荻窪、
井﨑正浩氏の棒、成蹊大の学生オケ公演、済む、井﨑氏は同オケへは初客演であったとのことである、
演目はこないだの佐藤雄一氏と日大管との公演と肖ており、ドヴォルザーク《謝肉祭》序曲、チャイコフスキー《白鳥湖》抜萃、っそしてブラームス《1番》だが、オケのテクニークとしては伯仲であるも、井﨑氏と佐藤氏とでは指揮者としてまるでものがちがう、っやはり、オーケストラを生かすも殺すも偏に指揮者である、
ドヴォルザークは、っわりにのんびりとした速度の裡へ無理のないトュッティを収めて快く開始するが、っもっとよく弾ける団体を相手にならばより速いテムポを採られたのか、っもとよりあれが井﨑氏のご趣味なのか、っわからない、っが、絃が音量を出せないアマチュアでは、シムバルやタムブリンが一寸つよく打ったっきりでもう主題の形姿が掻き消されてしまうところ、っきょうの学生諸君はVnもよくがんばっており、っちゃんと音楽の意味がわかる音構造で鳴っている、っそして管群の和音も豊麗かつ透明度が高く、中規模音場で客席を威圧してしまわない程度に全体が適度に分厚い、っよいひびきだ、っよって、冒頭主題が何度めかで調を遷る際の色調の変転も鮮やかである、
っふたつめの主題へ至ると、井﨑氏一流の気障ったらしいアクションへ応じてVnは情緒に濡れ、色を変え、薫りを発する、聴けっ、佐藤氏よっ、っあれが指揮者の仕事というものだっ、
ポリフォニーの咀嚼も微に細に入り、っしかもそうした細工がけっして全体の流れを遮ることがない、一般大学の学生オケとして必ずしも優等の部類へは入らない団体かもしれないが、っかなり高度の要求をしてもよいし、っするべきだと井﨑氏が判断されていることがわかる、
曲は終結へ向けておおきな漸増を来たし、井﨑氏は開幕曲から相当度のアジタートな棒を振られるが、偉とすべきは、昂奮を加えてもひびきが濁らず、っどれか声部が別の声部を潰さず、最後まで音楽的のアッピールを貫徹できたことだ、っあるいは、煽っても力奏で応じてくれるほどには腕が立たないオケの実力に鑑みて、オーヴァーに振るくらいでちょうどよい、むしろそうしないと不完全燃焼に了わってしまう、っとの経験的の勘が働かれたのかもしれない、
《白鳥湖》は日大管のときよりも数多のナムバーを採っており、コンサートでの抜萃ではなかなか演らない部分も入っていてたのしかったが、〈スペインの踊り〉を欠くのがぼくとして惜しい、っあれがわりにすきなもので、
っしかし、演奏はすばらしかった、佐藤氏よりもずっと細部の愛で方に神経が通い、ハープは客演であろうが、っまず音粒にまろみがあってひじょうに高級なのと、っそれをまた井﨑氏がもののみごとに浮沈せしめられる、〈情景〉では、オーボーの背景のこの楽器と絃のトレモロとが、っほんとうに水紋の展がってゆく様を幻視させる、人口に膾炙し切ったあんな有名曲をあれほど新鮮に聴かせるとは、っまったくみごとなお手並みである、
〈終曲〉が高鳴りを連ねてゆくと、懸命に棒へ喰らい附く若者たちの姿はまこと青春を画に描くようで、音もまた地を離れておおきに羽搏き、っこんなアマチュアの定番演目で涙腺が弛むとはおもわなんだ、
オケの性格として、迫らず、っおおらかな印象があった前半から一転、ブラームスは極めて戦闘的の運命の剋服である、井﨑氏の力まれようも尋常ではなく、スフォルツァンドのたびに撲り附けるような腕の振りには戦慄をおぼえるばかりだが、っそれによりオケ、っとくにVnは前半には聴かれなんだ突き刺すごと鋭い音も発せられるようになり、っより表現の幅が拡がる、っここでも井﨑氏の譜読みは周到で、苛烈に前進しながら同時に重要動機をそこかしこで掘り起こされる、
フィナーレ主部の主題は中弱音へ抑えてゆったりとこころゆくまで謳う、絃各声部の混淆の音色は、っしみじみとしたよい味である、加速するトュッティとのコントラストはいわでもがなで、鬼気迫る熱血漢、井﨑氏の勇姿も眩しい、っしかもここにおいてなお、鋭い音を出せるようになったぶん、全体の音が不当に硬質で耳に痛くなってしまうということがけっしてない、コーダの勝鬨におく絃のリズム動機は見違えるほどワイルドな発色と音力とを獲得しているが、っしかし最終音へ至るまで高度の格調が厳守せられたのである、
絃バスへは読響の高山氏がお乗りだった、トレイナーでいらっしゃるのだろう、っそして奇遇なことに、っついさっきまで京王のおなじ車輛で至近距離へいらっした、っぼくは荻窪から吉祥寺経由、井の頭線で明大前から京王へ乗り換えたが、高山氏はおそらく新宿経由でいられたのだろう、明大前でぼくが先頭車輛のいちばん前へ乗り込むと、っすぐ目の前へ楽器を抱えて坐していられた、稲田堤で降りられたが、読響の練習場の近所へお棲まいということなのかとおもう、
っさて、っきょうで仕事納めで、午前のみで退勤したが、っあすは、っいま聖蹟別棟へはアルバイトの方で役者をなすっている方がいられて、っきょうあす、祖師ヶ谷大蔵辺で別役實氏の戯曲の公演をされるということなので、観劇へ行くとせむ、
みずの自作アルヒーフ
《襷 ータスキー》(全4回)
https://ameblo.jp/marche-dt-cs4/entry-12351779591.html(㐧1回配本)
《ぶきっちょ》(全4回)
https://ameblo.jp/marche-dt-cs4/entry-12351806009.html(㐧1回配本)