ワルキューレ |  ヒマジンノ国

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ショルティの「リング」(この記事では「ニーベルングの指輪」のことを指します)は、CDで良くでよく聴いてきたせいもあって、アナログ盤で集めないでおこうと思っていたのですが、「ワルキューレ」(1965)が安価で出ていたので、結局購入してしまいました(;^ω^)。

 

SET312-316。ED2、初出。

 

 

一応解説すれば、「ワルキューレ」はR・ワーグナーの超大作「ニーベルングの指輪」(歌劇で、上映に4日を要し、演奏時間は14時間を超えます)の第1日目(初日は前夜祭の「ラインの黄金」が上演、新たに第1日目としての「ワルキューレ」)に当たります。「ワルキューレ」の上演時間自体は4時間ほど。北欧の神話を元にした作品になっています。

 

「ワルキューレ」は運命の双子、ジークムントとジークリンデの物語です。

 

小人アルベリヒの作った「権力の指輪」を取り戻そうとする、神々の長ヴォータン。そのために彼は人間界に下り、人間に産ませたのが、デミゴットともいうべき、ジークムントとジークリンデです。彼らは幼いころに離別し、別々に育てられますが、運命の綾で引き合わされます。

 

そして兄弟であるにも関わらず、彼らが愛し合い生まれるのが、英雄ジークフリートです。歌劇「ジークフリート」、これは翌日の上演演目になります。

 

「ワルキューレ」の場合、神々の長ヴォータンと、その娘たち(ワルキューレ、英語でいうところの、ヴァルキリー)が登場し、活躍します。この戦乙女、ワルキューレに付けられた音楽が有名で、どんな人でも1度は聴いたことがあると思います。この音楽のために有名になった、といっても良いほどの作品です。ワーグナーのリングの中では1番メロディアスで、聴きやすいかもしれません。この作曲家の代表作の1つです。

 

 

↑、9人の戦乙女、ワルキューレの長兄に当たるブリュンヒルデ。アーサー・ラッカムの挿絵から。空を飛ぶことのできる馬に乗って、最終決戦ラグナロクのために、死んだ英雄たちの魂をヴァルハラに集めています。

 

ショルティの「リング」については、このブログでたびたび書いてきているので、また繰り返しになってしまって恐縮です。ショルティ盤こそは、音楽が録音メディアに記録されるようになって、長らく「ニーベリンングの指輪」の、最もスタンダードな音源として知られてきました。

 

このワーグナーの大作を聴こうと思うと、昔はこの録音が筆頭になってきました(最近は選択肢が増えましたが)。スタジオ録音で「リング」全曲を入れた初めての録音でもあり、有名なプロデューサー、ジョン・カルショーによって、初期ステレオにとても鮮明な音として記録されました。その点でも画期的な音源で、世界中でヒットした商品でもあります。

 

この有名な音源を、自分はずっとCDで聴いてきました。しかし、最近の自分は完全なアナログ派になってしまい、CD派の人たちには申し訳ないですが、CDでショルティのリングを聴くのは、自分にとってかなり苦痛になってきました。CDだとショルティ特有の、呼吸の浅さが目立って仕方なく、長時間聴いているとイライラしてきます。

 

それがアナログ・レコードになると、音の懐が深くなるので、断然聴きやすくなり、色々とショルティの指揮を見直すきっかけにもなりました。ショルティの演奏するワーグナーは全てが良いとも思えませんが、この「ワルキューレ」は彼の中でも名演の部類に入ると思います。

 

今自分の手元には「パルシファル」(LP)、「マイスタージンガー」(旧盤、LP)、「タンホイザー」(LP)、「ローエングリン」(CD)などがありますが、「マイスタージンガー」などは、ぱっとしませんね。「リング」でも「神々の黄昏」なんかはもう1つだと思っています。

 

ショルティのパルシファル | 長谷磨憲くんち (ameblo.jp)

 

↑、過去記事です。「パルシファル」とか「ローエングリン」のような、しとやかな曲調でも良い演奏をするのが、自分にはちょっとした驚きです。

 

ショルティは、悪いいい方をすれば、デリカシーがない指揮者で、ざっくばらんに音を鳴らしすぎるきらいがあります。音楽そのものに詩的な表現が多いと、のっぺりとしたり、ガサガサしたりする時が出てきます。しかし逆に思い切り音を鳴らすときは、ケレン味なく思いっきり鳴らすので、爽快感が出ますね。

 

「ワルキューレ」の第2幕は、かなり詩的な表現が必要だと思うんですが、その2幕以外、他の場面は機動力に満ちた音楽が多く、ショルティらしい豪快な響きが功を奏している場面が多いと思います。そして何より、ショルティ自身、この録音に対しては、かなり気合が入っており、雷が轟くような迫力が、興奮した感情と共に、ところどころ発揮されています。

 

特にウィーンフィルを豪快に鳴らし、金管群の、泥臭いが迫力ある音色など、味が濃く、聴きどころでしょう。

 

ドイツ流のゲルマン魂はない演奏ですが、全体に近代的な音の生々しさがみなぎり、かなりギラついた「リング」になっているのが、ショルティ盤の特徴かと思います。

 

 

↑、第1幕、ジークムントは、裏切り者の汚名を着せられ、追手から逃げ込んだのが、敵の狩人フンディングの小屋でした。そのフンディングの妻が、本人の意に反して娶られていた、彼の双子の妹、ジークリンデでした。

 

 

双子の2人は出会った瞬間に恋に落ち、ヴォータンが用意した、聖剣ノートゥングをトネリコの樹から引き抜くと、駆け落ち同然でフンディングの小屋から逃亡を図ります。

 

 
 
↑、第2幕の前奏曲。ショルテイらしい思い切りの良さが出た、名演だと思います。
 
冒頭、高らかに鳴るのは、「聖剣ノートゥング」のテーマ(ライトモティーフといいます)で、トランペットによる輝かしい響きは、聖剣の輝きそのものを表しているといっても過言ではないでしょう(上のレコード・ジャケットの写真そのもののような音楽!)。それがすぐに「愛の逃亡」のテーマに引き継がれ、フンディングの小屋から逃亡を図る双子の様子を描きます。中間部は「愛の陶酔」のテーマから、その双子の悲しい運命を暗示し、一転、迫力ある「騎行」のモティーフが、天翔ける天馬の訪れを告げていきます。遂には雄渾な「ワルキューレ」のテーマでこの前奏曲の幕を閉じます。このワルキューレこそ、この物語最大のヒロインである、ブリュンヒルデです。そして、場面はフンディングの館から、神々のヴァルハラ城へと移っていきます。
 
ワーグナーの作ったライトモティーフ(指示動機)は、100種類以上にわたるといわれ(分類の仕方にもよる)、それぞれの音楽が、登場人物や小物の特徴、あるいは感情や、状況などを表しています。それが縦横無尽に絡んでいくことで、全体の音楽を形作っていきます。
 
R・ワーグナーは北欧神話の「エッダ」と、ゲルマン神話の「二―ベルンゲンの歌」を掛け合わして、彼流の新たな「神話」を書きました。人間が意図的に、また人工的に、「神話」を作る行為は、ここから発しているといっても過言ではないでしょう。心理学者のジークムント・フロイトが、人間の深層心理の存在を暴くのよりも前に、R・ワーグナーは物語の内部に潜む「暗喩」の存在を理解しており、表面的に描かれている物語と、その暗喩との結びつきを、歌劇の創作でもって新たに作り出していきます(他にも「トリスタンとイゾルデ」、「ローエングリン」など)。そしてこの人工的な「神話」を作るという行為が、後の人々にも受け継がれていったのです(ジョージ・ルーカス、トールキンなどに)。