曇りの日 |  ヒマジンノ国

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今回から数回分は最近聴いている、ピアノ曲の感想です。


ここに書いている以外にも、伝説的なピアニスト、セルゲイ・ラフマニノフの自作自演、アリシア・デ・ラローチヤのイベリア半島のピアノ曲や、夭折したディヌ・リパッティの演奏なども聴いてました。


その中でも割合と気になったものだけ書いておきます。




マウリツォ・ポリーニ、ショパン・スケルツォ集(1989、1990)。グラモフォン。

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・・・薄暗い一日の暮れ、湿った雨が降り、今日はどうも気分が乗りません・・・。

・・・しかし、ポリーニの、華麗なまでスケルツォの演奏は、気品に溢れ、しばし、うっとうしさを忘れさせてくれるはず・・・。曇った空はまるで物思いにふける詩人の心のようですが、ポリーニの演奏をかければ、そんな薄暗い印象も、今いる自分の世界が、何か上等なものへと変貌します。


胸のすくようなテクニック。虹色に転がるリズム。美しい情緒。


単純に諧謔的だけでもない、芸術性に溢れたこの音楽を、ポリーニは意義深く演奏していきます。


きらめくような音色は本当に美しいです。





アルフレッド・ブレンデル、シューマン・クライスレリアーナ(1980)。デッカ(旧フィリップス)。

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・・・必ずしもブレンデル(1931-)の演奏がベストでもないかもしれません。しかし、僕は昔からブレンデルの演奏した、「クライスレリアーナ」を愛聴しています。


おそらくブレンデルは知性派だといって良いのでしょうけど、70年代や80年代の演奏は知性だけでなく、バランス感覚の良い、詩情があると思います。




この前、60年代に録音した彼のベートーヴェンのソナタ全集を聴きましたが、ちょっとばかり、角が立ち、若さが目立ちました。2度目と3度目の全集は聴いたことがないんですが、70年代に録音した「月光・悲愴・熱情」は持っています。


当然70年代に録音したものの方が大人びて、風格があるようですが、個人的な意見をいうのなら、ベートーヴェンを聴くには少し物足りないかな・・・と。


理想をいえば、ベートーヴェンのソナタにはもっと圧縮力が欲しいところです。彼の場合、もっと滑らかで、艶のある曲の方が、知性と詩情のバランスが取れ、美しいと思います。


ここでブレンデルの演奏する、シューマンの「クライスレリアーナ」は美しい曲ですが、何かシューマン特有の一心不乱にファンタジーを追う姿勢に、晩年の精神疾患を予感させるものがあります。


特に1曲目・・・。


この1曲目を聴いていると、僕には、シューマンが必死になって、思いついたインスピレーションを、五線譜に書きとどめようとなっている様子が浮かびます。自分の美しいイマジネーションを、何としても手放すまいと思っているシューマン・・・。


そして・・・やはり・・・1曲目は美しいのです。


艶々とした音楽に乗って、シューマンのポエジーが溢れてくる様子は格別です。


ここでのブレンデルの演奏はその1曲目に、知性的なアプローチを入れているのが好ましく、確実な筆致で、焦燥感にかられたシューマンに落ち着きを取り戻しています。


やや陰りを帯びている、とはいえ、このピアニストの音色はしっとりとして、金色よりも、白色に輝く真珠のようで、連綿と音が連なる1曲目を確実な筆致で綴る様は、まるで真珠のネックレスを眺めているような良さがあります。


他の諸曲も、落ち着いた雰囲気の中で、しっとりとした美の世界を心行くまで・・・というものです。





ウラディミール・ホロヴィッツ、ベートーヴェン・ピアノソナタ「月光・ワルトシュタイン・熱情」(1972、1973)。ソニー・クラシカル。

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最近聴いたベートーヴェンのソナタの演奏では、このホロヴィッツの演奏が素晴らしかったです。最晩年の演奏と違い、技術に破綻のないこのピアニストの演奏は本当に素晴らしいものがあります。


「月光」の第1楽章はやや硬い気もしますが、第3楽章になると、神経質なほどの彼のセンスと鋭い技術が合わさり、華麗に輝きを与えつつ、程よい圧縮をこの曲に与えていきます。


細かい音が連なって、繊細さとダイナミックスさを併せ持った演奏が繰り広げられていきます。


「ワルトシュタイン」も第1楽章が素晴らしく、子気味良いリズムに乗って細かい音が並び、音楽に素晴らしい推進力を与えていきます。


滑らかに、かつ、華麗に演奏されるホロヴィッツの技術には、しばしば息をのむ瞬間があります。華麗さが極まると、ピアノの音はまるで波飛沫を上げる、大海原の波のように思えてきます。


やはりベートーヴェンの音楽というのは、男らしい力強さが、圧縮された音楽の中に息づいているのもだと思います。当然詩情などもありますが、リズムや迫力を意識した演奏の方が楽しめるものが多いでしょうか。


ここに聴く、ホロヴィッツの演奏はそれに十分かなうものだと思いました。