V・グイによる、モーツァルト交響曲39番、ハイドン交響曲60番。グラインドボーン祝祭管弦楽団。1953年録音。
ALP1114。
ヴィットリオ・グイ(1885-1975)は19世紀生まれのイタリアの指揮者。この時代の指揮者の多くは、機能的でシャープな指揮をする現代の指揮者とは違い、人間味のある音楽を奏でる人が多いと思います。彼らの演奏は、国の別を超え、前時代的で楽観的な性質を、音楽に与えているように思います。そこが魅力の1つでしょうか。
我々21世紀の人間が、忙しない現代的な時間感覚から離れ、当時の感性に身を委ねるのは、癒しの効果があると思います。
V・グイもフルトヴェングラーと年は1つしか変わりませんから、19世紀の名残を残した指揮者といえるでしょう。グイは歌劇場をメインにしていた指揮者で、1975年まで長生きをしました。日本にも1度、来日したことがあるようです(1956年)。
とはいえ、日本ではほとんど無名ともいえる存在かと思います。マリア・カラスの伝記などを読んでいると、たまに顔を出したりします。
グイはモーツァルトとブラームスの権威といわれており、このレコードも、そのモーツァルトを収録しています(もう1曲はハイドン)。
しかし自分が、初めてグイの演奏する、モーツァルトの交響曲39番「プラハ」の演奏を聴いたとき、随分のろいテンポでびっくりしました。イタリアの指揮者というと、トスカニーニやムーティなど、ストレートで力強い演奏を思い浮かべます。ジュリーニでさえ、若いころはダイナミックなテンポの演奏があります。しかし、グイはその真逆といって良いような、おっとりとして、柔和な演奏です。正直初めは慣れませんでした。特に「プラハ」シンフォニーは、ある程度の推進力と力強さがあるほうが、愉悦の感情が表現されると思います。
自分は時間がある時に聴き直してみて、初めて魅力を感じ取ったところです。緩やかで色彩的なメロディの扱いに、指揮者個人の優しさのようなものが表れていると思います。心から音楽を味わうという印象でしょうか。ハイドンの方は活力も感じさせる名演で、誰でも楽しめると思いました。
このような演奏に身を任せていると、当時の緩やかな人々の生活が目に浮かぶようで、面白いです。
V・グイ指揮、グラインドボーン祝祭管弦楽団「フィガロの結婚」(1955)。
ALP1312-1315。
日本ではあまり有名ではありませんが、このV・グイのフィガロは名盤として名高いものです。デッカ、コロンビア、HMVという、初期ステレオで有名なレコードレーベルには各社それぞれの「フィガロの結婚」があります。
デッカが有名なE・クライバーの録音(1955)。コロンビアがSAX仕様のC・ジュリーニの録音(1959)。そしてHMVがこのV・グイの録音です。
このグイの録音は人によってはE・クライバーの録音より上、という人もいます。値段も高価で、クライバー盤を上回る。ですので自分が所持しているのはモノラル盤です。
細かい音の揺れ動きが、独特の色気を醸し出す、クライバー盤。濃厚で、厚みのある響きが魅力のジュリーニ盤。それらに比べるとグイの録音は、上述のプラハ交響曲のように柔和で、柔らかさを基調とした、洒落た演奏です。
とにかく音の角が立たないように徹底しており、初めはやや弱々しく聴こえていますが、聴き進み、時間が経つと、おとぎ話風の優しいファンタジーな雰囲気が立ち上がってきます。E・クライバーにやや似ているのかもしれませんが、非現実的な感触はこちらの方が上かもしれません。
聴後のまろやかな後味は、外では味わえないと思いました。
Silent Tone Record/モーツァルト:フィガロの結婚/ヴィットリオ・グイ,グラインドボーン祝祭管弦楽団 ALP 1312-5/クラシックLP専門店サイレント・トーン・レコード
↑、前奏曲の途中まで。
↑、伯爵夫人の配役はセーナ・ユリナッチ。
19世紀生まれの指揮者の演奏を探るのは中々楽しいですね。





