幻想ポロネーズ |  ヒマジンノ国

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夜の帳がまだ降りきらない、夕頃。窓越しに、見える道路の向かい側にあるマンションの屋上から見える空は、幾分透明で、ダーク・ブルーの色味を残していました。向かいの、コンクリートを打ち放した、近代的な建物の窓々からはもう、生クリームの混じったようなオレンジ色の光が輝き、涼しげな風のある、暑かった日の暮れを、思い思いにともします。


マリア・ジョアン・ピリスの弾くピアノの音色は、金色に輝いていました。やや疲れて、ひと時休みをとろうと思った自分の心にショパンのポロネーズ7番、「幻想ポロネーズ」が、優しさと新鮮さを伴って響きました。それは、堅苦しい形式にとらわれない、美しくも、複雑な展開の音楽。ピリスは時折、聴き手を慰撫するように、あるいは、深く鋭い低音の独白を織り交ぜながら、自在に曲の表情を描き出します。


暑い日でした。しかし、その演奏は、その日に感じた、うだるような思いを内面から押し流して、洗い出していきます。 曲の幻想はここがまるで日本ではないかのように思わせ、濃い色彩の世界なのだと思わせます。


こんなに夜のひと時を、透明感と新鮮さをもって感じたのは、一体どれ程前でしょう?こんなにも世界は美しいのでしょうか。


ピリスは自分の住む日常がこんなに豊かで美しい表情を持っているのだと、改めて感じさせてくれました。2008年の録音です。





しっとりとしたバッハです。パルティータ1番、イギリス組曲3番、フランス組曲2番。


個人的にバロック音楽は古楽器の演奏を好みますが、バッハの鍵盤曲はチェンバロで演奏するとおもちゃ見たく聴こえることがあるので、ピアノで演奏してくれると、現実味が増して、安心です。


この、ピリスの演奏するバッハも愛情に満ちていて、僕にはとっても感動的でした。ゆったりとしたテンポで、豊かに描き分けられる、バッハの世界。彼女の心を感じます。


必要であれば充分テンポを落とし、慟哭にも似た表情を、精緻で、天才的なまでに平均的な、バッハの感性から引き出しもします。奥の広いバッハの世界に引き込まれていきました。


しかし、そこはあくまでバッハの音楽です。聴けば聴くほど、自分の心の調律が進んでいくのが分かります。


人はバッハの音楽によって、一つの、分裂しない、まとまりのある自身の心を獲得します。そしてその、調律された自分自身の心を感じる幸せ。それも今回は全てピリスのおかげです。


すっかり僕は彼女の虜になったようです。1994年の録音です。