アンドレ・クリュイタンスによる「ホフマン物語」(1964-1965)、フランス盤。SAN154FーSAN156F、ステレオ。
この作品のスタンダードな名盤、ともいわれているものです。
音は良く、滑らかなクリュイタンスの指揮と音色を堪能できます。全体に保存状態が良かったレコードです。
オペレッタの作曲家、ジャック・オッフェンバック(1819-1880)によるオペラです。最晩年にオペレッタでなく、オペラの作曲を試みたオッフェンバックですが、完成を見ることなく他界し、友人のギローが完成させたとされています。
名曲で、物語の内容も凝っており、聴きごたえがあります。
主人公の詩人、ホフマンがルーテル酒場で学生たちに聴かせる、3つの「恋愛話」で構成されているのが特徴ですね。現実とメルヘンが巧みに合成された3つの物語は、主人公のホフマンをだしに、人間の愚かさがユーモアと愛情をもって描かれており、風刺的でもありながら、コミカルに楽しめる作品です。
自分は昔から小澤征爾の録音を聴いてきましたが、これが中々なじめず、いつも途中で聴くのを止めていました。
しかし今回のクリュイタンス盤は味が濃くて、面白かったです(クリュイタンスはオール・フランス人キャストによるモノラル盤もあるらしいですが、自分は未聴)。
小澤の指揮は軽く、透明感がありますが、カロリー不足でした。そこに来ると、クリュイタンスはグランド・オペラ風のきらびやかな指揮で、豪華です。豊かに流れる音楽は魅力です。夜の街、綺麗な街並のネオンが輝いているような・・・美しさ、とでもいえば良いのでしょうか。
歌手はこの頃のEMIらしい、いつもの豪華さです。ホフマンには全盛期のニコライ・ゲッダ。甘い声に堂々とした歌いっぷりは、甘ったれた性格のくせに、同じ過ちを繰り返す、ホフマンらしい感じが良く出ています。
↑)ニコライ・ゲッダ
機械仕掛けの人形オランピア、ヴェネツィアの高級娼婦ジュリエッタ、そして薄命の歌い手アントニアに恋するホフマンは、いずれも実らせることができません。
聴いていて一番面白いのは、オランピアのストーリー。魔法の眼鏡をかけてしまったホフマンには機械仕掛けの人形オランピアが、本物の人間に見えて仕方がなく、恋をしてしまいます。
そのオランピアが歌うアリアは、ゼンマイが切れそうになると、歌も止まりそうになり、助手が再びゼンマイを巻き戻します。この辺が音で表現されている感じはまさにメルヘンでしょう。楽しい場面です。
歌手は見た目も人形のような、ジャンナ・ダンジェロ(当初はレッグによって、カラスを起用する予定だったとか。また、ダンジェロは商業用録音がほとんどない歌手だったようです)。
↑)ジャンナ・ダンジェロ
ヴェネツィアの高級娼婦、ジュリエッタになんとシュワルツコップ。薄命のアントニアには、ビクトリア・ロス・アンヘレス。
真面目な印象のある、シュワルツコップが娼婦というのが怖いですね。騙されたホフマンをあざ笑う、売春婦の気の強さをみせるシュワルツコップに、何か異様なものを感じるのは自分だけでしょうか。
歌手になる希望を捨てきれない、純真なアントニアはアンヘレスが当たり役でしょう。充分だと思います。
2時間半ぐらいかかる長いオペラですが、豪華さ、というよりは、豊かさ、を満喫できる演奏で、やはりクリュイタンスの指揮が美しいです。オーケストラも必要であれば存分に鳴らし、洒落た味わいも逃しませんでした。
↑)アンドレ・クリュイタンス