クラウディオ・モンテヴェルディ |  ヒマジンノ国

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現在、一般にクラシック音楽のレパートリーはバロック期の総決算である、バッハ、ヘンデルあたりから始まっているようです。確かにバッハの持つ、それこそ完璧に近い、バランス感覚は後の時代の音楽の基礎をみたとき、非常な妥当性を持っていたように思われます。


バッハ以前の作曲家達が、あるルールを守りつつも、各自の奔放な欲求によって音楽を作っていたものが、ついにバッハにおいて一定の基準と、土台とを獲得していきました。感覚的に訴えることの少ないバッハの、世界全体を見渡すような調和性は、天才の産物という以外にありえないものでしょう。


「バッハによってバロック音楽は頂点に達した。彼は過去の一切を集大成し、将来に来るものの多くを見越していた。」


「私はまずバッハから稿を起こしたが、これはバッハ以前に偉大な作曲家がいないからではなく、バッハから真の生きたレパートリーが始まるからである。」


―――ハロルド・C・ショーンバーグ―――


バッハの作品は大量にあり、同時に、内容的にも「史上最高の作曲家」といわれるベートーヴェンと比べても、全く遜色ないものばかりでしょう。


僕はバッハの場合、宗教音楽の大作に魅力を感じます。一種の宗教劇である、バッハの、「マタイ受難曲」をクラシック音楽における最高傑作、とする人々もいます。

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しかしそれ以前の、ルネッサンス期から初期バロック期においても偉大な作曲家はいたわけで、ルネサンス期からバロック期にかけて活躍した、クラウディオ・モンテヴェルディ(1567-1643)なども素晴らしい才能を持っていました。専門家の、皆川達夫氏の著作から引用します。


「十六世紀ルネサンス音楽はポリフォニー書法を基調としていましたが、世紀末になるといささか硬直化の傾向が目立つようになります。音楽にもっとダイナミックで直截な表現を求める作曲家たちは、ポリフォニー技法に代わる新しい音楽書法を探求して、さまざまの試みをおこないました。

水の都ヴェネツィア(ヴェニス)で活躍していたジョヴァンニ・ガブリエリはいくつかの器楽合奏群や合唱曲を分割して協奏させるカンツォーナやソナタやシンフォニアを作曲していますし、フィレンツェ(フローレンス)のカメラータのグループは古代ギリシア劇の再生をはかってオペラを創始しました。

このような試みをさらに徹底していったのが、モンテヴェルディです。彼のオペラ作品によって、新しいバロック音楽の方向は決定的なものになりました。」


モンテヴェルディの音楽は美しく切ないものがあり、バロック初期の作曲家としてみても最大の存在でしょう。有名な「聖母マリアのためのヴェスプロ」はスケールが大きく、内容も当時のものとしては変化に富んでいて、大変に豊かな曲です。


あるいは牧歌的で、爽やかな、そよ風のように哀切なオペラ「オルフェオ」も素晴らしいです。




クラウディオ・モンテヴェルディ、「聖母マリアのためのヴェスプロ」。ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団、ヒズ・マジェスティーズ・サッグバッグ&コルネッツ。

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「聖母マリアのためのヴェスプロ」は曲の結部に、2部の「マニフィカート」を備えた長大な曲で、聖母マリアを讃えて、ヴェスプロ(晩課、つまり、夕べの祈り)を行うために作られました。


そして、この曲の啓蒙的な役割を果たしたとでもいうべき、イギリスの古楽指揮者、ジョン・エリオット・ガーディナーの演奏は、ややアカデミックな学究的印象がありますが、表現のはっきりした、明晰な名演といえると思います。演奏からは、ガーディナーのモンテヴェルディに対する、強い思いが伝わってきて、素晴らしいです。


この曲で僕が一番愛するのは、結部の2種類のマニフィカートではなく、ちょうどそのマニフィカートの前に置かれた、賛歌「Ave maris stella めでたし、海の星」です。豊かな8声部による壮麗な合唱が際立って美しく、録音の舞台となった、ヴェネチアのサン・マルコ寺院の透明な、天国的な残響も手伝って、心が透けるようです。


2部のマニフィカートも美しく、フレスコ画から天使達が、そのまま生きて飛び出してきたかのようです。このマニフィカートを聴くこと、それはまさに、天国的な空間を体験することに他なりません。


小さな羽根をぱたつかせながら、赤子のような天使達が、ゆるやかに教会の中を飛び回っているかのようです。




クラウディオ・モンテヴェルディ、オペラ「オルフェオ」。ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団、ヒズ・マジェスティーズ・サッグバッグ&コルネッツ。
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近代オペラの第一号として名高い、モンテヴェルディのオペラ「オルフェオ」です。密度が濃く完成度の高い作品で、ロマン派のオペラとはかけ離れた、切ない音楽が美しさの限りです。


永遠の春の国、アルカディア。若きオルフェーオとエウリディーチェは婚姻の喜びに酔います。しかし、その喜びの最中、オルフェーオの大事なエウリディーチェは蛇に咬まれ、他界してしまうのでした。


エウリディーチェを忘れられぬオルフェーオは黄泉の国に赴き、黄泉の国の支配者プルトーネにエウリディーチェを返して欲しいと頼みこむのですが・・・。


この作品は、日本のイザナギ、イザナミの神話に非常に似通った、ギリシア神話が題材になっています。


この作品を聴いていると、とても400年も前の作品とは思えません。まるで草原と、美しい森の木々とともに暮らしていた、ギリシアの時代の音楽を直接聴いているようでもあり、音楽は瑞々しさの限りでしょう。


ニンファと牧人達の合唱の、哀切な爽やかさから、僕は引きつけられ、第二幕のオルフェーオの溌剌とした力強い歌唱なども味わい深いです。管弦楽の豊かで、響きの美しい素晴らしさも、正直、ドニゼッティやベルリーニよりも上だと思います。本当に、モンテヴェルディの天才を思います。


この作品は神話の世界の、完全なファンタジーなんですが、その切実さは勝手我がままな妄想とは違い、今までみたこともないようなリアリティーの世界となるのです。


(今回書いた演奏は以前書いたオール・バロック・ボックスの中にはいっているものと、全く同じ音源です。)