームに翻弄されて生きてきた人ってけっこう多いんだよなぁ。
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